株式会社スノーピーク 世界のアウトドアシーンを変えたスノーピーク流“イノベーションの起こし方” 株式会社スノーピーク 代表取締役 会長兼社長執行役員 山井 太  (2016年11月取材)

Vol.1 アウトドアの新スタイルをつくる決意

インタビュー内容

―アウトドアの新スタイルをつくる決意―

【山井】

小さい頃は、父から将来は自分の会社を継いでほしいようなことを言われたこともありましたが、実際に就職をするタイミングでは僕には何も言わなかったんですね。なので、自分で就職先を探して普通に就職しました。ハイブランドの輸入代理店業をやっている会社で、例えばシャネルとかカルティエとか、ヨーロッパのハイブランドの総代理店権を持っている会社に就職しました。

ヨーロッパのブランドを輸入して日本で販売するような会社でやっていましたが、企画営業のような形で商品開発にタッチしながら営業もするような仕事をやっていました。非常にその会社にはブランドがたくさんあって、いろいろなブランディングの勉強にはすごくなりましたね。

自分から言うと、高校生まで田舎で育っているので、8年半くらい東京で生活している中で、自然に対して自分自身が枯渇してしまったということがありまして。ビジネスパーソン的に言うと、当時はジャパンアズナンバーワンという本が売れていたりして、日本は経済的には成功していましたが、国民生活的に実感としてそんなに豊かではない時代だったんですよね。

一方で、車の登録台数の10%が四駆の車になっていて、アウトドアマインド、アウトドアをやりたい人達はたくさんいらっしゃるんだろうなと思いましたが、そういうことを実際に提供している会社は無かったんです。

父の会社に入ればそういうことができるんじゃないかなというふうに思いましたし、ちょうど就職してから3年くらい経った時に父から電話がかかってきて、3年経ったから帰って来いと、それまで何も言わなかったんですが、そういった帰って来いというコールもあったので、スノーピークに入りました。

86年の7月に入社して、87年の12月くらいまでにオートキャンプのアイテムを100アイテムくらいつくりまして、88年からそれを販売し始めました。なので、社内起業のような形で新規事業を一人で立ち上げるというようなことをやりました。

初年度は88年で、当時はスノーピークは年商5億円くらいでしたが、多分8,000万くらい売上が上がって、13パーセント売上を伸ばしたということで。その次の年からはもっと伸び率が激しく、93年にはスノーピークの売り上げは25.5億円までいったので、そういった新規事業を立ち上げてから5年後に売上を5倍くらいにしたわけですね。

自分自身が東京で学生時代からサラリーマン時代までに感じていたような、そういった登山ではないアウトドアというのを、新しいアウトドアの遊び方をみなさんが潜在的に待っていらっしゃったんだと思うんですよね。

車の登録台数の10%が四駆の車になっていたように、そういった潜在ニーズが高かったところに、オートキャンプというのはミニバンやSUVのような四駆の車にキャンプ用品を乗せていくキャンプのスタイルですので、非常に潜在ニーズにフィットした提案をした結果、そういった売上に繋がったというふうに思います。

―求める人材と視聴者へのメッセージ―

【山井】

一番大事なのは人でしょうね。我々も開発型の会社なので、新しい物をつくるクリエイティブな会社なので、クリエイティブな作業をするのはお金でもないし、物でもないので、人が一番資源として大事だと思います。

採用は今新卒の社員を主に採用しています。基本的にはちゃんとキャンプが好きで、小さい頃からできればスノーピークの製品でキャンプをやってきているような子供達が学生になり卒業の段階で我々の会社に入ってきて欲しいと思っているんですね。

それは、例えば経理の担当者でも総務でも、あまりキャンプと関係無い職種でも、できればそういう人達が入社して欲しいと思っていて、ほぼ90%くらいはそういう方々を採用しているんですが、我々は新卒に対して内定を出し、内定者の最終研修がヘッドクオーターズの一番寒い2月に雪中キャンプなんですね。あまりそういう人事政策を取っている会社は無いと思います。

