2019年10月、東京・豊洲PITは熱狂の渦に包まれた。日本トップシェアのストレッチ専門店『Dr.stretch(ドクターストレッチ)』を主軸に展開する株式会社フュービックが主催する、年に一度の社内イベント『F1 GRAND PRIX(以下F1GP)』である。

鮮やかなライティングに軽妙なアナウンス、真剣で華やかなステージパフォーマンス。まるで人気スポーツの試合会場のような雰囲気だが、これが企画から運営まで一企業によって行われているイベントだというのだから驚きだ。

フュービックが2010年にオープンした『Dr.stretch』は、2019年10月時点で国内127店舗、海外13店舗と店舗数を瞬く間に拡大し、従業員数も1,000名を超える。スポーツとヘルスケアをテーマに幅広い事業を行う同社だが、その成長を組織の内部から支える重要な取組みのひとつに位置づけられているのが、この『F1GP』である。

『F1GP』は、国内外の地域予選大会を勝ち抜いた従業員が、1,000名以上の従業員を前に優勝をかけてプレゼンテーションや技術を競う最終決戦の場だ。優勝チームや結果を残した個人には海外旅行などの豪華な副賞が贈呈されることもあり、開会直後から会場内には熱気が充満する。

なぜ、フュービックの従業員はこれほどまでに『F1GP』に熱狂するのか。知られざる舞台裏に迫る。

さらなる飛躍に向けた2つの新展開

2019年で27期を迎えるフュービックの『F1GP』は、代表取締役社長の黒川将大氏のプレゼンテーションから始まった。『Dr.stretch』が飛躍的な伸びを見せた26期を振り返り、黒川社長は次のように語る。

黒川将大:
好調だった26期にも、私たちができる経営努力とは何だろうかとずっと考えていました。それはやはり、「お客様に対する価値を向上させること」ではないでしょうか。フュービックはこれからも、お客様がもっと利用したくなるサービスをつくることを使命としていきます。

そして27期はさらに、お客様から得た利益を社会に還元するため、オリンピックイヤーにちなんだプロジェクトを開始します。小学生を対象としたストレッチのボランティア『Under Twelve』です。

東京オリンピックに刺激を受けてスポーツに励んでいる子どもたちに、ストレッチの重要性を早くから認識してもらうことが狙いです。幼い頃からストレッチを意識することで、怪我の予防やボディケアの習慣形成につながっていくことを願っています。

その後、黒川社長から「生産性の高いエリアからプロジェクトを実施」「小学生で、SNSによる活動報告のみを条件とし、企画内容やボランティア先は各店舗が独自に作成・開拓する」などの『Under Twelve』プロジェクトの実施詳細が明かされた。

次の展開については、「プロジェクトロゴを配して作成したタオルをアイコンに、活動を全国に広めていく」と語った黒川社長。元スポーツ選手というトレーナーも多いフュービックにとって、未来の日本スポーツの土台づくりに貢献できるボランティアとなりそうだ。

また、27期の新たな展開としてもうひとつ発表したのはマレーシアへの進出だ。

フュービックでは独自基準で購買力の高い国を選定し、すでにシンガポールや台湾、上海に店舗を展開している。インドネシアを拠点にスポーツを通じて子どもたちの教育を図る「野球キャラバン」事業も開催しているが、『Dr.stretch』のマレーシア上陸は初となる。

新天地でどのような展開を見せてくれるのか。今後の動向に注目だ。

自らの上司を投票で決める「エリアマネージャー総選挙」

黒川社長のプレゼンテーションに会場が盛り上がる中、続いて行われたのは「Dr.stretch エリアマネージャー総選挙」だ。これはフュービックの最も特徴的な仕組みのひとつと言えるだろう。

「エリアマネージャー総選挙」は、いわば自分の上司を自分で決める制度だ。『Dr.stretch』の店舗から立候補を募り、候補者は約半年間の選挙活動を経て『F1GP』にて渾身のプレゼンテーションを披露する。

直後に行われる全従業員からの投票により、次期エリアマネージャーが任命される。フュービックで責任ある地位に就くためには、上司ではなく現場スタッフからの信任を勝ち取らなければならない。そして従業員も自身が信頼をおける人物を上司に選ぶことができるのだ。

『F1GP』はナンバーワンスタッフを選ぶだけではなく、実はフュービックのすべての従業員が自らの未来を選択する場でもある。

各種プログラムへの出場、選挙への出馬は全て従業員自身の意思によるものであり、『F1GP』自体も一切外部イベント業者の手を借りず、担当の従業員らで知恵を絞り合い、企画構成して運営する。

従業員が自ら会社を創ろうとする意識が根付いているからこそ、1,000名を超える従業員の熱狂を生み出せていると言っても過言ではないだろう。

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