新型コロナウイルスの感染拡大を受け、「新たな生活様式」など対策に関する公式な発表があった一方で、SNSなどで誤った情報も拡散・蔓延し、改めて情報がもたらす影響の大きさを感じた人も増えたのではないだろうか。

経営においても「ヒト・モノ・カネ・情報」が企業資源を構成していると言われているように、IT化が加速するにつれて情報の重要性はより高まってきている。

この情報を取り扱い、企業PRやマーケティング支援サービスなどを展開し、事業を拡大させている企業が「株式会社カーツメディアワークス」だ。

「すべての人に“伝わる”喜びを」を経営理念として掲げ、ITや生活用品、アパレル、グルメなどさまざまな業種の企業・事業のPR活動の支援を行うベンチャー企業だ。コロナショック下にも関わらず新サービスの立ち上げをするなど、企業・事業の魅力を最大限伝えるべく、挑戦を続けている。

同社の創業社長である村上崇氏は「このコロナショックは業界ならではの課題を解決するための絶好の機会だった」と息巻く。この機会に乗じて始動を決めた新サービスと、村上社長がアフターコロナで実現したい未来とは。

世の中に必要なものを突き詰めて生まれた「起業」という選択

戦略PR/広報事業を中心に展開し、成長を続けるカーツメディアワークス。2020年で創業10年を迎えた。

―現在に至るまでの村上社長のご経歴について、教えていただけますでしょうか。

村上崇:
会社を初めて立ち上げたのは2002年で、私が25歳のときです。テレビマンとして仕事をしながら、テレビコンテンツ制作やマーケティング支援を実行する会社を設立しました。

テレビの業界というものは、「こんな番組・映像をつくりたい」という情熱を持った人が集まっているんですよ。起業して経営をしていきたいというよりは、自分が好きな番組制作を突き詰めたい人が多く、私のように会社を立ち上げる人はあまりいませんでしたね。

しかし、テレビコンテンツをつくること自体は楽しいんですが、テレビ業界ではやはり40代を過ぎるとどうしても20代、30代の人よりは感覚が劣ってしまうんですね。

もちろん、40代を過ぎて名プロデューサー・敏腕ディレクターと呼ばれる方もいらっしゃいますが、私はそっちのほうじゃないな、と。

そこで、次はプレスリリースを配信するプラットフォームを立ち上げました。

2004年当時、プレスリリース配信プラットフォームは2つくらいしかなく、料金も高かったので商機があると思ったんです。思惑通り、事業は軌道に乗って会社も大きくなり、すぐに事業売却しました。

カーツメディアワークスをいわゆるPRコンサルティングを行うPR会社として始動させたのはその後です。

これまでの経験を経て、魅力を持っている企業であっても上手に伝えなくては価値が伝わらないと、その支援を行うPRとマーケティングを専門とした事業を立ち上げました。

自身が気になったことや必要だと思うことを突き詰め、嗅覚を頼りに歩いてきた結果、今につながっているのだと思います。

危機に直面したことで気づいた課題

―長く会社の経営をおこなっていらっしゃると、今回のコロナショックだけでなく、さまざまな危機が訪れたと存じますが、どのように乗り切って来られたのでしょうか。

村上崇:
幸いにもIT分野のクライアントが多く、PRだけでなく、デジタルマーケティングも提供していることもあり、今回のコロナショックの影響はあまり受けておりません。

しかし、創業から半年後に起こった2011年の東日本大震災後は少々大変でした。前職からお世話になっていたクライアントが3社あったのですが、彼らを死守するため、さらには新しいことに投資をしなければいけないと考えて、社内ルールや投資判断を独断で進めてしまったのです。

その結果、不満を持つ役員・社員が増えて、内部分裂を起こしてしまったんですね。業績は悪くなかったのですが、会社としても個人としても人生最悪の状況でした。


―会社の内部から変革を迫られたのですね。

村上崇:
おっしゃるとおりです。

たとえば、代表の僕からのメッセージを役員しか知らない、新事業の立ち上げや方針転換など、社員が知らないうちに進んでいる。酷いときは役員すら知らないこともありました。

このような点に役員・社員が納得いかず、会社を離れていってしまったんですね。猛省しました。時を戻せるならあの時の自分に言ってやりたいです。「ちゃんと後ろを見ないと誰もついて来てないよ」と。

その後、自分なりに試行錯誤しながらマネジメントについて勉強したり、社内システムや会議体を変えてきました。今ではかなり風通しの良い会社になっていると思います。

コロナショックが後押しした新規事業の始動

―会社を守るために新しく始めた取り組みなどはありますでしょうか。

村上崇:
当然ながら時代を読み取り、対応するソリューションを出さなくてはいけないと考え、オンラインで記者会見を行えるアプリの開発を始めました。元々アイデアとしては4年程前からあって、実際にプロジェクトを打ち立てていたのですが、本格的に始動することになりました。

