【ナレーター】
世界の「衛生・環境・健康」に貢献することを企業理念に掲げ、2022年に創業70周年を迎えたグローバルメーカー、サラヤ株式会社。
1952年、当時蔓延していた伝染病予防のため、手洗いと同時に殺菌・消毒ができる公定書外医薬品『パールパーム石けん液』を開発。
以降、50年以上のロングセラー商品『ヤシノミ洗剤』を始め、家庭用および業務用衛生用品や食品などを日本のみならず世界各国で販売しており、人々の健康を支え続けている。
近年では生活習慣病を予防し健康寿命を延ばすためのレストランやメディカルフィットネスジムを展開するなど、その事業領域を拡大させている。
今もなおさまざまな挑戦を続けている経営者が見据える未来像とは。
【ナレーター】
2020年から続くコロナ・ショックにより、手洗いやうがい、消毒関連商品の需要が急激に増加。サラヤも例外ではなく、この対応に日々追われることになる。当時の状況と得た学びについて、更家は次のように振り返る。
【更家】
とにかく工場を24時間稼働させたのは奏功しました。
2020年に入社した新卒社員は約50名で、通常なら研修を約4週間行う予定でしたが、工場の稼働を止めないよう工場研修として伊賀(三重県)の工場に留め置かせました。結果、相応の手当を支給して8週間の工場勤務をしていただきました。
これだけ社会的な“有事”があったときには、一企業として頑張る必要がある。それを伝える研修にはなったと思います。
【ナレーター】
更家の原点は、幼少期にまで遡る。小学校の頃の意外な経験をしたことが、今の自分にも影響を与えているという。
【更家】
小学校6年生のときに、福井県の永平寺に1週間預けられました。
そのお寺には、お坊さんが修行する際の指導者という立場、企業でいうと人事教育部長のような立場の方がいらっしゃいまして。その方が、自分を気遣って午後3時頃に部屋に呼んでくれるんですよ。
その後も交流があり、その方の本寺がある鳥取県の大樹寺に招かれました。座禅は組むのは苦手でしたがお話を聴きたいと思い、中学・高校時に行きました。
今にして思えば、他の同世代の人とは違った経験をしたというのが、今の自分にも影響を与えていると思います。
【ナレーター】
その後、大阪大学工学部を経て、カリフォルニア大学バークレー校へ留学。当時はアメリカで就職するつもりだったが、急遽サラヤへ入社することになったという。その経緯について次のように語る。
【更家】
当時、排水処理の設備をつくって海外に売ろうとしているアメリカの企業がありました。衛生工学でそういった分野に知見があり、なおかつ日本語と英語ができるという人材のニーズに自分がマッチしたんです。
「給料はいくらがいいか?」と言われ、周りに聞いてみると「2万5千ドルぐらいでいいのではないか」と言われたので、その金額を希望で出したら「ちょっと高いので2万3千ドルでどうですか?」と言われて。それならいいですよ、と。
当時はまだ1ドル300円で、1ドル2万3千ドルでも600万円ぐらいもらえるので「それならば」とアメリカに残ろうと思っていたら、家のほうから「いやいや、早く帰ってきてくれ」と連絡がありましてね。
当時はオイルショックがあり、原料を買いだめしていたのですが、原料の入れ間違えやコンタミネーションが相次いで起こったのです。
当社でも事故が起きており、労働基準監督署と監督官庁(当時は厚生労働省)の調査が入りました。
当時社長だった父は工場長を厳しく叱責したところ、「もう辞めます」と代わりの人材がいない中でその場で工場長が退職してしまったんです。
そのようなこともあり、存続の危機に瀕していた当社を立て直すために1975年1月に帰国し、入社後、経験がない中で即、工場長になりました。
最初は見よう見まねで、先輩社員に習いながら仕事を始めましたね。
【ナレーター】
会社の危機的状況を立て直すべく奮起した更家は、その後もキャリアを積み重ねる。
そして1994年、アメリカのある企業より合弁会社の立ち上げを提案され、創業者である父、更家章太氏とともにアメリカに渡る。当時のエピソードに迫った。
【更家】
「合弁会社でやりましょう、50:50でやりましょう」ということで始めたのですが、契約を締結して帰国する、というタイミングで急に父から「訳のわからないことへの投資はリスクがある。我々は撤退しよう」と言われました。
「契約を締結しているのでそれはダメです」と大喧嘩になりましてね。「よし、帰る!」「どうぞ帰ってください」と言い合いになって。
でもアメリカにいるものですから、すぐには帰れませんよね。それで次の日に気まずいながらも、黙って一緒に帰ってきたんです。
合弁会社はずっと続けていたのですが、最初はなかなかうまくいきませんでした。資本金だけではやっていけないので、増資、増資で経営していましたね。
うまく回ったり、赤字になったり、横ばいだったりと、しばらく業績は停滞していたのですが、2003年頃から本格的にまわり始めました。
【ナレーター】
