※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

1964年に「電気式タオル蒸し器」のメーカーとして創業したタイジ株式会社。夏は冷たく、冬は温かいおしぼりは飲食店の定番となり、今では日本らしい文化として世界に知られている。2代目となる同社の代表取締役社長、堀江裕明氏に企業の歩みや今後の展望をうかがった。

日常のあらゆるシーンに!業務用に特化した保温機器とは?

ーー事業内容と企業の強みを教えてください。

堀江裕明:
弊社は、飲食店やホテルで使われる保温機器のメーカーです。創業者が考案した日本初のタオル蒸し器を皮切りに、食品の保温をメインとしたサービス機器を製造しています。

タオル蒸し器は弊社のアイデア商品ですが、緻密な温度管理を不要とするシンプルな作りです。「シンプルゆえに壊れにくい」という品質への自信があるほか、価格以上のプラスアルファでも勝負しています。店舗の規模や雰囲気に合わせて機器を導入できるように、細かいサイズ・カラーを展開しており、品揃えの多さは業界随一です。

使用する材質も用途に合わせて改良します。美容関係で使われる機器は油脂分が付着しやすいので、扉など樹脂の部分は割れや変形しにくい樹脂材料に変更したり、全般的に内箱などは錆びやすいアルミではなく、抗菌性の高いステンレスに変更しています。

ホットキャビ HC-11UV Pro

居酒屋で熱燗~ぬる燗を1台で用意できる酒燗器も、お酒の味を変えない材質を採用しています。お客様のニーズに合わせた商品開発こそ、弊社が選ばれている理由だといえます。

酒燗器「燗」マイスター TSK-11

ーー企業の特徴やテーマはありますか?

堀江裕明:
「ニッチな分野で勝負できる商品を作り続ける」というのが弊社最大の特徴です。展示会に参加するときも、必ず新しいものを発信すると決めています。

また、海外展開にもいち早く動きました。店内でおしぼりを提供する文化は日本で生まれたものです。弊社のタオル蒸し器といっしょにこの習慣が海外へ広がったので、弊社は日本文化を世界に発信する一翼を担っていると思います。弊社では「おもてなし」や「ぬくもり」を提供する機械づくりを根底に、「ホスピタリティ」をモットーとして掲げています。

キャリアジャーニー、大手金融会社から中小企業の社長へ

ーー堀江社長のご経歴をお話しいただけますか。

堀江裕明:
大学を卒業して、大手銀行グループのファイナンス会社に就職しました。1993年にタイジ創業者の長女である妻と結婚し、「会社を継ぐか否か」という人生の岐路に立ちました。金融業界という仕事柄、バブル経済崩壊後には中小企業の苦労を目の当たりにしていたため、将来について非常に悩みましたが、父にも「今後は大手企業なら安泰という時代ではなくなる」と言われ、新しい世界へ飛び込むことに決めました。

入社後は時代の変化に備えてモデルチェンジを提案し、アイデアを形にする開発技術の向上と人材採用に力を入れました。5年ほど営業を経験してから経営者になりましたが、当時はタオル蒸し器と酒燗器が売り上げの9割を占める状況で、危機感も抱いていました。

新商品開発と海外展開へのチャレンジ

ーー危機感を抱いた後、どのような行動をとりましたか。

堀江裕明:
新たな主力商品を見つけようとしました。そのヒントを探していたところ、海外ホテルの朝食はブッフェが当たり前であることを知りました。ブッフェが浸透する前の日本には競合メーカーが少なかったので「料理の保温機器」は自社技術を活かせる分野だと考え挑戦しました。

また販路の多様化を目的に、私が入社した頃は3ヶ国だった輸出先を100ヶ国まで増やす計画も立てました。現在は95ヶ国にまで広がっています。海外向けホームページで情報を発信した効果も大きかったですね。今後も新商品開発と海外展開は積極的に行っていきます。

ニッチな中小企業が生き残る方法、求める人材像

ーー今後の展望をうかがいたいと思います。

堀江裕明:
設立60周年を機に、中小企業が生き残る方法を社員と考え直しました。「大きな海ばかり見ずに、小さな池をいくつも見つける」というのが今後のビジョンです。

個人的にも、いろいろなことに興味を持って接するようにしています。日々の積み重ねや引き出しがないと、新しいアイデアは絶対に生まれません。明確な10年後の未来は語れないけれど、チャレンジや失敗を避けることはしたくないと思います。

ーー未来のために求める人材像はありますか?

堀江裕明:
言われたことだけをやるのではなく、自分で考えて行動できる人を求めます。社員にも多くの引き出しを持つ人になってほしいと思いますね。新しいことにチャレンジできる環境を作り、最終的には社員が幸福であることを望みます。働くことで人間は成長し、豊かな人生を送れると考え「社員に満足してもらえる会社」を目指しています。

編集後記

世の中の変化に対応し続けることで、独自のポジションを築いたタイジ。同社の「クールプレート/プレートヒーター」は、今や日本全国のホテルブッフェでおなじみの製品だ。日本ならではのおしぼり文化を世界に広げた同社は、まさに日本の誇りだと言える。

堀江裕明/1960年、静岡県生まれ。成城大学卒業。日本債券信用銀行のグループ企業に入社し、10年にわたって金融業に携わる。創業者の長女と結婚したことを期に、1993年にタイジ株式会社へ入社。2003年、代表取締役社長に就任。