食品メーカーではなく“食品サービス業”。『ゆかり®』進化の秘密


三島食品株式会社 代表取締役会長 三島 豊

※本ページの情報は2017年7月時点のものです。

広島市に本社を構える三島食品株式会社は、ふりかけや調味料などの製造販売を行う食品企業である。特にロングセラー商品として有名な赤しそのふりかけ『ゆかり®』は、同社の主力商品であり、近年ではペン型容器に入れられた『ゆかり®ペンスタイル』が話題を呼んだ。2016年にホールディングス化し、より柔軟な事業展開を進める同社代表取締役会長、三島豊氏に、商品開発に対するこだわりや自由な発想を歓迎する同社の社風について話を伺った。

三島 豊(みしま ゆたか)/1954年広島県生まれ。1978年東京大学大学院金属材料専門課程卒業。同年、京都セラミック株式会社(現:京セラ株式会社)に入社。81年に同社を退職し、三島食品株式会社に入社。84年、同社取締役部長に就任し、その後、取締役関東工場長、専務取締役、取締役副社長を歴任し、92年、創業者から代表取締役社長の任を引き継いだ。2017年、代表取締役会長に就任。株式会社ミシマホールディングスの社長を兼務している。

前体制に残る“掟”を破る

―三島会長は2017年4月に社長を退任されましたが、社長でいらっしゃった時は、創業者であったお父様との経営方針の違いなどはございましたか?

三島 豊:
創業者であった父はどちらかといえば保守的で、トップダウンの経営手法を取っておりました。私が社長に就任してからも、父の行った古い指示がそのまま生きていたり、もしくは自由な意見交換を行うことが憚られるような風潮がありました。そこで私は「おばけ退治」と銘打って非効率なものは改善していこうと呼びかけたのです。“おばけ”というのは、父の意志とは関係なく、形骸的に残ってしまっている指示の名残です。私が父に確認すると、父自身も「なぜそんなことを続けているのか」と驚いているようなものもありました。まずはそういった部分を省いていきました。


―当時のご指示が独り歩きしているような状態だったのですね。その後も改革を続けられたのでしょうか?

三島 豊:
その次は「“掟破り”をしよう」と言いました。これは、創業者の方針に縛られることなく、自由な発想を促す活動です。私が最初に発案した“掟破り”な案件は、幹部たちから「社の方針にそぐわないから」という理由で難色を示されました。しかし「今までの“掟”を破って構わない」と押したところ、徐々に新しい発想が提案されるようになりました。そして、それまで殻に閉じこもっていた思いが溢れだしたかのように、次々とアイデアが社員たちから集まるようになったのです。今でも、既成概念にとらわれない様々な商品開発や、他社とのコラボレーションが数多く発案されています。

飽くなき品質向上への意欲

―御社のヒット商品『ゆかり®』は豊かな赤しその香りが特徴の1つですが、それを維持するための取り組みなどをお教えください。

三島 豊:
『ゆかり®』が1970年に発売された当初は、それほど売れ行きがよかったわけではありません。その後徐々に売上が伸びていったのですが、ある時お客様から「変な匂いがする」とご指摘を受けました。原因を調べた結果、どうやら雑交配した種からできた原材料が混じってしまったようなのです。『ゆかり®』のおいしさは香りが重要な要素の1つです。そこで科学的に匂いを分析し、雑交配した種からできたものを選別することにしました。安定的に選別できるようになると、今度は『ゆかり®』に適した赤しその種自体を作ろうと、細胞培養など様々な手法を用いた研究が始まりました。こうした基礎研究はすぐに売上に直結するわけではありません。

バブルが崩壊し経営状況が悪化した時は、こうした研究を中止するべきだという声もありましたが、私はそこだけは譲りませんでした。その結果、良い種ができ、それによって香りが向上した高品質の原料を手にすることができるようになりました。この研究は現在進行形で進化していますので、今後も『ゆかり®』の品質向上に貢献していくと思います。

“メーカー”から“サービス業”へ

―御社の事業内容についてお話しをお聞かせ頂けますか?

三島 豊:
2015年までは弊社のことを「食品メーカーです」と紹介していたのですが、2015年の年末にとある勉強会に参加したことがきっかけとなって、メーカーではなく、「食品産業のサービス業です」と言うようになりました。その勉強会では「多様化する顧客のニーズに対して、サプライチェーン全体でどう対応するか」ということがディスカッションの議題だったのですが、これを弊社に置き換えてみると、それまでの枠組みではクレームを減らすことや値段を下げることくらいしかできないということに気づいたのです。“メーカー”という枠組みを外すことで、商品流通における川上、川下両方に向けて、新たな取り組みを仕掛けていくことができるのではないかと考えました。“モノ”を売るということから“コト”を売ることにシフトしたのです。


―そのご決断をされてから、今に至るまでにどのような変化がありましたか?

