※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

古野電気株式会社は、魚群探知機や船舶レーダーなどを取り扱う舶用電子機器のトップメーカーだ。提供している製品は150以上の国・地域のユーザーから高い信頼を得て愛用されており、海外売上比率は60%以上に達するグローバル企業だ。

今回は代表取締役社長の古野幸男氏に、就任するまでの経緯や社長として心がけていること、CSR活動としての「海を未来にプロジェクト」や、今後のビジョンなどについて話を聞いた。

世界トップシェアメーカーの代表取締役社長に就任するまで

ーー社長に就任するまでの経緯を教えてください。

古野幸男:
1971年に帝人株式会社に入社したのですが、36歳を迎えた時に当時の社長から弊社に誘われ、1984年に入社しました。

最初は経営計画の立案や管理などを行う経営企画の仕事からスタートし、1987年には管理本部の副本部長になり、そのあと取締役、専務を経て2007年に弊社の代表取締役社長に就任しました。

ーー入社後に苦労したエピソードがあれば教えてください。

古野幸男:
主に2つ挙げられます。1つ目は、同族経営の会社で、社長の親族として見られる中で働かなければいけなかったこと。

そして2つ目は、化学メーカーである帝人株式会社から入社したので、全く未経験の業界で働いたことです。

入社後は経営企画を担当し、3〜4名の部署で働いていたのですが、他の方々も忙しくて、なかなか相談や情報をいただく機会を得にくい環境でした。「これではいけない」と思い、漁業白書(現在の水産白書)を買って、とにかく業界について勉強しました。

同時に、弊社をはじめ同業他社の有価証券報告書や決算書を読み、自社の特長や強みについて知見を深めました。すると、「社内でも業界や会社のことに詳しい人」だと周りの社員からも認めてもらえるようになりました。

ーー社長として心がけていることはありますか?

古野幸男:
人や物事を素直に見るように心がけています。たとえば、何か問題が起こったときに「良い・悪い」「好き・嫌い」ではなく、まず事実を理解することを大切にしています。
そうすることで客観的な視点を持って物事を判断でき、人それぞれの個性を認めながらコミュニケーションをとることができます。

そして、常に広い視野と寛容な心を持ち続け、業務に取り組み、人と接していきたいと思っています。

ーー経営に取り組む上で大切にしていることは何ですか?

古野幸男:
「弊社の商品をお客様が買い、喜んでいただくことで弊社が成長する」という顧客視点の気持ちを大切にして経営に取り組んでいます。

また、油断せずに先のことを考えて経営を行うようにしています。これまでにも何度か、海洋環境や気候変動など様々な要因が重なり、一時的に魚が獲れなくなるといった場面に直面したこともありました。順調に進んでいても、とたんに苦難にぶつかることを経験してきたので、決して驕ることなく、真摯に経営に向き合っていきたいと思っています。

ーー「海を未来にプロジェクト」について教えてください。

古野幸男:
「海を未来にプロジェクト」は、海に育まれてきた企業として、一人でも多くの方に海を好きになってもらいたいという思いから始まったプロジェクトです。好きになったものは、「守ろう」という次のアクションに繋がるものと考えています。

2023年夏にFURUNO公式アンバサダーに「さかなのおにいさん かわちゃん」を採用し、「海を大切にしよう」と呼び掛ける活動を始めることにしました。弊社の事業ビジョンで掲げる、「安全安心・快適、人と環境に優しい社会・航海の実現」を目指して、さらに大きく成長させていきたいと思っています。

海の魅力を伝えるトークショーなども定期的に開催している

DXで漁業市場の可能性を広げる

ーー新しい取り組みとして始めていることがあれば教えてください。

古野幸男:
漁業のスマート化です。漁業もデジタル技術を活用したDXの推進が、変化を乗り越えるカギになると考えます。たとえば、機器から得られるデータを活用して、魚のサイズや種類など経済価値の高い魚群を解析したり、過去のデータから魚が多い海域を把握して効率化を図るなどが挙げられます。

航海情報を一挙に集約し分析することで、効率操業や漁獲物の高付加価値化を図る

漁業は1次産業で情報化が遅れているイメージを持たれがちですが、現在は日進月歩でスマート化が進んでおり、情報を活用することが売上向上にも直結するので、今後も効率的な漁業の実現に向けてDXに取り組んでいきたいと思っています。

グローバルニッチトップ企業にも選ばれた高い実績が武器

ーー求職者の方に向けた貴社のアピールポイントを教えてください。

古野幸男:
弊社は1948年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功して以来、超音波や電子技術など独自の技術力を活かして、高性能で高品質な船舶用電子機器を提供できるよう努めてきました。

光栄なことに2020年度には、「全世界シェア41%を占める商船向けレーダーの実績」、「船舶の航行に必要なさまざまな電子機器を総合的に揃えることができる商品力」、「世界を航海するお客さまの船を止めることなくどこの港でも要望に応じるサービス力」、また「全世界での販売網」が評価され、「経済産業省認定新グローバルニッチトップ企業100選」に選出いただいております。

さらに近年では、超音波・電子技術に最新の情報処理・画像処理技術等を加えて、AR(拡張現実)航海情報表示システムを開発するなど、安全安心で効率的な船の自動運航の実現に向けた技術革新にも取り組んでいます。

周辺状況の把握につなげる「認知支援」や周辺状況から避航をサポートする「判断支援」などの機能開発を行う

一つ特徴的な自社制度をご紹介すると、小型船舶操縦士免許の取得補助金を出しています。弊社では、売上の約8割を占める船舶用の電子機器を取り扱っている一方で、ボートに乗ったことがない社員が多くいます。そこで、資格取得の補助金を出して経験者を増やし、その経験を製品開発や販売促進などに活かしてもらう環境を整えました。

たくさんの本から知識を吸収してほしい

ーー最後に読者である若手人材に向けてメッセージをお願いします。

古野幸男:
たくさん本を読んでほしいと思っています。私は学生時代は歴史の本を多く読み、歴史の流れや転換期などについて学びました。また、社会人になってからは経済の本を読み、為替の変動や世界の経済の動きなどを勉強しました。

歴史の学習は「なぜその戦が起こったのか」というような背景や原因を知ることができますし、経済の学習は仕事を行う上で大きく役に立つ知識です。読書からは、生きる上でも仕事をする上でも必要なことを吸収できるので、まずは興味のある分野から、本を手に取ってみてほしいです。

編集後記

「社長の親族」という目で見られる中、主体的に業界知識を習得し、少しずつ社内の信頼を獲得してきた古野社長。

グローバルニッチトップ企業にも選ばれるほどのトップシェアを誇るまでに成長し、「海を未来にプロジェクト」では環境保護にも貢献している。直近では事業のDXにも取り組み、さらなる事業拡大を目指す古野電気株式会社に今後も期待だ。

古野幸男(ふるの・ゆきお)/1971年、帝人株式会社に入社。その後、1984年に古野電気株式会社に入社。1987年、管理本部の副本部長に就任。1987年、取締役就任。1990年、常務取締役就任。1999年、常務取締役管理担当兼東京支社長に就任。2007年、代表取締役社長に就任。2021年、代表取締役社長執行役員兼CEO(現任)。