MBAとは、Master of Business Administrationの略語だ。日本では経営学修士と呼ばれ、経営学の大学院修士課程を修了すると授与される学位であり、社会人となってから取得する人も多い。グロービスは、MBA学位を授与できるグロービス経営大学院(※1)を開学し、次世代のリーダーとなる人材育成を行っている。
また各界のリーダーたちが議論し、行動するためのプラットフォーム「G1」(※2)社会投資ファンド「KIBOW」(※3)で、日本や世界を良くする活動も行っている。同社をけん引する代表取締役の堀義人氏は、使命感で故郷の水戸市の再生活動を請け負ったという。詳細についてうかがった。
(※1)グロービス経営大学院 公式HP
(※2)一般社団法人G1 公式HP
(※3)一般財団法人KIBOW 公式HP
ビジネスを通じた社会貢献
ーーグロービスという会社について教えてください。
堀義人:
弊社は創業以来、「経営に関するヒト・カネ・チエの生態系を創り、社会の創造と変革を行う」というビジョンを掲げ、ビジネスを通して社会貢献に取り組んできました。
まず「ヒト」についてですが、グロービス経営大学院(MBAプログラム)を2006年に開学し、1科目からMBA科目を受講できる単科生制度を用意したり、動画とAIを活用した「ナノ単科」をスタートさせるなど、個人がその可能性を発揮するお手伝いをしています。また、企業内研修、スクール型研修などの「法人向け人材育成サービス」を通じて、企業の人材育成・組織開発のサポートを行っています。他のビジネススクールとの違いは、教員が現役のビジネスリーダーや活躍中の経営者、起業家など実務家であるところです。グロービス経営大学院の在校生・卒業生は合計で1万人を超えました。次に「カネ」については、ベンチャー企業への投資としてグロービス・キャピタル・パートナーズというベンチャーキャピタルを持っています。2022年には第7号となる727億円のファンドを設立しました。最後に「チエ」ですが、定額制動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」や書籍出版などでビジネスに役立つ情報を発信しています。
ふるさと水戸にフルコミットする
ーー故郷の水戸市にも貢献していますが、何がきっかけでしたか?
堀義人:
私は水戸で生まれ育ち、水戸には強い愛着があります。
34年ぶりに同窓会に出席するために帰省した時に、水戸の風景を見て愕然としました。8つあったデパートのうち7つが撤退し、1つは廃墟ビルとなっていたからです。さらにシャッター街で歩く人もまばら、中心街の住民が半分に減ったと聞きました。
私はその現状にショックを受け悩みました。「日本を良くすること」を考えていましたが、「地域貢献」については頭になかったからです。
それがきっかけで、私が水戸大使だったこともあり、「私が座長になるから」と市長に掛け合い、2016年2月に「水戸ど真ん中再生プロジェクト(通称:M-PRO)」を始めました。今では、地元の方々とともに10のプロジェクトを手掛けています。
ーープロジェクトの内容を教えてください。
堀義人:
第1弾はBリーグ(男子プロバスケットボールリーグ)「茨城ロボッツ」(※4)に経営参画しました。地域を盛り上げるために最適なことは、人が集まる場所をつくることです。それにはスポーツと音楽の2つが有効だと考えていました。音楽は他所からお客さんが来ますが、スポーツは地元に根差しています。地域を盛り上げる1番良いコンテンツは地元が世代を超えて熱中できるスポーツだと考えました。
「茨城ロボッツ」は、Bリーグの開始時点では、観客動員数、売上高、成績とすべてビリでした。しかし、クラブもチームも成長を続け2021年にB1に昇格することができました。現在は2026年から始まるBプレミアリーグに入るために一生懸命に取り組んでいます。
第2弾はグロービス経営大学院のキャンパスを水戸に開設しました。もともと東京、大阪、名古屋、仙台、福岡と大都市にありましたが、6つ目を水戸にしたのです。再生プロジェクトで「地域経済を活性化させよう」となった時に、座長の率先垂範が1番重要だと思ったからです。私は、リーダーにとって1番重要なことは「率先垂範」だと思います。自分は何もせずメンバーに「やれ」と言っても説得力がありません。「6校目を水戸に開設する」と言った時に、周囲から猛反対を受けましたが、社会貢献だということで納得してもらいました。
今後やりたいことが3つあります。路面電車の復活、街中再開発、新規産業創出です。交通、産業、ライフスタイルの三つ巴が功を奏して、水戸を活性化できると考えているので、それをいつか実現させたいです。
ーー茨城放送のオーナーになったそうですが、そちらについて教えてください。
堀義人:
茨城県はメディアが弱く、47都道府県の中で唯一テレビ局がありません。理由は、東京のテレビ局の電波が茨城県まで届くからです。これでは県としてのアイデンティティーが育ちにくく、「魅力も発信できない」と考えて、唯一の県域民間放送局である茨城放送というラジオ局の株式を取得しオーナーになりました。
当時の売上高は6億円ぐらいでしたが、今は倍近くに増えています。茨城放送は2021年4月にLuckyFMへリブランドし、2022年7月に夏フェス「LuckyFes」(※5)を開催しました。
「LuckyFes」の初年度の準備期間は半年のみで、本当に大変でした。動員数は、初年度2日間で2万人、2年目は3日間で4万2千人、来年は大風呂敷を広げていよいよ10万人の動員をしたいと思っています。このような大規模フェスができるのは、茨城で唯一の民間放送局である私たちだけで、「やるっきゃねーべよ」という使命感でやっています。