あとは教育の面で我々が非常に他社と違うと思うのは、全ての職種の社員が『snow peak way』というイベントに参加をします。なので、どういう仕事をスノーピークの中でやっていても、最終的にご家族が幸せになっていらっしゃる姿を拝見しながらキャリアもちゃんと積み重ねて行けるので。我々のビジネスが何をつくっているかということを直感的に全員が理解している会社だと思うので、多分モチベーションの根源にはそれがあると思いますね。

スノーピークのミッションは、人間性の回復ということがコアなミッションだと思っているので、もっとそれが深く広く人間性が回復できるようなビジネス展開をしていきたいなと思いますね。

ある意味スノーピークをやるということは社会問題を解決することだと思っているので、先進国はより高度な文明社会になっていますし、発展途上国も先進国化してくるので、地球の中でスノーピークの製品・サービスのニーズは高まっていくと思うので。その時代の中でキラッと光るような製品・サービスをつくり続けて、より多くの方々をより深く人間性を回復させたいと思います。

―視聴者へのメッセージ―

【山井】

スノーピークは好きなことだけを仕事にしている会社なんですね。好きな人にしかできない製品やサービスをこれからも生み出していきたいと思います。

―イノベーションを生み出す独自の開発環境―

【山井】

スノ―ピークの製品は今800アイテムくらいありますが、その800全てが自社開発の製品なんですね。

基本的には我々もアウトドアパーソンとして、キャンパーとして、自分達が欲しい物で他に無いものをきちんとつくっている会社で、全ての製品には永久保証は付いていますし、他社の真似をしたことはありません。そもそもドームテント、タープ、システムデザインされたリーベンキッチンシステムというスタイル自体がスノーピークがつくったものなので。1つの製品も、例えばマイクロストーブとかのそれぞれのアイテムについても、我々がつくった後に他の会社が同じような製品をつくっているようなケースはたくさんありますね。

チャレンジをすることでしかイノベイティブな商品はできないと思うので、自由闊達な空気があって、スノーピークの中で何をやっても良い、何をつくっても良いですよという前提条件があります。

かつ、こういったキャンプ場の中に会社があるので、永久保証も付いているので、永久保証を付けるためにはフィールドテストの繰り返しで、このフィールドの中でその製品のクオリティを高め、使い勝手も高めて、スノーピークのロゴマークを与えて良い段階になったものしか製品にはしないというポリシーがあるので、非常にチャレンジングなクリエイティブな作業をやりつつ、品質のつくり込みはきちんとこういう環境の中でやるという2つが求められているのだと思います。

スノーピークの開発が他社と違うところがあるとすると、基本的には1製品1担当で、企画から金型を起こし、製品を製造し、お店に並んでパッケージとか、あとはお店の中でのディスプレイとかも含めて一人の人が追いかけてやります。

ですので、この製品が例えば山井という人間がつくりました、だから僕にインタビューしてくれれば、この製品をなぜつくったかということが自分の言葉で語れるという製品になっているんですね。もちろんマイルストーンの中で、クリエイティブレビューで僕も参加して意見を言いますし、個人の力だけで開発をしているわけではなく、当然チームの力として高められて品質が高くなりつつ製品化されますが、基本的にはプロダクトの担当は一人なんですね。なので、全てにタッチができるんです。

スノーピーク以外のいろいろな会社の開発やデザインの現場はパートごとに分業になっていると思いますので、一体誰がその製品をつくっているのか分からない。本当に僕が作った製品であれば僕がちゃんと欲しいですと言える製品のレベルまで追いかけることができますが、それが分業ではできないと思いますね。

例えば自動車メーカーさんは車だけしかつくらないので、例えばハンドルだけをデザインしている人がずっといるかもしれませんが、スノーピークは自動車だけをつくっている会社では無いんですね。アウトドアで暮らしをする全ての製品群をつくっているので、同じ製品をつくり続けるということはあまり無いですね。なので、パートごとに分業が逆に言うと成り立たない会社なのかもしれないですね。

