※本ページ内の情報は2023年10月時点のものです。

大阪・福井を中心に、全国5ヶ所に拠点を持つ大和金属工業株式会社。太陽光発電の関連部品にいち早く注目するなど、先見の明を持ち、成長を続けている金属加工業者だ。

2022年に代表取締役へ就任した橋本孔志氏は、すでに次世代を見据えた経営に乗り出している。多くの製造業者が抱える、人材の高齢化および若手・中堅の空洞化問題。父の背中を見てきたと語る二代目社長に、明るい未来への道のりについて伺った。

父の背中を追って――金属加工の世界に魅せられた二代目

――社長に就任されるまでの経緯をお聞かせください。

橋本孔志:
僕はコンピューターグラフィックス(CG)製作に興味があったため、親の会社を継ぐ気はありませんでした。父に「うちの会社でもCGを扱える」と誘われ、最終的に入社を決めたのです。CGといってもCADのことでしたので、物は言いようだなと思いましたね。

最初は半信半疑でしたが、金属加工でのモノづくりの楽しさを知り、父の仕事ぶりを見ているうちに、「親父に評価されたい」と心が動いたのです。

経営者の息子ということで自動的に「二代目社長」になるのではなく、しっかりと実力をつけようと決意して、そこから製造6年、金型4年、営業17年とガムシャラにやってきました。

――双子のご兄弟もいらっしゃいますよね。代替わり前後には、特別な話し合いなどをされたのでしょうか。

橋本孔志:
双子の弟は工場長を担っています。弟は技術畑、僕は営業畑というように、人の素質は二極化されるところがありますが、父はその両方を持っていました。

今後、弟も経営に加わる際には「二人で一つ」となり、組織が大きくなるからには「双子それぞれの長けた能力を合わせていこう」と話しています。

一人の辛さを抱えてきた父には、「なるべく早く退いて息子に会社を託したい」という思いがあったようです。しかし、仕事一筋だった人ですから「75歳の誕生日で仕事を辞める」と言った日からまったく元気がないわけです。

息子としては心配になり、「自分たちに気を遣わなくていい」「仕事が嫌になるまで会社にいてほしい」と家族で話し合いました。

企業を骨太にする次世代の育成術

――現在はご自身が人を評価する立場となりました。次世代の育成についてどのようにお考えですか。

橋本孔志:
父は「お客様に良いものを安く提供できる」という自信のもと、営業を進めていました。「信念のある言葉しかお客様の心に響かない」というマインドは次世代にも継承したく、営業力やマネジメント力がある人を積極的にスカウトしています。

また、多能工な人材は最強だと考え、2020年頃から「ILUO」という育成・評価プログラムを導入しました。個人がスキルアップできる勉強会も毎週開催しています。

弊社は約80人規模から、十数年間で倍の従業員数となりました。小さな商いが急成長すると、屋台骨が脆弱でいつ折れるかわかりません。若い人材が社内で育つ仕組みができたときに初めて骨太の企業体ができると考え、ここ2~3年は人材育成に注力しています。

若い人が将来的に目指したい場所を見つけられるようにすることも大切です。適材適所はもちろん、個人が持っている能力を違う方向で発揮できる可能性も導いてあげたいですね。

社長になっても「営業」をやめない理由

――社内の育成体制を改革する傍ら、事業の新規開拓にも取り組まれているのでしょうか。

橋本孔志:
弊社はビデオデッキメーカー様とのお取引で大きな利益を上げましたが、時代の流れにより低迷してしまいました。その中で出合ったのが、パワーコンディショナー環境事業です。

まだ市場の狭かった太陽光再生可能エネルギーに注目し、蓄電池の加工に特化していきました。事業開始から10年ほど経ち、今ではプレス業界において有力な位置にいます。

価格や納期の都合で他社が断るような仕事も引き受け、厳しい部分を設備投資などで改善してきた結果が武器となりました。弊社のように「小回りが利くプレス屋」は少なく、他社と差別化できる強みとなっています。

お客様が望むものを提供するスペシャリストでいるためにも、僕は営業を続けています。新規開拓する手段の一つとして、顧客の動向を常に把握し、経営判断と基盤構築に活かしたいからです。

明るい未来のための若者への投資

――理想の組織体制に必要な人材は、どのように獲得されているのでしょうか。

橋本孔志:
とにかく、会社の名前や事業内容を周知するべく、地元の福井テレビ様で求人情報CMを流したり、YouTubeで企業PVを発信したりと工夫しています。

弊社では30~40代の中堅社員が不足しています。若者を迎えるためにも、工業メーカーに対する「3K」のイメージを取り除いていきたいです。

たとえば、IOT・RPAを活用して製品チェックや運搬作業を自動化するなど、人に負担をかけない環境づくりを推進しています。今後は、管理部門や事務部門にもITを導入していく予定です。

編集後記

親子2代での会社経営に取り組んでいる橋本社長。社長でありながら営業職を続け、人材の獲得手段も若者の感性を意識するなど、常識を打ち破っていくパワーが感じられた。
モノづくり業界における労働イメージの刷新や、双子の兄弟が力を合わせた時のさらなる躍進など、明るい未来を予想せずにはいられない。

橋本孔志(はしもと・こうじ)/1972年大阪市生まれ。1987年大和金属武生工場設立に伴い福井県武生市(現越前市)に転居。1992年学業でデザインの基礎を学び、卒業後大和金属工業株式会社に入社。以降2002年まで製造現場で金型製作、金属プレス加工を実践で学び、同年営業部へ配属。現場で得たモノづくりのノウハウとデザインの知識を活かし、積極的な提案型の営業を展開する。2016年取締役専務を経て、2022年代表取締役社長に就任。