オエノンホールディングス株式会社
代表取締役社長 西永 裕司

西永 裕司(にしなが ゆうじ)/大学卒業後、証券会社を経て、1988年に同社入社。旭川工場での経理担当として勤務した後、本社経理部に所属、会計の新システム導入を手掛ける。静岡支店の支店長を経て、2005年に富久娘酒造株式会社取締役経営管理部長に就任。その後、グループ本社の取締役経営戦略企画室長などを経て、2015年に同社代表取締役社長に就任。

本ページ内の情報は2016年12月時点のものです。

オエノンホールディングス株式会社は、合同酒精株式会社を含め、10社のグループ会社を持つ酒類メーカーである。しそ焼酎『鍛高譚』を看板商品に持つ酒類事業の他にも、酵素医薬品事業、加工用澱粉事業、不動産事業など様々な事業を展開している。また、同社では社員のワークライフバランスを考慮した働きやすい環境作りを進めており、育休後の復職率は100%となっている。同社代表取締役社長、西永裕司氏に、今後の経営戦略や人材マネジメントについて話を伺った。

様々な経験が言葉に“説得力”を持たせる

社長就任までの経緯をお教え頂けますでしょうか?

西永 裕司:
大学卒業後は証券会社に就職したのですが、3か月程経った時、合同酒精(現オエノン)に勤めていた大学の先輩に誘われ、弊社への転職を決意しました。最初の配属先だった北海道の旭川工場では、経理や労務管理など、工場の運営全般を担う仕事に携わりました。当時の上司からは、見かけだけではなく本質を理解して仕事をすることを非常に厳しく指導されましたね。経理は経営の羅針盤とも言われますが、全てを理解しないと務まりません。ここで培った仕事に対する姿勢は、今の自分の基礎にもなっています。

次に本社の経理部へと異動になりました。そこでの最初の仕事は、手書きが主流だった会社の会計システムを、コンピュータシステムへと一新することでした。ゼロからのスタートでしたし、新システムに抵抗を示す社員も多かったので、システム構築から運用に至るまで、心身ともに追い込まれましたね。ただそれでも、自分の仕事の足跡がこの会社に残るということに、非常にやりがいを感じていました。だからこそ諦めず成し遂げることができたのだと思います。

その後、静岡支店で支店長として2年間程勤務した後、M&Aで新しくグループインした会社の取締役経営管理部長に任命されました。そして、弊社取締役経営戦略企画室を経て、社長に就任した次第です。

様々な部署を回った経験は、自分の大きな強みになっています。口先だけの机上の空論では、何を話しても相手に響きません。実際に経験をしてきたからこそ、各部署に対して説得力を持った言葉で話をすることができるのだと思います。

創立100周年に向けた5つの事業展開

5つの事業展開について語る西永社長。「長期ビジョン100」を掲げ、更なる成長を図る。

御社の今後の経営戦略についてお聞かせください。

西永 裕司:
弊社では2024年の創立100周年に向け、「長期ビジョン100」という経営方針を2016年初めに策定しました。「長期ビジョン100」は、“焼酎事業に集中”“アルコール事業販売の拡大”“生産改革”“酵素医薬品事業の新展開”“CRE戦略”という5つの事業を柱としています。

1つ目の“焼酎事業に集中”とは、焼酎主体の企業として、焼酎にこだわりを持って事業を進めていくということです。品質・技術の追求のために経営資源を焼酎事業に集中させる他、M&Aを通して事業を拡大していくつもりです。

2つ目の“アルコール事業販売の拡大”のアルコールとは、飲用のものだけではなく、アルコールを使った製品全般を指します。消毒用から化粧品、味噌・醤油などの調味料に至るまで、幅広い分野でアルコールは使用されています。この分野での伸びしろは大きいと考えていますので、2017年度には大規模な設備投資を行い、更なる生産規模の拡大を計画しています。

3つ目の“生産改革”とは、生産物流の拠点を東西に確立するため、酒類事業の工場の再編を図ろうというものです。
4つ目に掲げた酵素医薬品事業は、現在酒類と併せて弊社の主力事業に成長中です。乳製品に使用されるラクターゼ(乳糖分解酵素)は世界第2位のシェアを誇っています。今後も新たな酵素の開発やM&Aによる事業拡大・強化に努めて参ります。同時に、酵素医薬品の「生産支援ビジネス」として、大手メーカーからの受託事業の増強を図ります。現在、大手食品・飲料メーカーから多くのオファーを頂いている状態ですので、こちらに関しても積極的な設備投資を行う予定です。

