※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

今やライフラインの一部ともいえるコンビニ。街中で見られる大手コンビニの店舗は、そのほとんどがフランチャイズで経営されている。

中でもコンビニ大手3社に数えられるファミリーマートのフランチャイズ事業を手がけているのが、株式会社スバルだ。1992年に設立し、東京・大阪の都心部をはじめ今後は全国各地にも進出をする勢いのある同社だが、その始まりは先代社長による小さな酒屋からだったという。

創業者が1代で築き上げた同社を支えるべく、2021年に代表取締役社長に就任したのは、息子である林壽生氏。24歳まで社会人経験がなかった林氏は、厳しい環境に身を置くため故郷である大阪を離れ、ファミリーマート東京本部での業務に就いた。9年間ファミリーマートという大きな組織で培った経験を、父から受け継いだ会社の経営にどう活かしたのか?組織の変革と今後の展望について林氏に話をうかがった。

父から受け継いだ会社をさらなる高みへ導くために

ーー社長に就任されてから、何に注力されてきましたか?

林壽生:
まずは営業部門の体制強化のため、会社の組織編成を変えていきました。社長の下に新たに営業部長というポストを設け、情報の統括を行い会社の地盤を整えようと考えました。

これまでは本社である大阪に社長がいるので、どうしても東京にまで目が届かず経費などの管理が甘かった。そこで営業本部長が各店舗に対し管理・指導していくことで、東京の体制を強化していく必要がありました。

おかげで経費の見直しを図ることができ、利益を出せるようになったので、会社の体質も強化されてきたと感じています。

人生の転換期となったファミリーマートでの経験

ーーその組織変革を行う上で、社長就任前に勤務していたファミリーマートでの経験が大きかったのでしょうか?

林壽生:
ファミリーマートでの経験はビジネスマンとしてのターニングポイントになりました。実は私は、24歳までフリーターをしていたんです。そこで前社長である父から、スバルで社長の息子として優遇されながら働くのではなく、「あえてファミリーマートで就職をして鍛えてきなさい」と言われました。

新卒でもない中途社員が、名刺交換の方法から話し方まで社会人としての基礎をイチから教えてもらいました。

ーー実際にはどのような経験が組織変革に対して役立ったと思われますか?

林壽生:
ファミリーマートという大きな規模の組織に入ったからこそ得られるものがありました。当時は組織というものがどういう風に作られているかも全く分かっていなかった。

前社長は自分の経営する酒屋からスバルを始めたので、これまで組織というものに入ったことがないんです。社長の独自のやり方で今まで経営してきたので、もしも私が最初からスバルに入社していたらどの部署がどういう役割をしているのか、知ることすらなかったと思います。ファミリーマートでの経験が今の組織体制につながっているのではないかと考えています。

会社全体の統率力強化を目指す

ーー今後注力していきたいことはなんですか?

林壽生:
営業部門の意識改革です。毎月店長を交えて財務会議を行っていますが、どうしても店舗によって売上・利益を追求する姿勢が強い人間とそうでない人間に分かれてしまいます。そこを全体的にシビアに考えてくれる人材になってほしいなと思っています。

もちろん、「全員が同じ考えでないからこそ組織として成り立っている」と分かった上での話です。経営者は組織に自分の分身がいっぱいいるのが一番手っ取り早いと思いがちですが、「でもそれって会社としてはどうなんだろう?」と思ってしまいます。

自分のクローンを作って皆が同じことしかしていなかったら、多種多様な切り口や斬新なアイディアも生まれません。多様な感性を持ちつつ、真剣に売上の向上に向き合ってくれるような人間を増やしていきたいと思っています。

社員を守るためには“逃げ道”も必要

ーー組織の体制が整ってきた今、社長として意識していることはありますか?

林壽生:
あまり怒らないことです。私が性格的に普段からあまり怒らないというのもあるのですが、やはり人間、「怒られたらやる気がなくなるもの」と私は考えています。たとえば社員がミスをしたとしても、ちょっと優しく注意すると、「あ、もう同じ失敗はしないようにしよう」と思い直します。受け取り方の気持ちが変わればその後の行動も変わってきます。

これは自論ですが、物事を考えるときに100%それに集中すると、脳みそはフリーズしてしまいます。集中してる“フリ”をしているんです。よく「お風呂に入りながら閃いた!」などという話を聞きますが、そういう時は70%くらい脳が回転してると思うんです。30%は余力を残しておきます。だから売上の報告がよくない場合もあまり追い詰めずに「次から頑張ろうね」と話すようにしています。そうすることで、社員の脳に余力を持たせることができます。

厳しいことを言う人間ばかりだと、従業員にとっては息苦しく、会社に逃げ道がなくなってしまいます。スバルでは営業本部長が責任を担っているので、厳しい役はお任せして、僕はちょっと優しい雰囲気を出しておいた方が社員も安心できるのかなと思っています。

自分のために死に物狂いで働ける時間はそう長くない

ーー次世代を担う10代20代の方に向けて、何かメッセージをいただけますか?

林壽生:
新卒1年〜3年くらいまでは限界まで働き、様々な経験を積むことが重要です。社会人としてのキャリアの中で全力を尽くして働けるのは、最初の数年だけかもしれません。

家庭を持ったらそういう働き方はできなくなるでしょう。私にも家庭がありますが、家族が犠牲になるような働き方をすることはできませんし、社員にもさせられません。ですが、無我夢中で働いた経験はいつか必ず自分の糧になります。

編集後記

親元をあえて離れて大企業での経験を培ってきた林社長。「創業者が作ったレールをただ走るだけでなく、組織体制を立て直し社員の意思を統率することで、社長がいなくても自走できるシステマチックな会社にしていくことが理想です」と語る。

東京・大阪のみならず今後は全国にも進出し、東名阪で業界トップレベルのサービスを目指す株式会社スバルの挑戦はこれからも続く。

林壽生(はやし・としお)/1985年大阪府生まれ。ハワイに留学後中退。2011年株式会社ファミリーマート入社。2018年株式会社スバルに入社し、2021年に代表取締役に就任、現在に至る。