たとえばZoomは対面の仕事には優れたツールですが、記者会見にはあまり向かないんですよね。資料をダウンロードしたり進行をスムーズにしたりといった記者会見に特化した機能のあるアプリを開発し、現在実現に向けてテストをおこなっています。

記者会見アプリのテスト風景

自粛期間中に加速した業界の変化

―PR業界は時代の最先端を走っているイメージがございますが、その実態についてお聞かせいただけますでしょうか。

村上崇:
PR業界では、デジタル化とはいいながら、実はITを使いこなせている人が少ないように感じます。いわゆるレガシーな業界です。FAXはさすがに減ってきましたが、いまだにメールでやり取りするのが主流です。

しかし、今回の自粛期間中にデジタル化が大きく進みました。使わざるを得ない状況になったことで既存の便利なツールを使うようになりましたし、オンライン記者会見もニーズや問題点がよりクリアになっています。

テレワークで作業効率が格段に上がっているのも事実です。雑談をする機会が少ないからというのもありますが、決められた仕事に集中できている点も大きいと思います。

テレビ制作会社もそうですが、PR業界も、夜になると生き生きする人が多いんですね。理由は分かりませんが、日中より夜のほうが、アイデアが浮かびやすく、仕事が捗る傾向があるようです。

しかし、今回の自粛要請により夜間の行動が制限され、日中に仕事を集中させることにシフトされたことで、日夜問わず集中して臨めば仕事は捗ることが証明されたように思いますね。

実際、自粛期間中に業界ならではの課題を解決することができたと思います。

先程も申し上げましたが、IT化が進んだことや、コミュニケーションをこまめに取ることなど、自粛期間中に業界ならではの課題を解決するアイデアを形にすることができていると思います。

アイデアが手に入る「ウォーキング」のススメ

―村上社長は自粛期間中、何か変化したことなどはございますか?

村上崇:
お恥ずかしいことに「自粛“激”太り」なるものを体験してしまったので、それを解消するために、1日2時間ウォーキングをしています。

ウォーキング中は、頭がすっきりして色々なアイデアが浮かびます。事業のことだけでなく、僕の人生のテーマである「Save the world」、世界中で困っている人を救うためには何ができるのか、考えています。

少し話が壮大になってしまいましたが、世界を救う前に今この会社を守らなくてはいけませんから、save the worldを達成できるように、どう会社を成長させなければいけないのか、その道のりを考えています。アイデアが浮かんだら手帳に残すようにしていますね。

「情報体験」で人々の心を豊かに

―村上社長は、事業を通じてこれからどんな未来をつくっていきたいと思っていらっしゃいますか?

村上崇:
「豊かな情報体験があふれる世界」を目指したいですね。

「情報体験」とは、情報を見てアクションにつなげることなのですが、「面白い」「楽しい」「幸せだ」と感じてもらえる情報体験を増やしていきたいと考えています。

より心が豊かになるような情報を提供し、実際のアクションにつなげてもらいたい、また自分自身もアクションしていきたいと考えています。

たとえば今回の自粛も、ネガティブな気持ちになる情報ばかりがあふれていました。しかし、「面白い」「楽しい」「幸せな」情報体験を増やすことは我々PR会社の使命だと考えています。ネガティブな気持ちを切り替えるためのきっかけづくりをしていきたいです。


―情報体験の実現にあたり、経営者として一番重視していらっしゃることは何でしょうか?

村上崇:
まずは自分自身が仕事を楽しむことです。次に「スピード」と「自分自身で考えること」が重要だと考えています。

私は、社長なのでアドバイスを求められるほうの立場です。しかし、指示をしてから社員が行動するまでにはどうしてもタイムラグが生じてしまいます。

社員一人ひとりが自ら考え、スピード感を持って自ら行動することが大切だと感じているので、社員の皆には継続的に伝えるようにしていますね。

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編集後記

緊急事態宣言による自粛期間が延長されたことで、経済の停滞を始めとしたネガティブな影響が出ていることは間違いないと思う。

しかし、村上社長は「業界ならではの課題を解決するための機会」と逆にポジティブに捉え、「ネガティブな気持ちを切り替えるための情報体験を提供していきたい」と新たなビジネスに意欲を示している。

確かに物事の悪い面だけを見ていても、何も生まれない。スーパーポジティブな社長が率いるカーツメディアワークスに、今後も注目していきたい。

村上崇(むらかみ・たかし)/ 国立津山工業高等専門学校でロボット工学を専攻。卒業後はテレビ会社のディレクターとして働きつつ、2002年、25歳のときにテレビコンテンツ制作会社を立ち上げる。2010年、PRとでデジタルマーケティングを専門におこなう株式会社カーツメディアワークスを設立し、代表取締役・CEOに就任。