ファッションの新たな在り方を生み出した急成長ベンチャー


株式会社エアークローゼット 代表取締役CEO 天沼 聰

本ページ内の情報は2016年10月時点のものです。

2015年2月、洋服との革新的な出会いを届けるサービスが開始された。株式会社エアークローゼットが考案した、普段着に特化した月額制のファッションレンタルサービスだ。サービスを開始して以降、1ヶ月で4万人もの会員登録が殺到するなど、大きな反響を呼んでいる。

今回は、急成長する同社の経営マネジメントや構想について、同社代表取締役CEO天沼 聰氏へのインタビューを通じて紹介したい。

「“感動する洋服との出会い”を創出していきたい」、「“感動とわくわくを届けること”ただそれだけを追求してきた」と、天沼代表は言う。同社の活躍の礎となったものは一体、何なのだろうか。

天沼 聰(あまぬま さとし)/千葉県出身。イギリスの大学にて経営/コンピュータを学び、卒業後帰国。2003年4月コンサルティングファームである、アビームコンサルティングに入社。10年弱の経験を積み、IT・戦略・及びWebを専門に活動。その後2011年に楽天株式会社に入社し、グローバルマネージャーとして活躍。2014年に、アビームコンサルティング時代に同じチームで仕事をした仲間と共に株式会社エアークローゼット(旧社名:ノイエジーク)を創業。

起業の経緯

ー高校から大学までを海外で過ごされていたと伺いました。

天沼 聰:
海外文化に触れたいと、当初の理由はそれだけでしたが、高校はアイルランドで、大学からイギリスに移り、経営学と情報学を学びました。学生の時にはもう、「チームで何かをつくりたい」と思っていました。今までやってきた部活動は基本的にチームスポーツが多く、そこからも「チームで何かをつくる」という意識が生まれてきたのかもしれません。皆で一緒に何かをやり遂げることが好きなタイプでしたから。そして、元々日本で働くつもりでしたので、大学卒業と同時に帰国しました。

ー帰国後の就職において、企業選定の基準は何だったのでしょうか?

天沼 聰:
大きくは3つから選択しました。1つは典型的なITベンチャー、2つ目はITの大手企業、もう1つはITのコンサル会社でした。基礎的なスキルを身につけることがまず必要だと思い、コンサル会社のアビームコンサルティングに就職しました。そのスキルとは、例えば、プレゼンテーションやファシリテーション力など、ベースとなるスキルです。マネージャーとしてチームを率いるまでは続けようと思っていて、結局10年弱働き、社会人として基礎のスキルを身につけられました。

その後、楽天に転職しました。楽天では、グローバルな経験をした事、組織を1から作れた事、多種多様な人と働けた事、この3つを得ることができました。多種多様な人と一緒に働くその期間は、それぞれのメンバーにとって価値のあるものにしたいと思っています。やはり「チームを作る」ということにはすごくこだわりがあります。

“強い組織”を作るために

ー“強い組織”を作っていくために必要な、活躍できる・求められる人材やスキルについて、どのようにお考えでしょうか?

天沼 聰:
当社だけではありませんが、やはり組織や社会の中での自分の役割を明確に分かっていること。そしてその役割を、覚悟をもってやり切れる人材が求められると思います。心底楽しみつつやり切れるか、ということも重要だと思います。持つべきスキルに関しては、自ら考えてほしいと思っています。役割をまず皆が理解し、その各役割の為に自分が何をすべきかを、個々に自ずと考えていけるチームでなければならないと思っています。

当社には、『9Hearts(ナインハーツ)』という9つの行動指針があります。その行動指針から、僕らはこういう法人で在りたい、ということの共有はできているので、その為に自分がどう貢献できるかを考えられるチームを作りたいと思っています。

ー採用における基準はございますか?

