AIで世界の医療に変革を! 東大発ベンチャー「平等な医療」実現への挑戦 ~AIを活用した生命科学領域特化の画像解析ソフトウェアを開発・提供するベンチャー~

エルピクセル株式会社
代表取締役 島原 佑基

島原 佑基(しまはら ゆうき)/東京大学大学院修士(生命科学)。大学では、人工光合成、細胞小器官の画像解析とシミュレーションの研究を行う。卒業後はゲームアプリを開発・提供している大手企業に入社。その後、KLab株式会社に2年間勤務し、東南アジア圏などでの海外事業開発を手掛ける。同社に在籍中だった2014年、エルピクセル株式会社を設立、代表取締役(CEO)として現在に至る。経済産業省の「始動 Next Innovator 2015」に選抜された実績を持つ。

本ページ内の情報は2016年12月時点のものです。

エルピクセル株式会社は、2014年、東京大学の研究室メンバーら3名で立ち上げた大学発ベンチャーであり、AIを活用したライフサイエンス領域(医療・製薬・農業)の画像解析ソフトウェアの開発・提供を主力事業としている。
同社代表取締役、島原佑基氏は、21世紀を「バイオ×IT」の時代だと位置づけ、ビッグデータを活用し、精度の高い医療診断を医師の技量とは関係なく受けられる「平等な医療」の実現を目指している。島原社長のインタビューを通じ、医療現場の新たな姿を垣間見ることができた。

“自分にしか出来ないこと”を探して

これまでのご経歴や会社設立までの経緯についてお聞かせ頂けますか?

島原 佑基:
弊社は東京大学の研究室メンバー3名で立ち上げた、いわゆる大学発ベンチャー企業です。大学では、もともと医療、製薬、農業といったライフサイエンス領域における画像解析を研究していました。幼少期から工作や実験が好きだったので、もともとは機械工学の分野に興味がありました。しかし、iPS細胞の発見をニュースで見た時、「21世紀は生物の時代だ」と思い、生物学の道に進むことを決めました。

私は常々、“自分にしかできないことをやりたい”と考えていました。学部生の時は、遺伝子工学や合成生物学を専攻しましたが、大学院に進んで、より研究を深めていこうと思った時に、生物のエンジニアリングはそもそもまだ研究があまりに進んでおらず、すぐに社会に還元できるような研究成果を出すことは難しいと考えました。自分がこれまで培ってきた生物学の知識を使った研究がほかにもないかと考えていた際に出会ったのが、画像解析でした。

大学院で画像解析の研究をしていく中で、私自身のように生物学のバックグラウンドを持ち、画像解析を行える人間が極めて少ないということに気が付きました。だからこそ、これを事業として展開していけば、競合優位性を保つことができ、この分野で自身がパイオニアになれるのではないかと考えたのです。

大学院を卒業されてから、すぐに起業されたのでしょうか?

島原 佑基:
画像解析を事業として会社を作るという選択肢も考えていましたが、まだ具体的なビジネスモデルを構築するまでには至っていませんでした。いずれにしろ、一度社会に出て、グローバルな経験と企業経営のノウハウなどを学びたいと思い、卒業後はゲームアプリを開発・提供している業界大手企業に就職しました。しかし、配属は経営企画や人事などの部署が多く、グローバルな経験は積めませんでした。そこで、KLab株式会社というIT会社に転職してアジア・アメリカ圏での海外事業開発などの仕事を行い、経験を積み重ねていきました。その当時に週末の副業として大学の研究メンバーと共に立ち上げたのが、LPixelです。

現在に至るまでの軌跡

御社が創業されてから現在までの3年間、どのような事業展開をされてきたのでしょうか?

島原 佑基:
1年目は受託ビジネスを中心に行っておりました。起業当初、研究室では40件の共同研究を抱えていましたので、それらを受託に切り替え、ビジネスをスタートさせたのです。その後、ホームページの開設や展示会への参加、研究関係の繋がりなどから少しずつ顧客を増やしていきました。最初の1年は、ビジネスを学びながら今後の方向性を探っていたという形です。最初から事業計画を立てて売上を上げようとしていたら大変だったと思うのですが、試行錯誤を繰り返しつつ、面白いことを追求し続けられたので、よいスタートを切れたのではないかと思います。

2年目になると、毎期ごとに人員を増やすことができるようになってきました。また、1年目にしっかりと成果を出すことができたおかげで、2年目からは民間企業からの依頼も増えてきました。受託事業で出た利益で、自社開発にも注力することができるような、よい循環を持った事業形態にシフトすることができ、自社製品をどの方向に絞るかを試行錯誤していたフェーズでもありましたね。

3年目は、医療分野と、研究者を手助けする画像解析、そして論文の画像不正を検出するソフトウェアの開発に注力しました。また、シンガポールにジョイントベンチャーを作るなど、海外展開にも力を入れた1年でした。医療分野の画像診断に関して言えば、現在実用レベルに来ているものもあります。また、開発費としてベンチャーキャピタルから7億円の資金提供を受けることもできました。多少赤字を出したとしても、スピードを重視し、人材を確保して開発を行うなど、いわゆるベンチャーらしさが出てきたのが3年目だと思います。

医療・科学を加速させる3つのプロダクト

自社の画像解析ソフトウェアで実現可能な未来を語る島原社長。地域間の医療格差を解消する一手となるか。

御社では3つの製品を主に扱っているということですが、それぞれについて詳しくお伺いできますか?

