※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

株式会社筑水キャニコムは乗用草刈機や農業用運搬車など、農業や林業、土木建設向け機械の製造販売を行っている会社だ。

「草刈機MASAO(Hey まさお)」や「代表取締役社長芝耕作」など、独創的なネーミングと革新的なデザインで業界を席巻している。日刊工業新聞社主催の「ネーミング大賞」ではこれまでビジネス部門1位を7度、大賞を2度受賞するなど、注目度と評価の高さは折り紙つきだ。

また、小規模の会社ながら独自の技術やアイデアで世界を舞台に活躍する企業を表彰するForbes JAPAN主催の「SMALL GIANTS AWARD 2022-2023」ではグランプリを受賞した。

ユニークかつ高度なブランディング戦略を成功させた同社の取り組みについて、代表取締役社長の包行(かねゆき)良光氏に聞いた。

逆境を乗り越えた現地日本人経営者たちとの出会い

ーー社長はひとりでアメリカ市場の販路開拓をしていますが、当時のエピソードをお聞かせください。

包行良光:
大学卒業後、大手ホームセンターに就職しました。新店舗設立や店長を任され、年間7回ほど転勤していました。2年が過ぎたとき、弊社会長から良い条件の報酬を提示され、2004年に入社しました。

弊社は北米市場への進出のため、2001年、シアトルに合弁企業を設立していました。しかし、想定通りの成果が上がらず、パートナー解消のリスクに直面しました。そこで、問題解決を担うメンバーとして、私が選ばれたのです。

半年ほど工場で研修を受けた後、2004年に単身渡米し、CANYCOM USA(キャニコムUSA)の社長に就任しました。しかし、当時24歳の私は英語はもちろん、アメリカの商習慣もわかりませんでした。

GPSやスマートフォンなどの便利なツールもまだない時代で、情報収集や移動に苦労しました。さらに製品機械の関税が3%から25%へと、急激に引き上げられるという問題も起こりました。

しかし、渡米したのに、何の成果も残さずに帰国はできません。状況を打開するために、迷わず行動しました。

商工会議所を通じて、アメリカ在住の日本人の経営者に協力を求めました。経営者の皆様は丁寧に私を指導し、製造、ものづくり、マーケティング、さらには経営学など、幅広い分野にわたる深い知識を惜しみなく共有してくださいました。

6年間アメリカに駐在してグローバル市場を開拓できたのも、彼らのサポートとアドバイスのおかげだと思っています。本当に感謝しています。

ものづくりは名前から。ネーミングから始まる革新的な製品

ーー「草刈機MASAO(Hey まさお)」「アラフォー傾子」など、斬新なネーミングの発案についてお聞かせください。

包行良光:
弊社はものづくりがメインですので、現場の需要に対してどのような製品をつくるかを考えています。その上で、親しみやすいネーミングには訴求力があります。すべて会長の発案です。

実は弊社では、新製品の開発にあたってネーミングからスタートしています。ネーミングに込めた思いを形にするために、チーム一丸となって知恵を絞り、製品開発に取り組みます。先日も会長から「川中みゆきという名前の製品を開発せよ」との指示がありました。

今年のものづくりのテーマに「ワインリバー」があります。日本でもワイン愛好家が増え、人気が高まっています。ワイン畑の下草刈りのために現地調査に行くと、多くのワイナリーは川の近くに位置していることがわかりました。

ドイツでもライン川沿いにワイナリーが点在しています。護岸工事や川の整備についても考えていましたので、ここに「川中みゆき」をどう絡めようか、頭を悩ませています。

ーー将来に向けて、貴社はどのような取り組みをしていますか?

包行良光:
弊社は「ビジョン300(100年企業、100ヶ国取引、100億円売上)」を掲げています。100億円の目標は2023年度で達成しました。24年後には創業100周年を迎えます。だから目下、目指しているのは取引先100ヶ国です。

海外進出事業のリーダーは私と役員の森の2人で、アメリカの担当者は1人です。今後はさらに、海外担当人材を増やしていこうと、私の飲み友達などをヘッドハンティングしています。森もそのひとりです。とても面白くて頼りがいのある素敵な男です。

現在、世界54ヶ国と取引があります。アフリカの54ヶ国と中南米の33ヶ国に進出すれば目標が達成できますので、引き続き努力していきます。

産後パパ育休は「新しい普通」

ーー福利厚生についてはいかがですか。

包行良光:
当社で積極的に推進している男性の「出生時育児休業(産後パパ育休)」は、取得するのが普通だと思っています。取得率を数値で公表する企業も多いのですが、数値化すること自体に疑問を感じます。社長が「これからの2週間、君の仕事は育児だ」と伝えれば、社員は安心して休暇を取得できます。

顧客との飲み会は投資。人間関係の深化がビジネスの成果を生む

ーー若い社員とのギャップを感じることはありますか?

包行良光:
顧客との飲み会について感じますね。嫌な人に押しつけるつもりはありませんが、飲み会はワンステップ踏み込んだ人間関係をつくるチャンスです。

みんな早く帰りたいと思っていますから、24時までいる必要はありません。ただ、20時半に帰るよりも21時半まで残るだけで、よりディープな関係を築くことができると思います。

郊外では公共交通機関の終電が早いのですが、終電に合わせて帰ってしまうと、土地勘のない顧客を早い時間に1人きりにしてしまうことになります。顧客側の立場に立ってお付き合いすれば、さらに親密な関係を築けるはずです。

そうして築いた人脈はビジネスにつながります。必要な経費は積極的に活用し、顧客との信頼関係をしたたかに築いてほしいですね。

編集後記

笑いの絶えないインタビューで、終了後はすっかり包行良光社長のファンとなっていた。社長のコミュニケーション力の高さが、豊富な人脈を呼び寄せるのだろう。取材に同席した社員の方々との軽妙な会話からも、明るく開放的な社風が伝わってきた。

「川中みゆき」なる製品の行方も気になる。この先も、筑水キャニコムの活躍を追いかけていきたい。

包行良光(かねゆき・よしみつ)/1980年福岡県生まれ。帝京大学法学部卒業。2012年ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学大学院卒業、MBA取得。2004年株式会社筑水キャニコム入社後、CANYCOM USAの社長に就任。2009年、キャニコムの取締役に就任、2015年、代表取締役社長に就任。「ものづくりは演歌だ」をテーマに世界54ヶ国に向け、農業・林業・土木建設用の運搬車・草刈作業車を展開している。