―「人間性の回復」を目指す―

【山井】

キャンプの日本における人口というのは、人口の7%くらいしかないんですね。93%の人は非キャンパーでいらっしゃる。

スノーピークのビジネスの根源的な価値というのは人間性の回復だと思っていまして。先進国に住んでいらっしゃる方特有の文明によるストレスということを自然の中で癒すということは我々の存在理由であり、ミッションだと思っています。

それを考えた時に、キャンプをやっている方々は土日などのお休みの日に、自然の中に行かれてある程度人間性が回復されたりとか、自然の中でご家族で親密な時間を過ごすことによって、幸せになっていらっしゃったりするんですが、キャンプやらない人達はキャンプをやっている人に比べると人間性が回復されていないというところにビジネスチャンスがありますし、我々のミッションをもっと拡大できるという余地があると思って、『アーバンアウトドア』という言葉をつくって、そういう事業展開を始めているところなんですね。

スノーピークの社員、僕もそうですけど、キャンパーでもあり、生活者でもあるので、両方ともユーザーとしての感覚を持っているわけですね。

海外にスノーピークが行き始めたのは1999年の年からです。99年にまずアメリカに行き、2001年にヨーロッパに行き、2003年にアジア、韓国とか台湾ということで世界展開を始めたわけですね。

日本以外の国でスノーピークの製品が売られていることに対して、例えばアメリカに行った日本のお客さんが非常に喜んで下さったりとか。スノーピークは日本発のブランドなので、今20ヵ国でビジネスをやっていますが、外国に行った時に一番喜んで下さっているのは日本のユーザーさんだと思いますね。

キャンプのスタイルは欧米と日本で大きく違っていて、欧米は主にバックパッキングという一人用のテントで、それをバックパックにして歩いて寝る。旅行の手段としてのキャンプというのが主流ですが、日本・韓国・台湾というのは、日本で生まれたスノーピークのような会社がつくったオートキャンプの文化が韓国・台湾にはありまして、そういう意味では欧米とアジアのマーケットは少し違うかもしれないですね。

2014年の秋冬からアパレルに本格的に参入したりとか、ここ2、3年、『アーバンアウトドア』という商品群をつくってそういうビジネスをやったりしています。都市空間で一つ自然をつなぐような事業でして、例えばマンションの中とか、一戸建ての住宅の中とか、オフィスだとか、そういうアウトドアのフィールド以外の空間にもスノーピークの製品を提供し始めています。

『アーバンアウトドア』以外でスノーピークが事業化しようとしていることは、例えばグランピングという、グラマラスキャンピングという最近すごくメディアでグランピングという言葉が踊っていますが、少し豊かで贅沢なキャンプのスタイル。オートキャンプの場合はご自身でキャンプのグッズを買って車に積んで移動するということですが、グランピングは我々の方が用意をして、食事も全部出す。ですので、そこに来られる方々は手ぶらで来て、設営も撤収も無く、メリットだけを享受してお帰りになるような、少し贅沢なキャンプを今、仕掛けていますね。

あとは地方創生に結構関わっていて、特に都市部以外の地方には豊かな自然がたくさんあるので、アウトドアでそういった地域を創生するようなコンサルをスノーピークがやり、その地域と一体になって地方創生をやるようなことを、今20ヶ所くらいで展開しています。

僕自身も、他社がやっていることをそのままやるということはあまり好きではないんですね。スノーピークにしかできないこと、できればブルーオーシャンで市場が無いところで、我々が製品やサービスをつくることによってマーケットやお客さんができるようなビジネスだけをやっていきたいんですね。

『The snow peak way』というミッションステートメントは変わらないし、自然と人というテーマも変わらないと思いますが、逆に言えばそれは変わらないけど事業内容は変わっていく会社だと思いますね。