三島 豊:
事業自体に大きな変化があり、市場規模が非常に拡大しました。メニュー提案を例に出しますと、今までは商品を売るという目的でメニュー提案を行っておりましたが、商品を売るということに価値基準を置くのではなく、メニュー提案そのものに事業としての価値を持たせるようになりました。お客様にサービスができるのであれば、場合によっては自社製品でなくても構わないという、そんな枠に囚われない動きにまで発展してきましたね。

同じように、生産者に対しても提供できるサービスの範囲を広げられるのではないかと考えています。これまでも生産者と共同で品質を上げるための取り組みは行ってきましたが、それはあくまでも自社製品の品質向上を目的としたものでした。しかし、これからは生産者を対象とした積極的なサービスを行うこともできるのではないかと考えています。自分たちの位置づけを変えるだけで、これほど事業ドメインが変わるということには、私自身驚きを隠しえません。

新たなアイデアを創出する“B面活動”

このペン型容器に入った『ゆかり®』も社員のアイデアから生まれた。

―御社の強みついてお教えください。

三島 豊:
従業員に対して、私は「やりたいことをやってください」と呼び掛けていますので、そういった枠に囚われない自由な活動ができるという点はひとつの強みだと思います。

弊社では“B面活動”というものがあります。A面は、所属する部署での各々の通常の仕事ですね。それに対してB面は、自らの好きなことをする活動です。仕事に関係することであれば何でも構いません。従業員たちはそれぞれ自分が考えた商品アイデアを持ち寄って形にしています。納期もノルマもありませんし、失敗しても構いません。私もB面活動のテーマをいくつか持っていますが、ペン型容器に入った『ゆかり®』もそのうちの1つでした。

他にもお菓子屋さんとコラボレーションしたり、赤しそ味の飴を作ってみたりと、社員1人1人が得意分野や興味のある分野で力を発揮しています。商品の品質や作り方は一切妥協しませんし、より良い方法があればどんどんシフトしていきます。そうした点だけは崩せませんが、それ以外の分野に関しては柔軟に対応しています。


―自由闊達な社風の中で、様々なアイデアが形作られていくわけですね。新しいアイデアを生み出したりプロジェクトを任せられたりといったような、御社で活躍されている社員の方はどのような人なのでしょうか?また、どのような人材を求めていますか?

三島 豊:
弊社で活躍している社員の多くは、ごく普通の人たちです。ただ、そうしたB面活動をしている社員の多くは、概してキラキラと目が輝いていますね。B面活動はまさしく自分の好きなことですので、自ら進んで勉強もします。そこから新たな知識を得て、視野を広げていくことができるのだと思います。そういった面でも、弊社では行動できる人材を求めています。

素材を育てるスペシャリストを目指して

―海外展開に関してはいかがでしょうか?

三島 豊:
現在、アメリカ、中国、タイに現地法人があります。輸出で言えば、アフリカ以外はほとんどの地域をカバーしているのではないかと思います。ふりかけは日本ではご飯にかけるものというイメージですが、ハワイでは魚料理に使用されているといったように、海外では全く異なる使い方をされています。国によってそれぞれの好みがあり、そうしたアイデアを他の地域に応用しても面白いと思いますね。最近では現地のスーパーにふりかけが置かれるようなってきております。今後も地域を更に拡大し、海外での売上を伸ばすことを視野に入れています。まだまだグローバル展開における伸びしろは大きいと考えています。


―御社の今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか?

三島 豊:
現在、おそらく赤しその使用量は、弊社が日本で一番多いのではないかと思います。その上、『ゆかり®』に関して香りの研究や種の開発を行い、赤しそという“素材”を育てるノウハウを蓄積してきました。ですので、「赤しそと言えば三島」と言われるまでに、素材としての赤しそを極めたいと思いますし、今後はここで培ったノウハウをほかの素材にも応用していきたいと考えています。今は青のりにも力を入れていますが、環境の変化で生産量に大きな差が出てしまうことが課題です。環境の影響を受けないで一定の生産量を保てるようにするのは非常に難しいとは思いますが、難しいからこそ面白いと思っています。

また、2016年に株式会社ミシマホールディングスを設立しましたが、それに伴って社員から新事業のアイデアがたくさん出てきています。まずは小さなプロジェクトとしてテストして、可能ならば事業化するという流れになるかと思いますが、財務や総務の部分に関してはホールディングス共通のプラットフォームを構築するつもりです。そうすることで、社員のチャレンジを支えられる土壌を作っていきたいと考えていますね。

編集後記

B面活動など、社員自らが自分らしく輝ける場がある三島食品株式会社は、非常にコミュニケーションの多い、活気のある職場環境であることがインタビューの中からも感じられた。ロングセラー商品の味と品質を守り続けるその秘訣は、まさに自由な発想が飛び交う社内風土にあるのだろう。