
創業から50年、包装機の製造に始まり、現在は「半導体」「医療」「環境・社会インフラ」など、3つの事業領域に拡大し、成長を続けてきたワイエイシイホールディングス株式会社。経済危機を乗り越え、ホールディングス化という新たな挑戦を実現させた同社の歴史は、まさに革新の連続だった。今回は、代表取締役社長の百瀬武文氏に、創業の経緯や現在注力する分野での取り組み、そして未来への展望についてお話をうかがった。
5人から始まった会社創業、そして上場までの道のり
ーー起業までの経緯についてお聞かせください。
百瀬武文:
高校卒業後、国際電気株式会社(現:株式会社 KOKUSAI ELECTRIC)に入社して、半導体関連装置の設計部門に配属されました。半導体が社会に普及し始めた頃でしたが、ニクソンのドルショックによる半導体売上の大幅減少により、所属部署の全員が関連会社への2年間の出向を命じられることになりました。これを機に退職し、部下4人とともに5人で食品業界とクリーニング業界向けの包装機を開発、販売する事業を立ち上げたのが、弊社の始まりです。
ーー創業後、どのように成長を遂げてきたのですか?
百瀬武文:
起業にあたって、まず3つの条件を設けました。1つ目は理念をしっかりとつくること、2つ目は当時の中小企業では珍しかった事業計画をつくること、3つ目はみんなで議論して決めたことに全力で取り組む「全員経営」を徹底することでした。「絶対に赤字を出さない」という信念のもと、創業から23年間にわたり黒字経営を続け、創立21周年で株式を店頭公開し、2006年上場を果たしました。
当時を振り返ると、上場を目指して団結していた社員たちが、上場を実現した際に感激して抱き合った光景が今でも印象に残っています。特に、電光掲示板に弊社の名前と上場初値が大々的に表示された瞬間の感動は、今でも忘れられません。
ーーリーマン・ショックなどの厳しい局面をどのように乗り越えましたか?
百瀬武文:
弊社では、これまで目標や売上予算を前年度より低く設定したことは一度もありません。2000年代にはリーマン・ショックやITバブル崩壊などの経済危機があり、厳しい局面に直面しました。そこで、ハイテク業界特有の急速な技術進歩と需要変動に対応するために、営業・開発・サービスに特化し、製造はアウトソーシングするという戦略を取りました。
2020年には、新型コロナウイルスの影響を受けて、新たな改革方針を打ち出しました。それは、「プライム市場に確実に残る」「創立50周年には過去最高売上を達成する」「2030年までに1000億企業の仲間入りを果たす」という3つの目標です。
「髪の毛を縦に切る」が検査の常識を変える

ーー事業展開について、現在の取り組みを教えてください。
百瀬武文:
弊社は19の傘下企業があり、多くの分野で製造装置や各種機器を開発・製造しています。
事業内容をより分かりやすくするため、「半導体・メカトロニクス関連事業」「医療・ヘルスケア関連事業」「環境・社会インフラ関連事業」の3つのセグメントを設定し、特に医療分野に特に注目しています。
現在、毛髪を縦に分割する機械やマウンター装置を開発しており、毛髪検査による自閉症の早期診断と適切な支援の早期化に資する事を目指しています。
問診のように、ある程度の年齢にならないとできない検査もある一方で、毛髪は生まれて間もない時期から非侵襲的に検査可能です。さらに現在、自閉症だけでなく毛髪検査を、さまざまな病気へ応用することも進めております。この技術は、医療機関での活用を前提とするだけでなく、社員の疾患リスクを前もって検査できるという理由から、企業での活用も視野に入れています。
さらに、血液中のバイオマーカーの数を測定して、病状や感染症を判断する検査機器も開発中です。従来の機器は高額で操作が難しいと指摘されていましたが、弊社の機器は感度を従来の100倍に向上させ、完全自動化により誰でも簡単に測定できることを目標にしています。
加えて、検査に必要な試薬を豊富にそろえることで、より多くの病気に対応できるようにする予定です。
未来を切り開く鍵は「執念」
ーーこれからの上場企業のあり方について、社長のお考えをお聞かせください。
百瀬武文:
国力の一つである経済力の向上には、上場企業同士の競争による持続的な成長を続けることが最も効果的だと考えています。株主が求める株価の上昇や配当の充実、さらには社会貢献への取り組みを継続していくことは、上場企業としての使命でもあります。上場企業が努力を重ねて結果を出し続ければ、国や地方自治体の税収が増え、それが幹部や社員への還元にもつながり、全ての方面で好循環を生み出すことができるでしょう。
そして、こうした成果を出すために最も重要なのは「執念」だと強く感じています。どんな状況においても、執念をもって粘り強く努力し続けることで、必ず結果につながるからです。この考えは、企業経営だけでなく個人においても同じで、あきらめた瞬間にすべての可能性が閉ざされてしまうのです。執念が未来を切り拓く鍵です。進む先には必ず成功の道がつながっていることを胸に、今後も突き進んで行きたいと思います。
編集後記
百瀬社長の挑戦の軌跡は、まさに企業経営の本質を体現している。多くの困難を乗り越えながら、新しい可能性を切り拓くその姿勢には、経営者としての確固たる信条が感じられる。医療分野への進出を重視した事業展開は、自社の利益につながるだけでなく、医療サービスの質を高めることで大きな社会貢献も両立する。粘り強く努力した先に結果がある、その確信は企業の成長と社会にもたらす利益を最大化し、これからも多くの注目と期待を集め続けるだろう。

百瀬武文/長野県出身。1973年にワイエイシイ株式会社を設立。2017年のホールディングス化にともない、ワイエイシイホールディングス株式会社の代表取締役社長に就任。主な著書に『町工場的発想から脱却せよ』(幻冬舎ルネッサンス・2008年)、『「全員参加」の会社が成功する』(幻冬舎ルネッサンス・2013年)、『未上場企業への光明』(WAVE出版・2018)、『起業から成長、そしてさらなる成長へ』(ダイヤモンド社・2023)がある。