―ユーザーから得た学びと改革―

【山井】

1994年から99年までの6期、スノーピークは売上を落として、99年のボトムの時の売り上げは14.5億円だったので、22.5から14.5まで坂道を転げ落ちるように売上が落ちたんですね。

理由としては2つあったと思いますが、1つはブームが去ってしまったということです。

2つ目は、人口構成比の問題がありまして。オートキャンプというのはファミリーキャンプが90%くらいを占めているので、お子さんが中学校にあがった途端にオートキャンプは行かなくなるんですね。

ですので、お子さんが小学校6年生までの世帯数というのがある程度マーケットを形成するんですが、最初のブーム時の親御さんが団塊の世代で、お子さん達が団塊ジュニアの世代だったので、その世代の親子さんが大量にキャンプに行かれた後、人口のくびれが来ますので、人数的にも減ったんだと思いますし、その2つが起因していると思いますね。

僕自身はそんなに、もちろん売上が落ちることは良くないことですが、そんなに深刻には考えて無かったんですけれども、ただ、このまま放っておけないということはすごく思っていて。自分達の事業の存在理由が何なのかとか、我々のビジネスのやり方がそれで良いのかということはもちろん考えていました。

1998年にキャンプのイベントを始めました。スノーピークのミッションステートメントの名前が『The snow peak way』という名前なんですが、それと同じ名前の『snow peak way』というイベントを98年の10月に初めて開催したんですね。

それまでもちろんブランドメーカーなので、BtoCのビジネスだったんですが、正確に言うとBtoBtoCみたいなビジネスです。我々がコンタクトしていたのは問屋さんや小売屋さんで、ユーザーさんと直接お話するようなことは無かったんですね。自分達がユーザーとして開発はしていましたが、実際に使っているユーザーの方と我々が直接お会いしてお話をするようなことはあまりありませんでした。

98年の10月のイベントで初めて消費者のみなさん、後のその方はスノーピーカーと呼ばれるんですが、そのスノーピーカーの方達と初めてキャンプをご一緒させて頂いたんですね。

その時に我々に対して強いフィードバックが2つありまして。1つはスノーピークの製品が非常に高いということを全員がおっしゃいました。もう1つは、みなさんの生活圏の中でスノーピークの物が買えるお店は4店舗、5店舗とあったんですが、どのお店に行っても品揃えが悪くて、実際に商品を買えませんというフィードバック。なので、簡単に言うと、高い、買えないという強烈なフィードバックが2つあったんですね。

土日にイベントがあったので、日曜に帰る時に最終的に腹をくくらないといけないなと思っていまして。売上も5期くらい落ちていましたので、今のままのビジネスを継続していくことはできないな、と。薄々やらなければならないことには気付いていたんですが、その最終決断をユーザー様のフィードバックでしたんですね。

次の月曜日の朝礼で社員の前で、1999年のビジネスはその時点で契約が終わっていたので、1998年と同じものを継続しなければいけなかったんですが、2000年のシーズンからは変えることができる。そのシーズンからは問屋さんとのお取引を辞めるということと、あとは販売店さんが1,000店舗理想とかに乗っていましたが、1商圏1店舗にして、全てのスノーピークの製品を置いて下さる店舗のお取引にすると。

なので、問屋を外して、お店も4分の1に減らすというようなことを決断して、月曜の朝礼で言いました。

我々の真のお客様は問屋さんでもなく、小売店さんでも無く、ユーザーさんですよね。ユーザーさんから高い、買えないというフィードバックがあったので、少なくとも買える値段にして、買える品揃えがあるお店が車で30分から1時間以内にあるということが、最低限言って下さったことに対する僕らの誠意のある回答だと思いました。

実際に物が35%安くなり、2000年のシーズンからユーザーさんが車で30分から1時間移動すれば物が買えるようになりました。マーケットも2000年から2010年くらいも縮小していたと思いますが、スノーピークの売上は2000年から2010年の売上は2倍になりました。