5つ目は“CRE戦略”です。現在でも遊休不動産などの賃貸を行っておりますが、銀座の本社ビルを5年後(2021年)を目処に改築し、事業所以外のフロアにテナントなどを誘致し、安定的かつ大規模な収益の確保を目指します。「長期ビジョン100」を実現するために策定した「中期経営計画2020」では、2015年からの5年間で達成すべき具体的な数値目標を掲げており、現在それに沿った様々な計画を進行しています。

育休後復職率100%

御社ではワークライフバランスを考えた様々な社内制度を設けていらっしゃいますが、女性が活躍できる仕組み作りなどについてお聞かせください。

西永 裕司:
弊社では古くから女性の活用を推進して参りました。以前は、弊社でも寿退社する女性社員が多く、仮にそこで残ったとしても出産で退職するケースがほとんどでした。ですので、その部分の改善を早い時期から行ってきたのです。現在では、復職後の部署などについても、働きやすい環境を本人と相談し、なるべく意向に沿う形で復職できるようにしています。社内制度に関しては、時短勤務やフレックス制など、できる限り個々人の事情に合わせた勤務体系を選択できるよう、環境を整えてきました。結果的に、現在、育休後の復職率は100%となっております。

商品開発や品質管理において、女性のきめ細やかさやアイデアなどは、会社にとって非常に大きな武器になります。女性だから特別に制度を作ろうという慈善的な話ではなく、弊社に必要な人材が偶然女性であったというだけです。その優秀な人材にとって、育休後に復職しにくい環境ならば、それを是正するのが会社の義務です。最終的に、こういった取り組みは女性に限らず全社員にとって働きやすい環境に繋がるとも考えています。

事業拡大に向けて求める人材とは

御社が今後必要とする人物像についてお話し頂けますか?

西永 裕司:
私は、今後の弊社の経営を担ってくれるような人材を必要としています。その上で一番大切なことは、どんな難関が目の前に生じたとしても、決して諦めない心を持つことです。諦めたらそこで終わりですからね。困難を乗り越えたという経験は、自分自身の大きな財産になります。

また、世の中の流れに敏感であることも重要です。弊社では“現場”“現実”“現物”の三現主義を大切にしています。机上の空論ではなく、実際に自分の目や耳、肌で感じて判断するからこそ、環境の変化にもいち早く対応できると考えています。そういった強い意志と、時流を察知する力を持った人材を求めています。

他にどういった職種の方を必要としていますか?

西永 裕司:
まずはエンジニアです。工場で生産ラインに問題が生じたときの確認や、ラインの効率化を考えて頂くことができる技術者を必要としています。工場や本社のスタッフの中にその役目を担っている社員はおりますが、人数が足りていません。工学部系の大学を卒業された方にエンジニアとして入っていただけたら助かります。

また、営業職も募集しています。酒類の営業だからといって、特別な能力が必要だというわけではありません。モノを売ることについては、どんな営業でも同じです。弊社では多くの中途採用の方が営業として活躍されています。弊社の商品の中で一番認知度の高いものは『鍛高譚』ですが、現在売上がピーク時に比べると下がってきている状況です。2017年の発売25周年というタイミングで、様々なプロモーションを打って売上のV字回復を図ろうと考えていますので、男女問わず、やる気のある方にはぜひ来ていただきたいと思っています。

編集後記

オエノンホールディングス株式会社では、新卒採用でも女性が過半数を超えることがあるが、西永社長は「それは別段、“女性”躍進のためではなく、面接で優秀だと思った人物が女性だったからです」と言う。優秀な人材が働きやすい環境を整備することで、会社への貢献度も上がり、ひいては利益にも繋がる。昨今、女性がもっと活躍できるようにとの観点から、多くの企業が育休後復職に関する制度の充実に努めている。しかし、制度だけではなく、復職後の社員を受け入れる会社全体の姿勢がないと、実際に育休後復職率100%を達成することは難しい。女性だから特別視するのではなく、個の能力を重視する西永社長の考え方があるからこそ、育休後に復職しやすい風土が同社では作られているのだろう。