※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

流通菓子の国内市場規模はコロナ禍からの業況の回復やインバウンド需要の拡大により、2022年度は前年度比1.3%増の1兆9614億円が見込まれている。一方で原料費の高騰が長く続いているため、メーカーや問屋など業種を問わず、収益をどう確保するかが当面の課題となっている。

株式会社前田商店(1865年創業、本社・大阪市)は、開国の時代に菓子製造業として創業し、現在ではチョコレートを中心に扱う製菓卸会社。1950〜70年代には商社として輸入にも着手し、コーヒーではなくココアの専門喫茶店『AKAI TORI』をオープンするなど、常に他社に先駆けて多角的に展開してきたのが特徴だ。

最近ではSDGs達成に向けた取り組みや人材採用にも積極的な同社。2019年に5代目として事業を継承した代表取締役社長の前田要一氏に、今後の経営方針について話を聞いた。

経営者としての自信につながったMBAの取得

ーー豊富な留学経験をお持ちですね。

前田要一:
英語が得意だったこともあり、日本の大学を卒業してからイギリスのオックスフォードにある語学学校に留学しました。すでに高校時代にカナダ留学を経験していたので、海外へ行くことに抵抗はありませんでしたね。

さらにそのあと大手商社のオランダ支店に半年間、研修でお世話になり、語学とともに海外での社会経験を積むことができました。

ーー多くの留学でどのような学びがありましたか?

前田要一:
弊社は貿易取引も多く、中でもヨーロッパとのやりとりが多いため、コミュニケーションツールとして語学は非常に役に立っています。

会話だけでなく、現在でもサプライヤーに出向いた際に相手の文化を理解するときにも有利に働きます。そうした面でも当時の経験が活きています。

ーー社長就任前の2017年に大学院に進学していますね。

前田要一:
2001年に弊社に入社して営業を担当していましたが、「前田」という名前ですから、なにかと色眼鏡で見られることが多かったんです。

あるとき「前田さんにとって経営とはなんですか?」と人から問われ、うまく答えられない自分に気がつきました。

「これではいけない、しっかり答えられるようにならなければ」と思い立ち、本格的に経営を学ぶため、大学院に通ってМBAを取得しようと決めました。

ーーМBAはどんなところで活かされましたか?

前田要一:
経営に関して自信がついたのは大きかったですね。弊社は150年以上の歴史のある会社ですから、事業を継承する際のプレッシャーをはね返すためにも、大学院に通って良かったと思います。

そればかりか、大学院の同期として知り合った会計士に弊社の財務を担当してもらい、現在でもとても頼りになるパートナーとなっています。人的資源にも恵まれ、なにものにも代えがたい経験となりました。

いち早くウィズコロナ対策に着手

ーー社長就任後に苦労したことを教えてください。

前田要一:
2019年に社長に就任したのですが、直後にコロナショックに遭ったため、初年度の売り上げは残念ながら1割近く落ち込みました。

大手の信用調査会社の調べで、事業を承継すると数字が落ちるというデータがありますが、これに反発してプラスで終わりたかっただけに、その点でストレスを感じましたね。

ーーコロナ禍ではどのような対策をとりましたか?

前田要一:
需要減退への対策として、経営方針を一部刷新してウィズコロナ対策を進めました。

新しくする「新化」、深く掘り下げる「深化」、先に進める「進化」の3つを実践しています。新規のお客様を開拓し、既存顧客に新しい商品を使っていただくための提案を進めました。

それに加え、他ジャンルにも展開していこうと、機能性食品素材を新規に扱い始めています。こうした対策の成果が出て、業績も徐々に回復していきました。

持続可能な開発目標・SDGs達成への取り組みに注力

ーー貴社の強みはどんなところでしょうか?

前田要一:
弊社は問屋業がメイン事業でありながら、商社機能とメーカーの機能も兼ね備えています。ハイブリッドな問屋という位置づけで活動していますので、川上から中間流通まで、主体性と柔軟性を持って動くことができます。

また技術面でも独自の特長を活かしています。チョコレートを溶かして固めるまでに温度の調整をする「テンパリング」技術をすべての営業マンに習得させていますので、お客様に対して説得力のある商品提案が可能です。

ーー5年後・10年後の目標についてお聞かせください。

前田要一:
メイン商品のチョコレートにはサステナブル原料を使用し、次世代向けの対応を強化しています。

現在は学校教育の段階から環境問題に敏感になっているため、若い世代はその分野にも配慮した企業や商品を選ぶのではないでしょうか。そのため私たちもSDGsの達成に貢献することで差別化を図っていく方針です。

また「プラントベース」という、動物性原料を使わずに植物由来の原料でつくる食のスタイルに対応した製品を積極的に開発していきます。

このほかアレルギーで特定の食物を食べられない人もいて、生活スタイルも多様化していますので、そうしたデリケートなニーズに応える商品やサービスの提供にも力を入れていきます。

編集後記

現在、採用活動にも力を入れる同社では、福利厚生にスペシャル特典を用意しているという。「チョコレート商材は夏が閑散期になるので、夏季にまとまった休みをとれるというメリットがあります」と前田社長。

私生活を充実させ、リフレッシュして仕事に戻れるのは、現代人として理想的な働き方のひとつといえるだろう。

今回、環境面への対応などのトレンドにも敏感に反応し、次世代にマッチした経営を打ち出す前田社長にインタビューできたことは大きな収穫となった。

前田要一(まえだ・よういち)/1977年、大阪生まれ。2000年に芦屋大学教育学部産業教育学科を卒業。イギリスに語学留学後、2001年にニチメン株式会社(現:双日株式会社)オランダロッテルダム支店にて研修。2002年、株式会社前田商店に入社。2007年に係長、2011年に課長に就任後、東京支店から大阪本社に転勤。2019年に関西学院大学大学院経営戦略研究科(IBA)修了、経営管理修士(MBA)取得。2019年、同社代表取締役社長に就任。趣味は語学、スキー、サーフィン、ゴルフ。