―アウトドアの新スタイルをつくる決意―

【山井】

小さい頃は、父から将来は自分の会社を継いでほしいようなことを言われたこともありましたが、実際に就職をするタイミングでは僕には何も言わなかったんですね。なので、自分で就職先を探して普通に就職しました。ハイブランドの輸入代理店業をやっている会社で、例えばシャネルとかカルティエとか、ヨーロッパのハイブランドの総代理店権を持っている会社に就職しました。

ヨーロッパのブランドを輸入して日本で販売するような会社でやっていましたが、企画営業のような形で商品開発にタッチしながら営業もするような仕事をやっていました。非常にその会社にはブランドがたくさんあって、いろいろなブランディングの勉強にはすごくなりましたね。

自分から言うと、高校生まで田舎で育っているので、8年半くらい東京で生活している中で、自然に対して自分自身が枯渇してしまったということがありまして。ビジネスパーソン的に言うと、当時はジャパンアズナンバーワンという本が売れていたりして、日本は経済的には成功していましたが、国民生活的に実感としてそんなに豊かではない時代だったんですよね。

一方で、車の登録台数の10%が四駆の車になっていて、アウトドアマインド、アウトドアをやりたい人達はたくさんいらっしゃるんだろうなと思いましたが、そういうことを実際に提供している会社は無かったんです。

父の会社に入ればそういうことができるんじゃないかなというふうに思いましたし、ちょうど就職してから3年くらい経った時に父から電話がかかってきて、3年経ったから帰って来いと、それまで何も言わなかったんですが、そういった帰って来いというコールもあったので、スノーピークに入りました。

86年の7月に入社して、87年の12月くらいまでにオートキャンプのアイテムを100アイテムくらいつくりまして、88年からそれを販売し始めました。なので、社内起業のような形で新規事業を一人で立ち上げるというようなことをやりました。

初年度は88年で、当時はスノーピークは年商5億円くらいでしたが、多分8,000万くらい売上が上がって、13パーセント売上を伸ばしたということで。その次の年からはもっと伸び率が激しく、93年にはスノーピークの売り上げは25.5億円までいったので、そういった新規事業を立ち上げてから5年後に売上を5倍くらいにしたわけですね。

自分自身が東京で学生時代からサラリーマン時代までに感じていたような、そういった登山ではないアウトドアというのを、新しいアウトドアの遊び方をみなさんが潜在的に待っていらっしゃったんだと思うんですよね。

車の登録台数の10%が四駆の車になっていたように、そういった潜在ニーズが高かったところに、オートキャンプというのはミニバンやSUVのような四駆の車にキャンプ用品を乗せていくキャンプのスタイルですので、非常に潜在ニーズにフィットした提案をした結果、そういった売上に繋がったというふうに思います。

―ユーザーから得た学びと改革―

【山井】

1994年から99年までの6期、スノーピークは売上を落として、99年のボトムの時の売り上げは14.5億円だったので、22.5から14.5まで坂道を転げ落ちるように売上が落ちたんですね。

理由としては2つあったと思いますが、1つはブームが去ってしまったということです。

2つ目は、人口構成比の問題がありまして。オートキャンプというのはファミリーキャンプが90%くらいを占めているので、お子さんが中学校にあがった途端にオートキャンプは行かなくなるんですね。

ですので、お子さんが小学校6年生までの世帯数というのがある程度マーケットを形成するんですが、最初のブーム時の親御さんが団塊の世代で、お子さん達が団塊ジュニアの世代だったので、その世代の親子さんが大量にキャンプに行かれた後、人口のくびれが来ますので、人数的にも減ったんだと思いますし、その2つが起因していると思いますね。

僕自身はそんなに、もちろん売上が落ちることは良くないことですが、そんなに深刻には考えて無かったんですけれども、ただ、このまま放っておけないということはすごく思っていて。自分達の事業の存在理由が何なのかとか、我々のビジネスのやり方がそれで良いのかということはもちろん考えていました。