アメリカ進出を成し遂げた更家は、これを皮切りにアジアや北米、アフリカなどにも拠点を展開し、世界の衛生や健康を支えるグローバルメーカーとして成長。現在は、新領域への挑戦を進めている最中だという。
【更家】
運動と栄養によって健康を維持することを支援する「VITALEZZA事業」を推進しています。スタジオとキッチン、それからボディアセスメントという、身体の状態をチェックできるよう機器などを揃えています。
たとえば、インストラクターや医学療法士などが膝や関節をチェックします。それによって、関節の可動域がとても固くなってきていることがわかったとします。
「これでは膝が痛くなるリスクが多い。だからこういう運動でほぐしていきましょう」と提案し、実践していきます。
このように、リスクがある体の部位と、それをどう改善すればいいかなどを、そのインストラクターや医学療法士などの有識者が指導しています。こういった施設を2022年3月時点で、約6拠点、構えています。
【ナレーター】
健康志向の高まりから、看板商品のひとつであるカロリー・糖類ゼロの自然派甘味料『ラカントS』の需要が増えていると語る更家。
この商品でも、現在、新たな取り組みを進めているのだという。
【更家】
看板商品である『ラカントS』の生産工場を2022年6月~7月にアメリカユタ州に竣工予定です。
今まで生産は外部に委託していたのですが、農薬の問題や、中国の品質管理などにお客様から不満がありまして。「せめて自社管理でできれば」ということで、工場をつくろうと。
自社で工場をつくると固定費が上がりますよね。そうなると売上を伸ばす必要があります。日本だけではそれが難しいため、これを機にアメリカのマーケットに挑戦しよう、と思いました。
ただし、やはり売れるまでには時間がかかります。売れないものを売れるように修正していくことも必要ですよね。
そのためには、売れる商品づくりやお客様の声を聞くということを、組織として運用できるようにする必要があります。
ゆくゆくはレベルアップして、SNSから声を拾うAIなども組織で活用できるようにPDCAを回していこうと考えています。これも“挑戦”ですね。
【ナレーター】
更家が考える、今後の成長戦略とは。
【更家】
今行なっている仕事が、社会とともに世の中をより良くすることができれば、これは非常に素晴らしいことだと思っています。
既に、ネットワークによる共通のバリューで、国籍関係なく結び合っていますよね。これも考えていかないと、組織は崩れていく。
我々もそうならないように、できるだけ社会とともにあるようなビジネス形態を目指していくことが、これからチャレンジすべきことだと考えています。
ガバナンスは大変ですけれども、できるだけ海外拠点の数を増やしていき、会社が発展していけるような価値観を共有していきたいです。
ときには現場の生の声を聞きながら修正していければ素晴らしいことだと思いますね。
―大事にしている言葉―
【更家】
「変化を知り、変化に対応し、変化をチャンスとして捉えることができる」。これは大事なことだと。
今は変化が大きい時代ですので、どこに変化が起こっているかを知るツールや組織が重要です。自分個人だけではなく、組織全体がそういうものに注目する。
それに、変化することを知っていても、自分たちが変わっていかないとそれに対応できませんよね。
もっと大きいのがマインドセットで、同じ変化に対応するのであれば、変化は嫌だと思うよりは、変化=チャンスだと考えたほうが、チャンスとして捉えることができる。これはドラッカーの言葉です。
この言葉は、社員にもよく紹介して、「もうちょっと前向きに考えてみてよ」と言うこともありますね。
経営者プロフィール
氏名 | 更家 悠介 |
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役職 | 代表取締役社長 |
生年月日 | 1951年5月30日 |
出身地 | 三重県 |
著書 | 『これからのビジネスは「きれいごと」の実践でうまくいく』(東洋経済新報社) |
日本青年会議所会頭などを歴任。ゼリ・ジャパン理事長、大阪商工会議所常議員、関西経済同友会常任幹事、ボルネオ保全トラスト理事、日本WHO協副理事長、ウガンダ共和国名誉領事などを務める。2010年に藍綬褒章、14年に渋沢栄一賞受賞。
会社概要
社名 | サラヤ株式会社 |
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本社所在地 | 大阪府大阪市東住吉区湯里2-2-8 |
設立 | 1952 |
業種分類 | 化学 |
代表者名 |
更家 悠介
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従業員数 | 2060人(グループ全体・2021年10月時点) |
WEBサイト | https://www.saraya.com/ |
事業概要 | 1.家庭用及び業務用洗浄剤・消毒剤・うがい薬等の衛生用品と薬液供給機器等の開発・製造・販売 2.食品衛生・環境衛生のコンサルティング 3.食品等の開発・製造・販売 |