※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

原材料費の高騰や人手不足の深刻化など、食品業界は多くの問題を抱えている。そんな食品業界で、日本の食肉加工機械の未来を支えようと奮闘しているのが株式会社なんつねだ。

業界トップクラスの食肉スライサーメーカーとして知られる同社の代表取締役社長、南常之氏は、顧客企業の売上に貢献することを第一に考え、赤字だったなんつねを発展させた。

先代社長の父が事故で急逝し、社長の座に突じょ就くことになった南氏がどのように会社を牽引してきたのか。その軌跡を辿った。

20代の成長ポイントは「知識欲」と「無知の知」

ーー今までの経歴について教えてください。

南常之:
父が3代目の社長だったこともあり、幼い頃から社員さんたちと一緒にバーベキューをしたり、朝ご飯を食べたりする機会がありました。そのときから社員さんたちには「4代目」と呼ばれており、私が将来会社を継ぐのだと意識してきました。

大学を卒業して弊社に入社した後は、アメリカのコミュニティ・カレッジへ留学。この留学によって、自分には「知識欲」があること、そして自分は何もわかっていなかったのだという「無知の知」に気づくことができました。

これが、20代の大きなポイントだったと思います。このときに勉強の楽しさに気づき、最終的にアメリカの大学でMBAを取得しました。

ーーどのようなきっかけで社長に就任したのでしょうか。

南常之:
父が事故で急死したことをきっかけに、社長を継ぐことになりました。急な出来事だったので引継ぎもありませんでしたし、当時は経営幹部のポジションに20代や30代の人材を置きながら模索する数年間でした。

大変ではありましたが、このときに同年代の経営幹部を育成できたのは、今となっては良かったと思いますね。今では、執行役員クラスにも同年代や年下がいますから。

機械導入の提案先を変えることで会社のピンチを打破

ーー社長就任後の印象的なエピソードはありますか。

南常之:
社長を継いだ当初、会社は赤字で、過去に開発したスライサーの製品でつないでいる状態でした。

当時はお客様から値引きを要求されることが多かったのですが、そのときに「値引き以上の利益をもたらして貢献したら、お客様は値引きを要求しないのでは」と気づいたのです。

コストを下げるのには限界があるので、コストダウンではなく、お客様の売上に貢献する手伝いをしたほうが面白いと思うようになりました。

ーー具体的にどういった取り組みをしましたか。

南常之:
今までは購買担当者へ機械の導入を提案していましたが、商品企画の担当者へ提案するようにしました。理由は、商品企画担当者は機械をただ安く買うための決断ではなく、会社のトータルの利益を増やすために必要な投資の意思決定をしてくれるからです。

そのため今までは「150万円の機械を130万円で買うためにはどうすべきか」という話になりがちだったのが、相談先を変えたことで「1000万円の製造ラインで数億円の売り上げを出すためにはどうすべきか」という話ができるようになりました。この部分が、会社の発展につながったポイントだと思います。

長所を伸ばす評価制度で社員の意識を変革

ーー南社長が実施した社内での取り組みはどんなことがありますか。

南常之:
大きく変えたことの一つは評価制度です。今までは社員の評価をSABCと細かく分けていました。しかし、S・A評価は実態として多くありませんでした。BとCは僅差なのに給与が変わるので、社員たちはSやAを目指すのではなく、「Bをとるためにはどうすれば良いのか」という方向に動いてしまっていたのです。

そこで、たとえ失敗しても評価はほとんど変わらないけれど、その代わりに何か成功した場合はS評価になるという評価制度に変えました。つまり、「大きなゴールを設定してください」ということです。

「たとえ失敗しても、成長したら等級を上げる」という考え方を伝えることで、社員はミスに臆することなく、上司や経営幹部が部下の成長を見極められるようにしました。

弱点によって評価を下げる評価制度だと、人は弱点を補おうとします。それは、組織にとって非常にもったいないことです。私は社員たちには積極的に大きな目標へチャレンジしてもらい、長所をどんどん伸ばしてほしいと思っています。

ーー一緒に働きたい人物像について教えてください。

南常之:
能力・やる気・方向性の3要素でいうと、成果を出すために最も大切なことは「方向性」だと私は考えています。そのため、私たちの方向性に賛同して、それを最大限のモチベーションアップにつなげてくれるような人がいたら一緒に働きたいですね。

弊社では学歴や年齢、新卒か中途かなどは一切問いません。経営幹部も40〜60歳までと幅広く、年齢を重ねないと役職になれないという決まりもありません。そういった点に共感できる人にとって、弊社は働きやすい会社だと思います。

編集後記

2022年6月、南社長は日本の食品機械企業が抱える後継者不足などの問題を感じ、GASTROTEC Holdings株式会社(ガストロテック)を設立した。これは、「食品機械業界の問題に業界全体で立ち向かう連合体のようなもの」とのこと。

自社の将来だけでなく、業界の未来のために動いている南社長。そんな南社長が率いるなんつねなら、これからも日本の「食」を根本から支え続けてくれるだろう。

南常之/1975年大阪府生まれ。1998年関西大学文学部卒業後、南常鉄工株式会社入社。2002年カリフォルニア州立大学経営大学院卒業、MBA取得。2005年株式会社なんつねに社名変更。2010年父の急逝により、株式会社なんつね代表取締役社長に就任。2011年神戸大学大学院専門職課程修了、MBA取得。2022年GASTROTEC Holdings株式会社設立。一般社団法人日本食品機械工業会の副会長、EO Osaka第14期ガバナンス理事を務める。モットーは、「死ぬまで成長すること」。