1998年にキャンプのイベントを始めました。スノーピークのミッションステートメントの名前が『The snow peak way』という名前なんですが、それと同じ名前の『snow peak way』というイベントを98年の10月に初めて開催したんですね。

それまでもちろんブランドメーカーなので、BtoCのビジネスだったんですが、正確に言うとBtoBtoCみたいなビジネスです。我々がコンタクトしていたのは問屋さんや小売屋さんで、ユーザーさんと直接お話するようなことは無かったんですね。自分達がユーザーとして開発はしていましたが、実際に使っているユーザーの方と我々が直接お会いしてお話をするようなことはあまりありませんでした。

98年の10月のイベントで初めて消費者のみなさん、後のその方はスノーピーカーと呼ばれるんですが、そのスノーピーカーの方達と初めてキャンプをご一緒させて頂いたんですね。

その時に我々に対して強いフィードバックが2つありまして。1つはスノーピークの製品が非常に高いということを全員がおっしゃいました。もう1つは、みなさんの生活圏の中でスノーピークの物が買えるお店は4店舗、5店舗とあったんですが、どのお店に行っても品揃えが悪くて、実際に商品を買えませんというフィードバック。なので、簡単に言うと、高い、買えないという強烈なフィードバックが2つあったんですね。

土日にイベントがあったので、日曜に帰る時に最終的に腹をくくらないといけないなと思っていまして。売上も5期くらい落ちていましたので、今のままのビジネスを継続していくことはできないな、と。薄々やらなければならないことには気付いていたんですが、その最終決断をユーザー様のフィードバックでしたんですね。

次の月曜日の朝礼で社員の前で、1999年のビジネスはその時点で契約が終わっていたので、1998年と同じものを継続しなければいけなかったんですが、2000年のシーズンからは変えることができる。そのシーズンからは問屋さんとのお取引を辞めるということと、あとは販売店さんが1,000店舗理想とかに乗っていましたが、1商圏1店舗にして、全てのスノーピークの製品を置いて下さる店舗のお取引にすると。

なので、問屋を外して、お店も4分の1に減らすというようなことを決断して、月曜の朝礼で言いました。

我々の真のお客様は問屋さんでもなく、小売店さんでも無く、ユーザーさんですよね。ユーザーさんから高い、買えないというフィードバックがあったので、少なくとも買える値段にして、買える品揃えがあるお店が車で30分から1時間以内にあるということが、最低限言って下さったことに対する僕らの誠意のある回答だと思いました。

実際に物が35%安くなり、2000年のシーズンからユーザーさんが車で30分から1時間移動すれば物が買えるようになりました。マーケットも2000年から2010年くらいも縮小していたと思いますが、スノーピークの売上は2000年から2010年の売上は2倍になりました。

―「人間性の回復」を目指す―

【山井】

キャンプの日本における人口というのは、人口の7%くらいしかないんですね。93%の人は非キャンパーでいらっしゃる。

スノーピークのビジネスの根源的な価値というのは人間性の回復だと思っていまして。先進国に住んでいらっしゃる方特有の文明によるストレスということを自然の中で癒すということは我々の存在理由であり、ミッションだと思っています。

それを考えた時に、キャンプをやっている方々は土日などのお休みの日に、自然の中に行かれてある程度人間性が回復されたりとか、自然の中でご家族で親密な時間を過ごすことによって、幸せになっていらっしゃったりするんですが、キャンプやらない人達はキャンプをやっている人に比べると人間性が回復されていないというところにビジネスチャンスがありますし、我々のミッションをもっと拡大できるという余地があると思って、『アーバンアウトドア』という言葉をつくって、そういう事業展開を始めているところなんですね。

スノーピークの社員、僕もそうですけど、キャンパーでもあり、生活者でもあるので、両方ともユーザーとしての感覚を持っているわけですね。

海外にスノーピークが行き始めたのは1999年の年からです。99年にまずアメリカに行き、2001年にヨーロッパに行き、2003年にアジア、韓国とか台湾ということで世界展開を始めたわけですね。

