株式会社TESS ~世界で唯一の足こぎ車いす『COGY』を製造・販売する東北大発ベンチャー~

半身不随でも歩きたい。 あきらめない人に贈る「車いす」


株式会社TESS 代表取締役 鈴木 堅之

本ページ内の情報は2016年10月当時のものです。

世界初となる足で漕ぐ車いす『COGY』を製造・販売する東北大学発ベンチャー企業、株式会社TESS。『COGY』は脊髄反射という無意識の動作を利用し、わずかな力があれば歩行困難な人でも自分の両足でペダルを漕いで自由に走り回ることができる車いすだ。

「あなたの乗る車いすが、あなたの足を動かすきっかけになれないか。」そんな思いから『COGY』を生み出した同社代表取締役、鈴木堅之氏に『COGY』で実現したい社会について伺った。

※『COGY』の試乗映像はこちらからご覧頂けます。

鈴木 堅之(すずき けんじ)/静岡県伊豆市出身。宮沢賢治に憧れ盛岡大学に進学し、知的障がい者更生施設指導員、理学療法士の養成学校を経て、山形県の公立学校教員に転ずる。クラスに車いすの児童がいたことをきっかけに東北大学で研究されていた足こぎ車いすに出会い、その製品化に関わりたいと同大学が立ち上げたベンチャー企業に入社。同社は廃業となるが、足こぎ車いすの知財を受け継ぎ、2008年に株式会社TESSを創業。足こぎ車いす『COGY』の製造・販売を担う。

半身不随でも両足で漕げる車いす

-(車いすを漕ぐ映像を見て)すごいですね。

鈴木 堅之:
この子は生まれてからまったく動けない子です。筋肉に力が入らなくなる病気で、座っても立ってもいられず、手足も動かない。普段は抱えられ、車いすで介護されていますが、『COGY』に試乗したところ、漕いで走らせることができました。

この子は自転車に乗りたかったのです。同じくらいの男の子たちが自転車でびゅんびゅん走りまわっている姿を見て、自分も乗りたいなあと思った。そこで『COGY』に問い合わせが来ました。

でも、ご両親や学校の先生は、乗れるわけないだろうと思っていたのです。無理だと言い聞かせたくて試してみたら、漕ぐことができた。手も使えないはずなのに、ぎゅっとハンドルを変えて『COGY』を操っている。今、病院の方まで行って、自分のような寝たきりの子どもたちに「僕だって動けるんだぞ」と見せて戻ってきていますね。お母さんはこの時、号泣されていました。

※通常、人が歩行するときは脳からの信号が脊髄を介して足を動かすが、足が不自由な人は脳からの指令がうまく足に伝わらない。『COGY』に乗った人の足が動くのは、脳からの指令ではなく、右足を動かしたあとは左足という反射的な指令が脊髄から出ているからだ。脊髄反射という無意識の動作を利用した『COGY』ならば、歩行困難な人であっても、わずかに片足を動かす力があれば自分の両足でペダルを漕ぎ、車いすを動かすことができる。

鈴木 堅之:
このような生まれつき動けない子も、事故や病気で歩いたり立ったりが難しくなった方でもうまく動かすことができます。これをくり返していくと、神経や筋肉、関節が上手に動かすことが出来てきてリハビリとなり、いつか歩けるようになることもあります。

-結構ゆっくり動くのですね。

鈴木 堅之:
そうですね。健常者が筋肉運動のトレーニングする時も、ゆっくりした動作がいいですよね。反射を使うと、不思議なことに自然とその動作になるのです。

-健康な人は脊髄反射で漕ぐことはできないのでしょうか?

鈴木 堅之:
できません。足を動かそうと考えている時点で脳でコントロールしています。本当に障害を持った方が乗ったときに初めて動く。私たちが『COGY』を営業するときは病院関係者など健康な方との話となるので、そこが難しいところです。『COGY』は福祉用具の分類となり、医療機器ではないので医学的なことは書けません。実際に持って行って、利用者の体験を目の当たりにしていただくしかないのです。

しかし障害のない方でも、慣れてくると腰に体重がかかる自転車よりも楽に乗ることができます。楽な姿勢で乗れるので、腰や膝が痛い方にも乗れてしまう。シルバーカーといった手押し車を押して、しびれや痛みを感じているご老人でも、疲れを感じずに乗っていいただけると思います。『COGY』のひと漕ぎは私たちが歩く一歩とだいたい同じで、時速5キロくらいです。

