※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

シンクタンクによると、国内の鞄・袋物小売の市場規模は2020年度に前年比76.6%の9480億円と大きく落ち込んだものの、2023年度には再び1兆円を超える予測を立てている。

総務省の家計調査では、2022年の「旅行用かばん」の一世帯支出額は旅行需要の回復に伴い、前年比82%の急増となった。

大忠株式会社(1917年創業、大阪市中央区)は、大正期の創業当初からバッグ類の販売を手がける屈指の卸売企業だ。

統計データと連動するように、コロナショックで一時赤字を計上する年度もあったが、翌年度には黒字に回復し、持ち前の底力を発揮してみせている。

現在は全国の鞄専門店や量販店向けの卸売りに力を入れながら、将来的には海外進出も視野に入れている同社。代表取締役社長の梶浩和氏に、修行時代のエピソードや経営方針について詳しく話を聞いた。

社長だからといって特別偉いわけではない

ーー家業を継ぐ意識はいつからあったのでしょうか?

梶 浩和:
かつて祖父が本社ビルの5階に住んでいて、遊びに行くとそこが会社でしたから、おのずと幼い頃から家業への意識はありました。

必ず社長になるか分からないにしても、いずれ会社を継ぐことはすり込まれていましたので、大きくなるまでにその自覚はありました。


ーー社長に就任するまでのご経験や経緯をお聞かせください。

梶 浩和:
大学を出て繊維系の商社に就職し、4年間働きました。最初の上司が非常に厳しくて、丁寧に教えてくれなかったことに反発もしました。

ですがあとで振り返ると、こちらも意地になって壁をつくっていた面もあったように思います。

ある頃から「教えてください」と自分から相手に飛び込んで行ったところ、少しずつ上司も心を開いて、可愛がってくれるようになりました。

そちらで社会人としてのイロハを学ばせてもらい、2011年に現在の会社へと入社しました。物流や営業の現場で4年ほど下積みの仕事を覚える間に会社のことを広く知ることができ、とてもいい勉強になりました。

その後、商品部の部長になるなど早くから役職に就かせてもらうにつれて、周囲との距離のとり方が難しく感じるようになりました。年上の部下となる方もたくさんいたからです。

当時は悩みもしましたが、営業は営業担当者、仕入れは仕入れ担当者の方が当然私より知識も経験も豊富なわけです。社長だからといって何でもできるわけではないし、やる必要もありません。

社長という役職も含めて、それぞれがそれぞれの役割を果たすことの重要性に気づき、吹っ切れるようになりました。

学生向けバッグに特化しコロナショックを切り抜けた

ーー最近もっとも困難だったことは何でしょうか?

梶 浩和:
2020年の9月に社長に就任しましたから、ちょうどコロナ全盛期の時期と重なりました。まさに嵐の中の船出でした。

不景気になると不要不急のものが真っ先に売れなくなります。特に弊社の場合はトラベルバッグやカジュアルバッグといった外出のお供をたくさん扱っていますので、外出が規制されたコロナ禍では普通の不況以上に打撃は大きかったです。

ですが、今から考えると、どん底で会社を任されたのは収穫もありました。すべてを平均的にやるのではなく、自社の持ち味を出せる市場に特化して強みを生かす方向に考えを切り替えました。

結果的にコロナが落ち着いた2023年度には、コロナ前を上回る売上・利益にまで回復させることができました。

ーー特化した強みは何でしょうか?

梶 浩和:
弊社は数年前から中学生、高校生の通学用バッグを主力の一つとしておりました。コロナ禍でカジュアルなど不要不急の分野は売上を落としましたが、必需品に近い位置付けの通学分野は堅調だったことから、改めてそこにフォーカスしました。トレンドのバックパックの取り扱いブランドを増やし、仕入れを拡大しながらシェアを伸ばすことができました。

通学用バッグは昔は学校指定のところが多かったですが、現在はかなり自由化が進んできています。今後も少子化は進んでいきますが、鞄を自由化する学校が増えれば市場としてはしばらく安定すると思うので、最大限そのシェアを取っていくことに注力していきます。

今後の販路については学生用バッグに限らず、既存の取引先様の対応しきれてないニーズを掘り起こしていけば伸ばせる余地はまだまだあると考えます。

シェアを拡大するためにも、取引関係を強化し、お客様のニーズをしっかりとリサーチして取り組んでいくつもりです。

人事評価制度でキャリアビジョンを明確にする

ーー社長に就任して新たに取り組んだことは何でしょうか?

梶 浩和:
人事評価制度の整備は社長就任後、真っ先に取り組んだ仕事でした。以前は前社長が長年の経験と知見をもとに、評価を決めていたのですが、新米社長の私がそのやり方を引き継ぐのは無理があると思っていました。

時代の変化に伴って“働く”ということへの価値観も大きく変化しています。個々の「働きがい」を最大化するためには、会社の方向性と会社がその人に対して何を求め、どう評価しているのかを明確にする評価制度が不可欠であると考えました。

評価項目は大きく「仕事面」と「行動面」の2つの柱から成り立っており、階級が上がるにつれて個人・チーム・会社目線と、求める視座や配分が変わっていく仕組みです。

今はキャリアビジョンの明確化やワークライフバランスの重視など、会社や働き方への考え方はどんどん多様化していっています。弊社としてはまず会社の軸・スタンスを定めた上で評価を受ける側の理解度や納得度を高めていけるよう、今後も改善を続けていくつもりです。

編集後記

「高い給料を払うのは満足を与える1つの大きな手段ですが、もっと先の部分、働く意義や夢を与えられる会社にしたい」。

梶社長は、会社が社員に働きがいやモチベーションを提供し、これを高めていく重要性について語っている。

こちらの質問に対して期待に背かないようにと、終始真摯に対応した同氏。その誠実さをもって、社員のやる気を引き出す土台づくりを必ずやり遂げるに違いない。

梶浩和(かじ・ひろかず)/1983年6月22日生まれ。大阪府出身。関西学院大学商学部卒業後、2007年NI帝人商事株式会社(現:帝人フロンティア株式会社)に入社。2011年、大忠株式会社に入社。2014年に取締役、2016年に常務取締役、2018年に専務取締役を経て、2020年に代表取締役社長に就任。