目まぐるしく変化する市場に対応するためには、既成概念にとらわれない判断力が重要となる。

1989年に設立された株式会社オンデーズは、2008年、「SPA方式」を導入し、プライベートブランドを確立。

2012年には「レンズ追加料金0円」などの顧客目線でのサービス提供をスタートし、2019年6月時点で12の国と地域において店舗数を伸ばすなど、眼鏡業界においてその存在感を際立たせている。

しかし、こうした成功を掴み取る少し前まで、同社は14億円という巨額の負債を抱えていた。

V字回復の立役者は、2008年に代表取締役に就任した田中修治氏だ。業界の風雲児である田中社長が敢行した大規模な社内改革の全貌に迫った。

14億円の負債をもつ会社を引き受けた理由

―当時14億円という大きな負債を抱えていた御社を、なぜ引き受けようと思われたのでしょうか。

田中 修治:
20代後半に始めたウェブ制作会社の運営が少し落ち着いてきた頃、当時のオンデーズの経営陣と知り合い、「経営が苦しく、どこかの会社に譲渡したい」という話を聞きました。

最初はM&Aの仲介をしようと考えていたのですが、なかなか受け入れ先が決まりませんでした。そこで「誰もやらないのなら自分がやろう」と考え、引き受けたというのが経緯です。

実はちょうどその時期、自身のウェブ制作会社の仕事に「嫌気」が差していたのです。自分で営業して企画書を出し、時には接待もしていましたが、それが私にとっては非常に苦痛でした。

そういったことを毎日のように行うよりも、自分が好きな商品をつくって販売するほうが性に合っていると思ったんですね。

確かに14億円もの借金を背負ったということを聞いた人からは「そんな大変なことをよく引き受けたね」と言われるのですが、大変に思うことって人それぞれですよね。

自分にとっては、借金を背負ってでも当時の状況から抜け出すことのほうがずっと良かったんです。

選挙制度導入の背景

―代表取締役に就任後、行った改革のひとつに選挙制度がありますが、なぜこの制度を導入しようと思われたでしょうか。

田中 修治:
会社の成長を止める一番の原因は「人事権」だと私は思っています。

私が代表に就任した当時、従業員はよれよれのスーツを着て、覇気もなく、盛り上がりにも欠けていました。

この状況を打破するために、まずは特定の管理職が人事権を持つ状態をなくし、従業員の投票により店長や管理職を決めるという選挙制度を取り入れることにしたんです。


―特定の管理職が「人事権」を持つことで、具体的にはどのような弊害があるとお考えでしょうか。

田中 修治:
そもそも従業員の能力や、会社・組織への貢献度合いを、特定の人間が正確に判断するのは難しいと思うんですよね。

例えばAさんという従業員がいたら、当然、Aさんが社長である私に見せる顔と、自分の部下に見せる顔は違いますよね。目上の人には気を遣うでしょうし、仕事のやり方も変わるでしょう。

人事権を持つ側も、そうしたAさんの一面しか見ることができないのです。

周囲からいくら「Aさんは陰で頑張っています」と言われたり、「Aさんは部下のマネジメントができていませんよ」と言われたりしても、人事権を持つ側は、自分が日々見ているAさんの姿や働きぶりに基づく評価を優先してしまうでしょう。

それに近い状況に当時のオンデーズもなっていたため、管理職を入れ替える必要があったものの、社長に就任したばかりの私がそれぞれの適材適所を判断することはできません。

ですから、私より会社のことをよく知っている従業員に、人事権を持つ人を選んでいただく方法が最も納得してもらえるのではないかと考えたんです。

2018年に行われた「OWNDAYS SUMMIT」の様子。全社員の投票によって次年度のエリア・マネージャーが決定する。

―選挙制度を取り入れたことで、反発などはありませんでしたか?

田中 修治:
実はベテラン社員が若手社員に選挙で負けてしまい、その影響で会社を去ってしまうということがありました。会社にとってこれは損失ですよね。

ただ、私はそこに「トレードオフ」が成り立つかどうかが重要だと考えています。

選挙で負けたということは従業員の心をつかめなかったということです。そんな人が果たして、お客様の心をつかめるのでしょうか。

理解を得ることができず、結果、ベテラン社員が退職してしまうのは残念ですが、一方で、本来まだ部長の役職につけないような年齢の若手社員が、チャンスを得て飛躍的に育っていくという面もあります。

当社では、ベテラン社員が安定して働ける環境よりも、人材の新陳代謝を進めたほうが会社の成長につながると思っているため、選挙という形で毎年それを行っています。

「ゲーム感覚」で仕事をすることを奨励する理由

―ほかにも、社内仮想通貨制度というのを設けられていると伺っています。これはどういう意図で導入されたものでしょうか。

田中 修治:
私の根底にあるのは、「仕事を労働にしたくない」という想いです。いわゆる「ゲーム感覚」で仕事をしてもらいたいんですよね。

分かりやすくゲーム感覚と申しましたが、「自分が好きなこと」で置き換えてもらえたら良いと思います。

例えば、自分が好きなことが買い物で、友達と一緒に買い物に出かけた時、つい時間を忘れて楽しんでしまうことってありますよね。

もし、仕事をしている時間がそういった時間を過ごす時と同じ感覚になれば、楽しく過ごせて、かつ給与ももらうことができて、その人にとっては一石二鳥になるわけです。

その仕事を楽しむためのアイテムの一つとして、社内仮想通貨をつくりました。

例えば、会社に改善提案をしたり、無遅刻無欠勤だったり、あるいは売上目標を達成したりするとマイルという形で仮想通貨が溜まる仕組みです。溜まったマイルは様々な景品と交換できます。