『COGY』により、介護生活の質を高めることが可能に

足こぎ車いす『COGY』と鈴木社長。障がい者や高齢者の社会復帰の一助をも担うであろう同製品は、今後、社会にどのような変化をもたらすのか。

-『COGY』は危険性がないのですね。

鈴木 堅之:
日本の法律上は車いすと呼んでよいものの時速は6キロ以下と決まっています。早歩き以上の速度は出ません。歩行者と同じ扱いとなるので、歩道を歩けるし、コンビニにも行ける。

ショッピングモールで実際に買い物をされている方もいます。自由に動けるので、モールまで一緒に行ってしまえば、介護者とは別れてお互いに好きなところに行ける。24時間付きっきりとなると、どうしてもストレスが溜まってピリピリしてきます。自由な時間を持てることで、介護する人もされる人も生活の質がぐっと上がるのです。

魔法のようなリハビリ効果をも生み出す

-筋肉はあるけれど神経回路を動かせないという方だけでなく、本当に筋肉がない方や高齢者の方でも漕げるのでしょうか?

鈴木 堅之:
漕げますね。筋肉そのものが細くなってしまった方でも漕げるでしょう。
例えば、5年半の間寝たきりで、さらに認知症の傾向もある方がいました。関節もすっかり硬くなっていましたが、若いころは女学校に自転車で通っていたと伺い、乗っていただきました。すると乗れて、足も動き、コントロールも自分でできるのです。どんなに筋力が弱っていても、反射さえうまく導き出してあげると『COGY』は漕げるのです。

これを繰り返していると、足を動かすことで血流が良くなります。この女性は1週間後にお会いしたら、5年間半何もできなかった方が自分でタオルを絞って顔を拭いていました。髪をとかしたり、数字の認識や会話も可能でした。脳血管性の認知症だっただめ、脳血流が良くなって認知機能が向上したのだと思います。

いかに足を動かすということが大切かがわかりました。『COGY』と出会わなかったら、女性は寝たきりのままだったでしょう。偶然、良い事例だったのかもしれませんが、こうなる可能性は誰にでもあります。『COGY』に乗ることで、期待を高めることができると考えています。

障がい者や高齢者の社会参加を地方創生に繋ぐ

-今後はどのように『COGY』を広めていかれるのでしょうか?

鈴木 堅之:
やはり認知度が上げることが大切ですね。現在は、どうせ動かない、やっても無駄だとあきらめてしまっている方が多いのです。私たちが考えているのは、『COGY』で社会に出てもらうことです。実際に仕事復帰されている方もいます。介護保険や医療保険のお世話になっていた方が再び納税者に戻るというのは、非常に自信がつくことなのです。いままで我慢していた買い物や旅行など、やりたいことを叶えようとなさいます。

私たちは、『COGY』をきっかけにして障がい者や高齢者の社会参加を目指しています。今は地方創生というキーワードでイベントなどが組まれていますが、そこで『COGY』を貸出して、ご家族でお散歩して楽しんでいただくような活動を増やしています。どの地域にも必ず、障害を持ってお家にこもられているご家族がいます。障害があっても積極的に買い物に行ったり、外出したりして楽しんでいる姿を、そんなご家族にも一般の方にも見ていただきたい。そうすると、その地域はすごく安心できていい環境だと感じられます。障がい者や高齢者にも暮らしやすいということは、子どもたちも暮らしやすいはずで、「いいね、この地域」というふうになってくるのではないでしょうか。

そしてこのような方々は1-2キロ圏内が行動範囲なので、近所の商店街などが好まれます。いままでシャッター街だったところにも障がい者や高齢者が来ることによって、よいサイクルが生まれます。障がい者雇用も促進されるでしょう。地方創生の一役を買えると思っています。脳梗塞や半身麻痺の方だけでなく、超高齢化社会を目前に控えた今後、膝や腰が痛いという方は膨大な数にのぼるでしょう。病院などで『COGY』をもっと導入することができれば利用者も増え、在宅介護の負担を減らしたり、仕事復帰を果たしたりする機会が増やせるはずです。障害のある方も健康な方も、共に好きな場所で好きなことができる幸せを『COGY』によって導き出していきたいですね。

編集後記

半身不随であっても動ける可能性を製品化した株式会社TESS。薬や手術に頼ることなく体の機能を改善していく事ができる『COGY』は、歩行が難しい方にだけでなく、来たるべき超高齢化社会に向けても一つの解を投げかけているのではないだろうか。下半身を意識したアスリートのトレーニングアイテムとしての足漕ぎ車いす開発も意識する鈴木社長。パラリンピック東京開催も近づく中、東北大学発ベンチャーTESSの挑戦は続く。

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