株式会社巴川製紙所 大赤字からの再起。老舗製紙メーカー5代目社長が語る挫折を成長へ変化させるヒント 株式会社巴川製紙所 代表取締役社長 井上 善雄  (2021年12月取材)

インタビュー内容

【ナレーター】
事業の縮小などによって赤字は解消できたが、このままでは安定的な成長は望めない。そう判断した井上が、次に取り組んだのが成長戦略の立案と実行だった。

思い切った決断をしたと当時を振り返りながら、井上は次のように語る。

【井上】
「やらないことを決める」というのも経営だと。ですので、当時需要があったソーラーセル太陽電池とリチウムイオンバッテリーは一切やらないと決めました。そして、安定成長のために“熱” “電気” “電磁波”に方向性を絞ったんです。

5GやIoTの台頭で、あらゆる機器がインターネットにつながり、より小さな部品や回路に高電圧、大電流がかかるだろうと思いました。

“電気”においては、絶縁破壊への対策が必要です。スマホが大変熱くなることがありますが、“熱” においては機器から効率的に逃がす仕組みが必要となります。

“電磁波”においては、機器の誤作動防止が必要になると考えました。そのため、電気以外の無機材料や電磁波、熱関係の評価機器を先行投資で導入していきました。

その手応えは、3、4年前から感じるようになり、今は半導体製造装置など、いくつかの新製品が立ち上がっていく見込みです。

【ナレーター】
さまざまな成長戦略を実行し、苦難を乗り越えた巴川製紙所。その根底にあるのが「出る杭を伸ばす」という考えだ。どのようなことに取り組んでいるのか。

【井上】
お客様満足を通じて、最終的に利益に結実させる。そうしなければ、雇用が守れず、株主にも還元できず、人も成長できず、誠実でない、というようなことをずっと発信してきています。

管理職以上の方とは、昼食を一緒に食べながら、1時間ぐらいじっくり話を聞く。

管理職未満の方も、「30分面談」をして、将来どういうキャリアを積んでいきたいか、会社や職業に何を求めてどうなりたいのか、という話を聞き、なるべく本人の希望に沿うように、丁寧に寄り添うことを心がけています。

そのうえで、「この人は“出る杭”だな」と思えば、周囲の人間関係でなるべく悩まされないように、伸びていけるように気を配っています。

それから、主任クラスから「ハイ・フライヤー研修」を実施しています。出る杭は放っておくと叩かれるので、出る杭が叩かれないような取り組みを自ら中心になって行なっています。

これが何千人という規模の会社になると実施しきれないのではないかと思いますが、今の規模だからまだ実施できると思っています。

【ナレーター】
井上が描く、巴川製紙所の未来像とは。

【井上】
ある程度、会社の規模が小さいことは、悪いことではありません。ただ今の売上、利益レベルではまだ不十分だと思っています。

“熱” “電気” “電磁波”。それから環境というのも当然今は無視できないものになっています。

“熱” “電気” “電磁波” “環境貢献”というのをキーワードに、しっかり社会貢献できる製品を立ち上げて、売上高としても年商500億円、ひいては1,000億円ほどの会社にして安定化させていきたいなと。

環境貢献というところでは、売り上げを横ばいにしながら、CO2の排出量は2013年比率で半分以下に抑えています。東京ドーム630個分の山林育成もして、かなりの CO2量の吸収をしています。

環境貢献では、『グリーンチップ® CMF® 』というセルロースファイバーを半分以上含むことでプラスチックを減らせる製品や、半導体製造装置向けの部品については、これも省エネ、省電力に貢献する部品ばかりです。

そのような意味では、ESGやSDGsというところでより貢献していることをアピールしていきたいと思っています。

【ナレーター】
求める人材像について、井上は次のように語る。

【井上】
1人では何にもできないので、やはり多種多彩な人材がいてほしいと思っています。

大前提として、「面白い仕事したいな」と思っている人。会社を通じて自己実現したいと思っているような人に参加、参画してもらう。

製造業はいろいろな形の役割があるため、その人の「自分の居場所」は見つけられるのではないかと思っています。

―大事にしている言葉―

【井上】
「人の行く道の裏に道あり」という言葉がありまして。

この会社に入ってみて、テレビだフラットパネルディスプレイだとガツンと投資して痛い目に遭いました。これは「人の行く道」だったなと。

アメリカのテスラが勝ったのは、まだそういう時代ではないときに(電気自動車事業に)取り組んだからですよね。

特に私どものような中堅資本にとっては「人の行く道の裏に道あり」というのは大事だと思っています。

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経営者プロフィール

氏名 井上 善雄
役職 代表取締役社長
生年月日 1964年11月8日
出身地 東京都
座右の銘 人の行く道の裏に道あり
愛読書 宮城谷昌光氏の中国歴史小説
尊敬する人物 西郷隆盛
略歴
1987年 3月  慶應義塾大学経済学部 卒業
1987年 4月  株式会社日本興業銀行 入社
1998年 3月  株式会社巴川製紙所 入社
1999年 6月  株式会社巴川製紙所 取締役
2000年 3月  株式会社巴川製紙所 常務取締役
2002年 6月 株式会社巴川製紙所 代表取締役社長(現任)

会社概要

社名 株式会社巴川製紙所
本社所在地 東京都中央区京橋二丁目1番3号 京橋トラストタワー 7階
設立 1917
業種分類 木材・木製品、パルプ・紙・紙加工品製造業
代表者名 井上 善雄
従業員数 連結1,285名、単体380名(2023/3/31現在)
WEBサイト https://www.tomoegawa.co.jp/
事業概要 ・紙、不織布およびパルプならびにこれらと他の材料との複合物の製造、加工、輸出入販売 ・プラスチックスおよびこれと他の材料の複合物の製造、加工、輸出入ならびに販売 ・電子写真用現像剤、複写、印刷、記録用材料の 製造、加工、輸出入ならびに販売 ・電子機器用部分品、電磁機器用部分品、通信機器用部分品および電池用部分品の製造、加工、 輸出入ならびに販売 ・磁気記録カード・テープおよび集積回路内蔵 情報記録カード等の製造、加工、輸出入ならびに販売 ・上記製品類の原材料の輸出入ならびに売買
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