日本以外の国でスノーピークの製品が売られていることに対して、例えばアメリカに行った日本のお客さんが非常に喜んで下さったりとか。スノーピークは日本発のブランドなので、今20ヵ国でビジネスをやっていますが、外国に行った時に一番喜んで下さっているのは日本のユーザーさんだと思いますね。

キャンプのスタイルは欧米と日本で大きく違っていて、欧米は主にバックパッキングという一人用のテントで、それをバックパックにして歩いて寝る。旅行の手段としてのキャンプというのが主流ですが、日本・韓国・台湾というのは、日本で生まれたスノーピークのような会社がつくったオートキャンプの文化が韓国・台湾にはありまして、そういう意味では欧米とアジアのマーケットは少し違うかもしれないですね。

2014年の秋冬からアパレルに本格的に参入したりとか、ここ2、3年、『アーバンアウトドア』という商品群をつくってそういうビジネスをやったりしています。都市空間で一つ自然をつなぐような事業でして、例えばマンションの中とか、一戸建ての住宅の中とか、オフィスだとか、そういうアウトドアのフィールド以外の空間にもスノーピークの製品を提供し始めています。

『アーバンアウトドア』以外でスノーピークが事業化しようとしていることは、例えばグランピングという、グラマラスキャンピングという最近すごくメディアでグランピングという言葉が踊っていますが、少し豊かで贅沢なキャンプのスタイル。オートキャンプの場合はご自身でキャンプのグッズを買って車に積んで移動するということですが、グランピングは我々の方が用意をして、食事も全部出す。ですので、そこに来られる方々は手ぶらで来て、設営も撤収も無く、メリットだけを享受してお帰りになるような、少し贅沢なキャンプを今、仕掛けていますね。

あとは地方創生に結構関わっていて、特に都市部以外の地方には豊かな自然がたくさんあるので、アウトドアでそういった地域を創生するようなコンサルをスノーピークがやり、その地域と一体になって地方創生をやるようなことを、今20ヶ所くらいで展開しています。

僕自身も、他社がやっていることをそのままやるということはあまり好きではないんですね。スノーピークにしかできないこと、できればブルーオーシャンで市場が無いところで、我々が製品やサービスをつくることによってマーケットやお客さんができるようなビジネスだけをやっていきたいんですね。

『The snow peak way』というミッションステートメントは変わらないし、自然と人というテーマも変わらないと思いますが、逆に言えばそれは変わらないけど事業内容は変わっていく会社だと思いますね。

―イノベーションを生み出す独自の開発環境―

【山井】

スノ―ピークの製品は今800アイテムくらいありますが、その800全てが自社開発の製品なんですね。

基本的には我々もアウトドアパーソンとして、キャンパーとして、自分達が欲しい物で他に無いものをきちんとつくっている会社で、全ての製品には永久保証は付いていますし、他社の真似をしたことはありません。そもそもドームテント、タープ、システムデザインされたリーベンキッチンシステムというスタイル自体がスノーピークがつくったものなので。1つの製品も、例えばマイクロストーブとかのそれぞれのアイテムについても、我々がつくった後に他の会社が同じような製品をつくっているようなケースはたくさんありますね。

チャレンジをすることでしかイノベイティブな商品はできないと思うので、自由闊達な空気があって、スノーピークの中で何をやっても良い、何をつくっても良いですよという前提条件があります。

かつ、こういったキャンプ場の中に会社があるので、永久保証も付いているので、永久保証を付けるためにはフィールドテストの繰り返しで、このフィールドの中でその製品のクオリティを高め、使い勝手も高めて、スノーピークのロゴマークを与えて良い段階になったものしか製品にはしないというポリシーがあるので、非常にチャレンジングなクリエイティブな作業をやりつつ、品質のつくり込みはきちんとこういう環境の中でやるという2つが求められているのだと思います。