“マイルを貯めるために、どうゲーム(仕事)を攻略するか”と考えれば、自ずと色々な方法を模索しますし、実際に自分の思う通りにいけば仕事が楽しくなってくるはずです。

社内仮想通貨「STAPA」の管理画面。景品と交換するだけでなく、従業員同士で贈り合うことも可能。

企業が生き残るために欠かせない3つの要素

―企業が市場で生き残るためには、どんな要素が必要だとお考えでしょうか。

田中 修治:
「社員が100%以上の力を発揮できるような会社にする」というのが一つ。もう一つは、「優秀な人材を一人でも多く集める」ということ。そして、最後の一つが「やる気のない人をなくすこと」です。

もちろん、商品やサービス、店舗デザインなど、成功要因はいくつもあります。しかし結局それは、成功させた人間がいるから出来たことで、突き詰めて考えれば、優秀な人間を集めた会社が生き残るんですよね。

眼鏡業界でトップになるとしたら、この業界で優秀な人たちが最も多く所属する会社にすれば良いんです。

中小企業の経営者として陥りやすいのが、自分より高い給与の人を雇わないということです。

自分や役員の能力をキャップにして人材を採用していたら、会社の成長は停滞するでしょう。もちろん、経営者が世界最高峰の頭脳を持っているというのなら話は別ですが、そういう人は稀ですよね。

ですから、私はなるべく自分より優秀な人に働いてもらいたいと思って、組織をつくっています。

そして、能力が高い人だけを集めても意味がありません。その人たちが能力をフルに発揮したくなり、時間を忘れて仕事をしたくなるような環境をつくることも大切です。

そういう人が一人でも多くいれば、会社は成長しますし、そういう人が減ってしまえば、会社は生き残っていけないでしょう。


―現在はどのような人材を求めていますか。

田中 修治:
国際会計のプロフェッショナルとして活動されている方を求めていますね。国によって会計制度が異なりますので、今は外部委託をしていますが、費用もそれなりですし、判断にも時間がかかるので、社内にそういった方がいればと思っています。

また、プログラマーも募集しています。眼鏡屋といえども、今後はITも積極的に活用していかなければなりませんからね。

アイウェアメーカーとしての使命

―今後の展望についてお聞かせください。

田中 修治:
世の中に対して影響力を持つためにも、10年以内に売上高1000億円を目指していきたいと思っています。

国内の小売業で、売上高200億円程度だと、まだまだ影響力は微々たるものです。人生一度きりなので、やはり行けるところまで行ってみたいですね。

また、当社は、オンデーズと関わる世界中の人たちが豊かになることを目指しております。その一環として、3ヶ月に1回、各国の現地NGO団体と協力して検診を行い、眼鏡を贈るプロジェクトを実施しています。

さらに2019年4月から、日本国内での活動として、同じ「目のパートナー」である盲導犬を育成する活動を支援するべく、眼鏡・サングラスの1本ごとの売上金額の一部を日本盲導犬協会に寄付しています。

世界には、視力矯正が必要な人たちや、眼科検診を受けられない人たちが、まだまだ大勢います。今後も、アイウェアのメーカーとして社会貢献にも積極的に携わっていきたいですね。

編集後記

大きな改革によって多額の負債を乗り越え、オンデーズを成長路線に乗せることに成功した田中社長。その偉業とは裏腹に、仕事へのスタンスは限りなく自然体だ。

仕事を「義務」ではなく、あくまでも自らの楽しみの延長線上にあるものとしてとらえることで、社員一人ひとりが本来のポテンシャルを最大限に発揮できるのだろうと感じた。

田中 修治(たなか しゅうじ)/ 20代の頃から様々な事業を行い、2008年、14億円の赤字に陥っていたオンデーズ株式会社の代表取締役に就任。社内改革や様々な新サービスを立ち上げ、見事会社をV字回復させた。2013年にシンガポールに現地法人を設立したのを皮切りに、海外へも積極的に進出する。巨額の負債から短期間で事業を立て直したことで、その経営手腕が注目を浴び、数多くのメディアに取り上げられている。著書に『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』(NewsPicks Book)(幻冬舎)がある。2019年1月、LVMH系のファンドと三井物産の投資事業子会社からOWNDAYSへの資本参加を受け、第三者割当増資と同時に個人保有株式の一部を売却したものの、引き続き大株主および代表取締役社長として経営を担っている。

▼オンデーズ 公式ホームページ
http://www.owndays.com

※本ページ内の情報は2019年8月時点のものです。