※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

昨年、消費者物価指数の上昇率が41年ぶりの高水準となり、家庭の消費支出の増加が見受けられた。必要な分だけを購入する節約意識が高まり、買い控えが起こるため小売業界が抱える課題は多い。そんな中でも地域に根ざした経営を行っているのが山梨・長野で展開する株式会社いちやまマートだ。

今回は地域密着型スーパーを創業したきっかけや、無添加にこだわるプライベートブランドを立ち上げた経緯などを代表取締役社長である三科雅嗣氏にうかがった。

悩むばかりだった入社直後

ーー大学卒業後、家業ではなく商社を選択した理由を教えてください。

三科雅嗣:
私が12歳の時、父が甲府で初の本格的なスーパーであるいちやまマートを創業しました。兄が父の後を継ぐことになっており、私は次男だったため、「好きなことをしていい」といわれていました。

海外へ行きたいと思って商社を選びましたが、決まった仕事ばかりで、やりがいは感じられませんでした。そのため、26歳の時に家業の会社に入ることにしました。

ーー入社して苦労したことはありますか。

三科雅嗣:
入社直後にお寿司の販売を任されたことです。当時は全国的に持ち帰り寿しの専門店「小僧寿し」が流行っていたので、弊社では金沢の企業と提携して笹で一つ一つ包んだ「笹寿司」を販売しました。見た目もおしゃれなお寿司だったので発売後1、2ヶ月は売れましたが、押し寿司という文化が関東にはあまりなかったこともあって失敗に終わりました。

商品を売り続けるためには、地域特有のニーズに応える必要があることを改めて知りました。その頃に父が癌で亡くなり、急きょ店舗開発部長を任されることになりました。経験も知識もなかったので、さまざまな取り組みを行いながら勉強していく日々でした。

ーー地域密着型スーパーを目指したきっかけはなんでしょうか。

三科雅嗣:
倉本長治さんが主催した「商業界ゼミナール同友会」という勉強会に参加したことがきっかけだと思います。そこで「小売業は地域のお客様のためにあるから儲けばかり考えてはいけない」ということを学び、「店はお客様のためにあり社員と共に栄える」を会社の信条としました。

経営方針を大きく変えた家族との別れ

ーー地域密着型スーパーの魅力を教えてください。

三科雅嗣:
地域によってニーズの差が大きいことが、苦労する部分でもあり、同時に魅力でもあります。地域が違えば食生活も違って、生活環境も年齢層も変わります。

たとえば、「山梨ではこし餡が売れない」とか「広島の方だとイカ天の陳列が多い」とか、スーパーは地域によって特性があります。チェーン店や大手だとそこまで細かい対応はできないので、お客様の声を生で聞いて地域特有のニーズに応えることができるのが、地域スーパーの魅力だと思います。

ーー「美味安心」というプライベートブランドを立ち上げたきっかけはなんでしょうか。

三科雅嗣:
父も兄も癌で亡くしたことが大きいと思います。健康食品について深く学ぼうと、添加物の研究をしていた西岡一氏に勉強会を依頼しました。その結果、「弊社では合成着色料の入った商品を店頭販売しない」と決定し、新聞で広告を出しました。その後、他の添加物の商品も少しずつ減らしていき、最終的には無添加のプライベートブランド「美味安心」を立ち上げました。

ーー今後の目標や展望などをお聞かせください。

三科雅嗣:
商品力をきちんと育てたいと考えています。今は単品で量販できる商品がないので、地域の特性を見極めた食品開発を行いたいですね。そのような商品があると店舗あたりの集客力が上がるので、人事生産性も同時に上げていく必要があると思っています。

さまざまな経験をしてきたからこそ伝えたいこと

ーー20代、30代の方へ伝えたいメッセージはありますか。

三科雅嗣:
食への関心を持ってもらいたいと思います。毎日の食べ物が健康をつくり、美容をつくります。生きていくための資本は体で、体は食べ物でできているので、食事を意識した生活を送ってもらいたいのです。毎日の食事に気を遣うことで不調が改善されることもあるので、できればそのような意識を持って弊社で働いてもらえればと思います。

ーー小売業はどのようなところが魅力だと思いますか。

三科雅嗣:
スーパーはお客様と直接関わるので、商品開発や改善を行ったあとのお客様の声や反応によって、自分の努力や成果を感じることができます。仕事に実感を持つことができ、モチベーションが上がるので、喜びを感じながら仕事ができる小売業は本当に楽しい仕事ですよ。自分の努力が形になって現れる仕事が小売業だと思います。

編集後記

自身の経験を活かし、お客様のための地域密着型スーパーにこだわり続ける三科社長。健康を意識した商品を販売し、お客様に幸せを届けるその理念は、代表となった今でも持ち続けている。

消費者の健康を優先する姿勢を持ち続ける株式会社いちやまマートの今後にいっそう期待したい。

三科雅嗣(みしな・まさし)/1952年山梨県生まれ。慶應義塾大学を卒業後、商社を経て1978年に株式会社いちやまマートに入社。1991年に代表取締役に就任。全国スーパーマーケット協会副会長。