※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

日銀のマイナス金利政策の見直しが取りざたされる中、住宅ローンをはじめとした長期金利上昇を背景に、ますます動向が注目されている不動産業界。

2009年に設立した株式会社後楽不動産(岡山市)は、リーマン・ショック直後の逆風に動じることなく成長軌道を描いてきたという実績がある。

直近ではガレージハウスの賃貸という新たなニーズの掘り起こしに成功。また力を入れている人材採用では、現在の従業員数40名を今後3年間で70名に増やす計画もある。

20代半ばで創業した代表取締役の松本裕児氏に、独立開業のエピソードや経営方針について話を聞いた。

支店長時代の部下を守るために会社を立ち上げた

ーー不動産の前はどんなお仕事を経験しましたか?

松本裕児:
大阪の高校を中退して16歳から働きはじめました。当初は光ファイバーのケーブルを引く仕事をしていましたが、業界一労働環境が厳しいと言われ、1日で辞める人が続出するような会社でした。でも、忍耐力を養おうと思い、半年間勤めました。

次に、ジュエリーアドバイザーとして、テレアポによって宝石を販売しました。卒業アルバムから電話番号を入手してアプローチするような、今ならグレーともいえる仕事もしていましたが、前の仕事と比べると楽だと感じ、真面目に働くことができました。

いずれも壮絶な労働環境ではありましたが、これらの経験を通して忍耐力が培われ、後の仕事を楽に感じることができるような強さを手に入れられたと思っています。

ーー岡山に移った経緯を教えてください。

松本裕児:
母方の叔父が岡山でリフォーム会社の役員をしていたこともあり、19歳でこちらに移住しました。最初に担当したリフォームの営業は完全歩合制の訪問販売でした。

仕事は大変でしたが、それ以前に土地に馴染むのにかなり苦労しましたね。当時の私はバリバリの関西弁でしたから、よそ者として冷たい扱いを受けていました。

ーー不動産業界に入ったのはその後でしょうか?

松本裕児:
はい。リフォーム会社の先輩の紹介で、大阪本社で岡山に支店を出す不動産会社に入社しました。仕事はとても楽に感じました。飛び込み営業をしていたかつてのリフォーム会社に対して、不動産会社では借りたい人が来てくれますからね。

社会人歴5年目にして、初めて真面目に働こうと思った業界となりました。

ーー会社を立ち上げた経緯をお聞かせください。

松本裕児:
岡山支店では実績を認めてもらって支店長に抜擢されました。その一方で社長が自己主張の強い方だったので、当時6人いた部下を私が守っていたのです。

できるだけ社長とは距離を置いていましたが、支店長の立場では部下を守るのは難しいと感じました。頑張って働く彼らのために、給料や就業環境を変えたいという気持ちもありましたが、そうしたことも「自分が中間管理職では無理」と最終的に判断したのが独立したきっかけです。

離職率の低さが表す労働環境の良さ

ーー会社の理念や方針を教えてください。

松本裕児:
学生時代は90点でも褒められるかもしれませんが、不動産のお客様に対する営業や接客は100点が当たり前だと思っています。新人であれベテランであれ、相手にとっては関係ないですからね。

ですから目の前のお客様に一生懸命に対応し、ご要望に対して常に言われた以上のことをしていこうと心がけています。

ーー貴社の強みはどんなところですか?

松本裕児:
社員同士の仲がいいのは一つの自慢です。離職率も設立当初は1年で30%だったのが、現在では10%程度です。

弊社ではたとえば「目安箱」を設け、アイデアを投稿する仕組みを取り入れています。採用されなくても出しただけで賞与のポイントになるシステムで、そうした対策の成果が表れているのかもしれません。

ーーガレージハウスを展開していますね。

松本裕児:
10期目の頃に不動産投資の収益物件を取り扱う計画があったのですが、静岡の銀行が不正問題を起こし、内容の修正を余儀なくされたことがありました。

別の方策を練っていたところ、私がせっかく大型二輪の免許を取ってバイクを買ったのに、十分な置き場所がなかったことがあり、それがきっかけで思いついたのがガレージハウスでした。

住居に併設したガレージが、多目的な空間としても活用できる物件を思い付いたんです。現在では予想以上にニーズがあると感じています。

新卒採用を強化し、入社後も社内教育を徹底

ーー人材教育面での取り組みをお聞かせください。

松本裕児:
「松本塾」というレクチャーを定期的に開催し、2人3組ずつ2時間の講義を行っています。会社の理念や考え方を共有するために40枚ぐらいのスライドを使って説明しながら、営業の実践的なテクニックを伝授しています。

また、コミュニケーションの取り方や、接客の練習は毎日欠かさずやっています。お客様からの問い合わせやファーストコンタクトに対応するシミュレーションなど、各社員にとって弱いところがあればしっかりフォローもしています。

ーー採用の方針はいかがでしょうか。

松本裕児:
方針としてはまず、経験者は基本的に採用していません。転職者の採用は例外的にありますが、現在は新卒を中心に採用しています。

ーー希望する人物像はありますか?

松本裕児:
「自分は営業に向いていないと思う人」が望ましいですね。なぜなら、自分でできると思っている人ほど実際はできないからです。「お客様にやってあげている」になるからでしょうか、それでは本人の成長は望めません。

やはり謙虚になって、できないことに挑戦する気持ちを常に持っていることが重要です。そうした面をお客様はちゃんとわかっていますからね。

編集後記

「新卒社員によく言うのですが、学生時代の仲間と社会人の関係は違うということ。仕事のやり方や成果によって信頼関係が生まれてくるので、すぐ辞めずに3年間は辛抱してほしいと思います」。松本社長はこのように新卒世代へのメッセージを残した。

20代で独立してここまで会社を成長させた松本社長は40代に入ったばかり。今後のさらなる飛躍にも期待したい。

松本裕児/1983年大阪市生まれ。2004年、不動産会社に入社し、初めて不動産業界に携わる。2009年に独立し、株式会社後楽不動産を設立。