※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

株式会社ユタックスは、シームレス技術や多品種展開のインナーパーツの技術力をいかし、下着をはじめ、スポーツウェア、メディカル用品などを製造販売している。グローバルに事業を展開し、さまざまな分野でトップクラスのシェアを獲得しているニッチトップの会社だ。高品質低コストの商品展開で高い評価を得ている。

同社をけん引する代表取締役社長の宇髙大介氏は、祖父の代からその座を受け継ぎ、3代目社長となる。今回は、会社の変遷と今後の戦略について、宇髙社長に聞いた。

ユタックスが織りなす、ブラジャーパーツの革新の歴史

――貴社設立の経緯を教えてください。

宇髙大介:
弊社の始まりは、私の祖父が泉縫工株式会社のバイアス部門を独立させ、新たにブラジャー用金属パーツの資材を専門とするメーカーである北条センイ株式会社を1967年に設立したことです。

当時、ブラジャーは日本では新しいもので、特殊な資材を量産する設備もありませんでした。しかし、祖父は縫製技術を持つエンジニアだったので、人材を集めてブラジャー用副資材の製造設備開発に着手しました。そして、国内のブランドに資材を供給し、徐々に事業を拡大していきました。

2代目の父は、早い段階から海外展開を積極的に進めていました。泉縫工時代から付き合いのある台湾の知人とともに、香港に子会社を設立したのを皮切りに、台湾、タイ、フランスへと事業所を設立していったのです。

その後、1990年代後半から2000年代頃、シームレスのレディースインナーが流行したことで、弊社は無縫製によるインナーウェア製造技術を確立し、市場に参入しました。各メーカーから依頼されるレディースインナーの資材事業と、シームレスインナー事業の両輪が確立し、弊社の事業基盤が固まりました。

2017年に私は社長に就任しましたが、現在、国内のブラジャー用の資材ビジネスにおいて、競合他社がほとんどいない状況です。

――苦労したエピソードを教えてください。

宇髙大介:
あるインナー製品についてですが、旗艦店で5万枚の試作品を販売し、好評だったため発売が決定し、一気に100万枚の発注をいただきました。

そこで、製造ラインの増設を迫られましたが、弊社の生産設備はすべて自社開発で既製品がありません。すべて自社で組み立てなければなりませんでした。また、コスト削減を目的に海外で製造するため、日本で機械設備を組み立て、それを海外工場に輸送して設置する手順を踏む必要があり、リードタイムがかかりました。

お客様に納得いただけるスケジュールを組むとともに、納期を守る責任も重く、調整に追われる日々を送ったことは苦労した経験のひとつです。

職場の幸福度が、業績に反映

――社長の経営哲学をお聞かせください。

宇髙大介:
派手な目標を掲げて社員を鼓舞するような経営スタイルは、私の性格に合わないので、あまり大きな目標は立てません。

売上を追求するよりも、利益を確実に確保しながら、社員に還元できるような企業でありたいと思っています。それに、職場の雰囲気が悪いと、会社に行くのがつらくなってしまいますよね。

仕事は必ずしも楽しいとは限りませんが、職場を楽しい雰囲気にすることはできます。良い環境を整える一環として、社員食堂の改善を行いました。

また、組織風土の変革として人事評価システムを見直し、全体的な目標に「思いやりポイント」を組み入れました。上司に思いやりが欠けていると、一方的な管理スタイルやパワハラに近い言動になりがちです。

目標導入後、ポイントが高い人ほど、業績も良好な傾向が見られました。職場環境は以前よりも働きやすくなり、売上も伸びています。

――社長が一緒に働きたいと考えるのは、どのようなマインドを持つ人ですか?

宇髙大介:
「誠実」「協調性」「積極性」を大切にする人です。周囲の人々に誠実に対応し、積極的にかかわり相手の話を聞くことで、チームワークを高め、成果を上げることができます。
つまり、チームで仕事をする上で重要なのは、社交性があり傾聴力を持つことだと、私は考えています。

レディースインナーから異業種の世界へ

――今後の貴社の方向性をお聞かせください。

宇髙大介:
弊社の主力事業はレディースインナーであり、その事業をさらに強化していきたいと思います。

具体的には全世界市場で新規顧客の獲得を目指していく考えです。ヨーロッパ市場では高級ブランドやデザイン性の高い製品が主流でこの市場を攻略する事で更なるレベルアップに繋がります。
市場のボリュームゾーンを考えると、アメリカ市場も重要であると認識しています。アメリカ市場はコスト面で厳しくなってきていますが、依然として大きな市場であり、今後も成長が見込まれると考えています。

――新たにチャレンジしたい事業はありますか?

宇髙大介:
弊社には独自の接着技術や染色技術などがあります。この技術をいかして、レディースインナー以外のさまざまな異業種展示会に出展したところ、プラスチック射出成形品の染色加工に多くの反響がありました。

たとえば、プラスチックの射出成型は小ロット多色展開が難しいのです。しかし、弊社の技術を使えば、部品を白で製造した後から自由に色付けができます。しかも、小ロットでも対応可能なので、とても好評をいただきました。現在、多くの引き合いをいただいております。
このビジネスは、将来的にさまざまな展開が期待できると思います。

編集後記

「国内に競合他社はいない」と語る宇髙大介社長のまなざしは、海外に向いていた。日本の繊細さとヨーロッパの洗練を融合した同社のインナーが、新たなトレンドを創造する日も近いだろう。また、オリジナルの染色技術がプラスチック成型のイノベーションをリードする未来に、大きな可能性を感じた。
宇髙大介社長の挑戦に、これからも注目していきたい。

宇髙大介(うたか・だいすけ)/1976年、兵庫県生まれ。1999年甲南大学卒業。株式会社ユタックスに入社。取締役営業部長、専務取締役などを経て2017年、代表取締役社長に就任。