30周年を機にグロービスを「社会貢献本業カンパニー」と改めて位置付けました。その活動のひとつとして、また「故郷、水戸・茨城の地方創生の魁(さきがけ)モデルをつくる」という思いで、地方創生にも尽力しています。今まで誰も行ったことのない、スポーツと街中再生とエンターテインメントとメディアの融合という、世界初の挑戦を行っています。
「水戸ど真ん中再生プロジェクト」の立ち上げや、経営破綻したバスケットボールチームと低迷している地方ラジオ局のオーナー、フェスの総合プロデューサーを引き受けたのは、すべて使命感からです。誰でもできることは皆に任せて、「誰もできないこと、誰もがやりたいと思わないことを自分がやろう」と決めています。
(※4)茨城ロボッツ 公式HP
(※5)LuckyFes 公式HP
世界を舞台に人々に影響を与える、その挑戦
ーー今後、やりたいことを教えてください。
堀義人:
目指すは世界一です。大学院をゼロから作った会社は、G7、G20の中でもないと思います。さらにベンチャーキャピタルを立ち上げました。これについて、海外からの評価はとても高いです。今後は今まで以上に認知を高めながら、積極的に海外進出していきたいです。
グロービスは、中国・シンガポール・タイ・アメリカ・ベルギーに海外拠点があり、さらに2023年11月にはフィリピンに新たな拠点を設立しました。北米、南米、欧州、アジアなど、受講生の所属する国・地域の時間帯を踏まえたプログラムの設計、マルチタイムゾーンでの研修の提供を可能としています。また2025年度より従来のMBAプログラムを「テクノベートMBA」「エグゼクティブMBA」の2つのプログラムに分け開講するなど、新時代のMBAへと進化させます。これまでのアジアNo.1MBAから、これからはテクノベート時代の世界No.1MBAを目指しています。
私個人としてはグローバルリーダーになり世界で活躍し、人々に影響を与えるような人間になりたいです。私のダボス会議の出席数は、おそらく日本人の財界人で最も多いと思います。これも自分や海外における日本の存在感を高めたいと思うからです。
ーー若手へのメッセージをいただけますか。
堀義人:
私は「変化を受け入れ、新しいものを創造する人々が栄える」という言葉が好きです。時代の流れは変化していくので、変化に抵抗する組織や社会ではなく、変化を受け入れ新しいものを創造することが大切です。変化を作り出す側に立ち、新しい可能性を切り開いていくことで社会全体の創造変革に貢献できると思います。
そして、挑戦を重ねて思いっきり成長してください。多くのことを学び、自分自身がやりたいことができる力を見つけて進んで行ってください。
私は、さまざまなことに挑戦して多くのことを学び、能力を高められました。また、多くの人に会ってネットワークを築き、刺激を受けたことも良かった。さらに世界に視野を広げ、「最低限日本一」を目標にしたこともいい原動力になりました。そして能力を高めると、できないこと、やりたくないことにも使命感を持って取り組むことができるようになります。皆さんも、ぜひチャレンジしてほしいと思います。
編集後記
「リーダーにとって1番重要なことは率先垂範である」という言葉どおり、次々とプロジェクトを立ち上げては成功させていく堀代表。「ふるさと水戸の地域創生」から「世界No.1MBAへの挑戦」と振り幅が大きく、世界を股にかけての活躍に目を見張った。世界一を目指しているとのことだが、堀代表なら必ず世界的なビジネスの影響力を持つ一人になるだろうと確信した。
堀代表の挑戦に、これからも注目していきたい。
堀義人(ほり・よしと)/京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur’s Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、世界の成長企業(GCC)の共同議長、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)、米国ウィルソンセンターのグローバルアドバイザリーカウンシル、日本棋院理事、Bリーグ理事、経済同友会幹事、日本プライベート・エクイティ協会理事等を歴任。2009年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設し、現在一般社団法人G1の代表理事を務め、日本のビジョンである「100の行動」を執筆する。2011年3月大震災後に復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げる。現在一般財団法人KIBOWの代表理事を務め、KIBOW社会的インパクトファンドを組成・運営している。2016年に水戸ど真ん中再生プロジェクトを始動。同年4月に茨城ロボッツ、2019年11月に茨城放送のオーナーに就任。2022年1月、ROCK IN JAPAN FESTIVALが千葉に移転することが発表された2時間後にLuckyFesを立ち上げ、総合プロデューサーを務める。いばらき大使、水戸大使。5男の父親。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』(東洋経済新報社)、『新装版 人生の座標軸「起業家」の成功方程式』(東洋経済新報社)、『日本を動かす100の行動』(共著、PHP研究所)、『創造と変革の技法』(東洋経済新報社)等がある。
堀義人ブログ『起業家の風景』
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