スノーピークの開発が他社と違うところがあるとすると、基本的には1製品1担当で、企画から金型を起こし、製品を製造し、お店に並んでパッケージとか、あとはお店の中でのディスプレイとかも含めて一人の人が追いかけてやります。

ですので、この製品が例えば山井という人間がつくりました、だから僕にインタビューしてくれれば、この製品をなぜつくったかということが自分の言葉で語れるという製品になっているんですね。もちろんマイルストーンの中で、クリエイティブレビューで僕も参加して意見を言いますし、個人の力だけで開発をしているわけではなく、当然チームの力として高められて品質が高くなりつつ製品化されますが、基本的にはプロダクトの担当は一人なんですね。なので、全てにタッチができるんです。

スノーピーク以外のいろいろな会社の開発やデザインの現場はパートごとに分業になっていると思いますので、一体誰がその製品をつくっているのか分からない。本当に僕が作った製品であれば僕がちゃんと欲しいですと言える製品のレベルまで追いかけることができますが、それが分業ではできないと思いますね。

例えば自動車メーカーさんは車だけしかつくらないので、例えばハンドルだけをデザインしている人がずっといるかもしれませんが、スノーピークは自動車だけをつくっている会社では無いんですね。アウトドアで暮らしをする全ての製品群をつくっているので、同じ製品をつくり続けるということはあまり無いですね。なので、パートごとに分業が逆に言うと成り立たない会社なのかもしれないですね。

―求める人材と視聴者へのメッセージ―

【山井】

一番大事なのは人でしょうね。我々も開発型の会社なので、新しい物をつくるクリエイティブな会社なので、クリエイティブな作業をするのはお金でもないし、物でもないので、人が一番資源として大事だと思います。

採用は今新卒の社員を主に採用しています。基本的にはちゃんとキャンプが好きで、小さい頃からできればスノーピークの製品でキャンプをやってきているような子供達が学生になり卒業の段階で我々の会社に入ってきて欲しいと思っているんですね。

それは、例えば経理の担当者でも総務でも、あまりキャンプと関係無い職種でも、できればそういう人達が入社して欲しいと思っていて、ほぼ90%くらいはそういう方々を採用しているんですが、我々は新卒に対して内定を出し、内定者の最終研修がヘッドクオーターズの一番寒い2月に雪中キャンプなんですね。あまりそういう人事政策を取っている会社は無いと思います。

あとは教育の面で我々が非常に他社と違うと思うのは、全ての職種の社員が『snow peak way』というイベントに参加をします。なので、どういう仕事をスノーピークの中でやっていても、最終的にご家族が幸せになっていらっしゃる姿を拝見しながらキャリアもちゃんと積み重ねて行けるので。我々のビジネスが何をつくっているかということを直感的に全員が理解している会社だと思うので、多分モチベーションの根源にはそれがあると思いますね。

スノーピークのミッションは、人間性の回復ということがコアなミッションだと思っているので、もっとそれが深く広く人間性が回復できるようなビジネス展開をしていきたいなと思いますね。

ある意味スノーピークをやるということは社会問題を解決することだと思っているので、先進国はより高度な文明社会になっていますし、発展途上国も先進国化してくるので、地球の中でスノーピークの製品・サービスのニーズは高まっていくと思うので。その時代の中でキラッと光るような製品・サービスをつくり続けて、より多くの方々をより深く人間性を回復させたいと思います。

スノーピークは好きなことだけを仕事にしている会社なんですね。好きな人にしかできない製品やサービスをこれからも生み出していきたいと思います。


経営者プロフィール

氏名 山井 太
役職 代表取締役 会長兼社長執行役員

会社概要

社名 株式会社スノーピーク
本社所在地 新潟県三条市中野原456
設立 1971
業種分類 水産・農林業
代表者名 山井 太
従業員数 697 名
WEBサイト https://www.snowpeak.co.jp/
事業概要 アウトドア用品、ナチュラルライフスタイルプロダクツ製造販売
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