天沼 聰:
それは企業のフェーズによって変わってくると思いますが、今は創業期ですので、「行動指針とサービスに対する共感」を重点項目としています。

更に、「シェアをして成長する」という概念が行動指針にも入っていますので、ディスカッション力も重視して見ています。そして、人としてどう成長して何になりたいのかも必ず聞くようにしています。実際、起業したい人、アパレルの店舗をもちたい人、デザインで特化していきたい人など、色々な人がいます。それぞれが目指すキャリアに向けて、経験を色濃くしてもらいたいと望んでいます。

コミュニケーションを欠かさないためのユニークな工夫

-御社独自の制度などについてお教え頂けますか?

天沼 聰:
当社の制度に関して創業期から続けていることは、ニックネーム制度です。楽天からのアイデアですが、社内ではニックネームで呼び合っています。コミュニケーションが取りやすいというのが1番の目的ですね。

更に、必ず全社員に握手をして帰ります。ですので、終日、目を合わせないということがありません。同志というものに近いかもしれませんね。ただ、慣れ合いになってしまうと、その延長線上でお客様と接してしまうなど、大きな間違いを引き起こす可能性があります。ですので、「お客様の感動をつくっていく」というチームとしての共通意識はしっかり持っておきたいと思っています。

ファッションとの感動する出会いをつくる

『airCloset』の誕生経緯を語る天沼代表。全ては「ファンションとの感動する出会いをつくる」という思いから始まった。

ー男性経営者が考案したサービスが、女性のライフスタイルの1つになっているということに驚きますが、このようなサービスに辿り着いた経緯はどういうものだったのでしょうか?

天沼 聰:
元々はレンタルをやりたいと思って始めたわけではなく、我々の目的は「ファッションとの感動する出会いをつくる」ということでした。

女性のいつものライフスタイルの邪魔はしないで、その上で洋服との新しいタイプの出会いができたら、もっとファッションを自由に楽しめるのではないかと思いました。つまり、「感動する洋服との出会いをつくりたい」というその思いだけなのです。そう考えた時に、日本で初めての普段着のレンタルで、月額制で、借り放題という制度が生まれてきたのです。

また、ブランド様側から見ても、新しいお客さんに出会う機会になります。現在、約300ブランド様に参画頂いていますが、そのブランド様とお客様の出会いの架け橋になるというのも、我々の目的の1つです。

初の実店舗のオープンと今後の展望

ー今後、新たに考えていることはございますか?

天沼 聰:
直近では、2016年10月14日に、東京の表参道エリアに『airCloset×ABLE(エアークローゼットエイブル)』という実店舗をオープンしたことです。パーソナルスタイリングはこれまで敷居が高かったかもしれませんが、そこでは必ずスタイリストが常駐しており、ファッションの悩みを話したり、自分に似合うスタイルを提案してもらったりすることも自由にできます。

純粋にファッションの楽しみ方を知りたい方に来て頂き、「新しい自分との出会い」を体感していただけたらと思っています。今回の取り組みがうまくいけば、店舗も増やして、日本全国に届けたいと思います。

お客様に満足してもらうサービスをつくるには、お客様にただ伺えば良いので簡単です。ただ、月額制のサービスをずっと続けてもらう為には、やはり、お客様が感動できるものを常に見出していかなければいけません。お客様の感動体験をどうしたらつくれるのかということと、チームがもっと強くなるためにはどうしたらよいのかということは、私の役割として常に考えていますね。

編集後記

“チームは一夜にしてならず。”この取材を通じ、頭に浮かんだのはドラッカーの言葉だ。ベンチャー企業には「チームとしてのトップマネジメントの構築」が求められる。多様なメンバーが、各々の力を存分に発揮し、自ら考えられるようになる事で“強い組織”がつくられていく。天沼代表が目指しているチームへの想いから、まさに“強い組織”となりつつある同社の礎石を垣間見ることができた。多くの人へ感動体験を提供する同社のサービスは、きっと日本だけでなく、世界の洋服レンタルビジネスに変革をもたらしていくに違いない。