島原 佑基:
1つ目は医療分野における画像診断ソフトウェアです。医師の技量によって、診断はどうしても異なってしまうというのが現状です。医者が考える医学と、患者さんが考える医学には大きな差があります。その溝を埋めるためには、より定量的な医療を提供することが今後重要になってくるのだと思います。例えば、東京の有名クリニックで受ける医療と、医師の数が不足している地方のクリニックとでは、医療の質に差が出てしまうことがあります。それを是正するために、我々はいわば優秀な医師のAIを作ろうとしています。そのAIがあれば、全世界どこにいても平等な医療を受けることができるのです。
健康診断などでは、1人の医者が膨大な数のレントゲンやCT画像を見て、診断していきますよね。しかし、医師1人の情報処理能力には限界があります。我々のソフトは、そういった様々な画像データを包括的にビッグデータで解析して、診断の精度を上げ、病気の早期発見に繋げることができます。それによって、救われる命がたくさんあると思うのです。医師とAI、双方がそれぞれ切磋琢磨して、医療のレベルを底上げすることにもなると期待します。

2つ目は、ライフサイエンスの研究領域における画像解析クラウドサービスです。昨今、画像解析はバイオ系の研究には必要不可欠になってきておりますが、まだまだ大学でそれをきちんと学ぶ人は少ないのが現状です。細胞の数を数えたりといった、研究者が行っていた作業部分をAIが代行することで、研究者は純粋に研究部分に集中することができます。そうすることで研究の効率があがり、科学を加速させることができるのではないかと考えています。

3つ目は論文の画像に不正がないかどうか診断するツールです。画像が加工されていたり、盗用されていないかどうかを調べることができます。科学は連続的なものなので、その中でひとつでも不正なものが入ってしまっていたら、全く違う結果が出てしまい、研究にかけた時間も労力も無駄になってしまいます。しかし、すでに人の手や目だけでは、その不正を監視することは難しくなってきています。善良な研究者の地位を守るためにも、使命感を持って取り組んでいきたいと思います。

ライフサイエンスにおける日本版Googleを目指して

御社の今後の展望についてお聞かせ頂けますか?

島原 佑基:
弊社は大学発ベンチャーとして、「研究の世界から革新とワクワクを!」というミッションを掲げています。売上も重要ですが、それ以上に研究室のスピンアウトらしく、ワクワクするものを中心にやっていこうという文化を大切していきたいと思っています。研究室でもなく、企業でもない、その中間に位置する大学発ベンチャーとしてのロールモデルになりたいと考えているのです。そうすることで、優秀な人材が自然と集まり、よりよい開発に繋がり、それがまた利益を生み、その利益で開発をすることができる、といったように、いい循環を作ることを目指しています。いわばライフサイエンスにおける日本版Googleのような企業になりたいですね。

直近での目標などはありますか?

島原 佑基:
今、我々が作っているソフトウェアの医療機器認定を目指していて、その承認を取ることが当面の目標です。機械学習や人工知能を用いたプロダクトに対して、承認を出してもらえたという事例を作り、保険点数をつけられるような世界を実現したいと思っています。

求める人物像

上記を踏まえ、御社ではどのような人材を求めていますか?

島原 佑基:
今、我々はエンジニアを必要としています。ビジネス方面の人材はある程度揃ってきました。医療業界に詳しい人もたくさんいます。しかし、今は依頼に対して開発が追いつかない状態です。放射線科、皮膚科、内科、外科といった様々な領域、症状で解析のテーマを頂きます。そこに対応し切れるだけの開発能力が足りていないのが現状ですので、今後どんどん研究者を増やしていきたいと考えています。

編集後記

癌検診などでの画像診断の精度を上げ、早期発見に繋げることができる同社のAIツールは、多くの命を救うきっかけになるばかりではなく、地域間、または国家間の医療技術の偏りを是正する一助にもなる。島原社長が語る同社の今後は、まさに長寿大国である日本の未来に必要不可欠なものになるだろうと感じた。また、こうした大学発のベンチャー企業が、自由な発想で真摯に研究に取り組み、よりよい製品やサービスを提供していくための土壌作りが、21世紀を支える技術を生み出すためにも、今後重要になってくるのだろう。


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