【ナレーター】
掃除用品のレンタルサービスから経営サポート、コンサルティングまで多岐にわたる事業を展開する、株式会社武蔵野。
のべ2000社を超える中小企業の経営サポートを手掛け、その半数以上を過去最高益に導くなど、卓越した経営ノウハウを武器に成長を続けている。
代表取締役社長の小山昇氏は、倒産寸前だった同社を再建し、18年連続増収を果たす企業へと変えた他、日本経営品質賞を2度受賞し、50冊以上の経営書籍も手掛ける、辣腕経営者だ。
徹底した現場主義に基づく独自の仕組みづくりにより、幾度となく企業を変革させた経営者の矜持とは。
【ナレーター】
自社の強みについて、「会社の業績や社員の給与などをすべて公表し、それによって社員が自主的に経営に参画できる風土にある」と、小山は言い切る。
【小山】
「見てもいい」と言うと見ない、「見てはいけない」と言うと見たくなるというのが人間の心理です。ですから、当社では、社長がどこにいるか、役員が何をやっているかということもすべてフルオープンで、クローズ(隠すこと)がありません。
そして、ルールはすべて明確化されており、そのルールを変えるのも社員の皆さんです。私は、皆さんが変更したルールを承認するだけで、ほとんど「ノー」とは言いません。
また、2004年から意思決定のやり方をボトムアップに変えました。今まで「考えてはいけない」「言われた通りやれ」と言っていたのが今度は「自分たちで考えろ」と指示が変わったため、社員たちは半年ほど混乱していました。
このように、社員全員が参画できるような会社へと、経営のスタンスをこれまで徐々に変えてきました。今では本格的に権限委譲しており、会社の売上の93%は私が意思決定したものではありません。
【ナレーター】
小山は大学卒業後、1976年に現武蔵野に入社。社会人になった直後から多様な業務に携わり、ことごとく成長の糧にしたという。当時について、次のように振り返る。
【小山】
同じ仕事を3ヶ月続けたことはありません。誰かが辞めたり休んだりするたびに、こっちをやり、あっちをやりと、普通の人が嫌う仕事をみんなやったことによって私の実務能力は飛躍的に上がっていきました。
ノーと言わなかった理由は、私が、中学生の時に既に「将来は社長になる」と決めていたからです。ですから、学生時代のアルバイトでも、嫌だ、あるいは辛いと思った経験はありません。「これは、絶対社長になって役に立つはずだ」と自分で勝手に決めていましたね。
自分の都合のいいように考えていく、捉えていくということが私の場合はよかったと思います。他人には迷惑をかけていませんから、それで問題ないんじゃないでしょうか?
【ナレーター】
その後、小山は独立して一時的に会社を離れるも、1987年に武蔵野に復帰。その2年後に満を持して社長へ就任する。当時のことは今でも鮮明に覚えているという。
【小山】
創業者が亡くなる2日前に、その奥さまから「小山さん、武蔵野の社長をやって」と言われ、「エーッ!?弱っちゃったなあ」と思いました。一方で、私が武蔵野という会社でこれほどいろいろな経験を積み、好き勝手やらせてもらい、勉強させてもらったことは事実でしたから「わかりました。やります」と答えました。
とはいっても、すぐ社長になったわけではありません。なぜかといえば、このまま社長になれば、批判や非難の矢がみんな私に飛んでくるからです。まずは、創業者の奥さまに社長になっていただければ、問題ないであろうと考えました。
そして当時の幹部全員を集めて、どういうふうに経営していきたいのか、、レポートを持ってくるように伝え、初めはすべてやりたいようにさせていました。
それから1年経って、「皆さんがやりたいようにやって、結果が出てませんよね?」と指摘したところ、幹部が皆恐縮して、「言われた通りにやります」と総意を得ることができました。その上で、私が社長になったわけです。
【ナレーター】
社長就任後、小山は武蔵野の立て直しを図り、2001年から開始した経営サポート事業の成功によって18年連続で増収を果たす企業へと変えた。のべ2000社以上の企業の経営サポートを手掛けてきた経験から、小山は、会社が成長するためにはある要素が必要だと語る。
社長が勉強する人であることが大切です。社長が勉強しない会社はダメですし、社長だけが勉強する会社はもっとダメだと思います。社長と幹部、社長と社員が一緒に勉強する会社でないと会社は変われないんです。
そうすることで、社長と幹部、社員の間で同じことが共有されますよね?幹部や社員と時間を共有する社長でないと会社は大きくなれません。
採用面でもポイントがあります。野球でいうストライクゾーンのように、高さを能力、幅を価値観として当社では採用の基準がしっかり決まっており、これをはみ出ている人は採用していません。
働いているすべての人が同じ価値観と同じ能力で仕事をしているため、野球でいえば、1番、3番、4番、5番はいませんが、2番、6番、7番、8番、9番はいて、打線に穴がありません。会社の場合、どちらがよいかといえば、後者の方が強いんです。
そしてもう1つ、当社が組織として強くなっているのは"道具"があるからです。1つ目は「経営計画書」という道具で、これを朝礼で読んで社員の皆さんに解説しています。
このような道具がないと会社はダメなんです。長さを測るにはメジャー、重さを測るには秤があるのと同じように、会社を良くするためには道具がないとうまくいきません。
そして実務では「環境整備」ということをやっています。整理整頓、守破離の「守」を徹底して行い、チェックも欠かしません。私自身、現場しか信じていませんから、私が現場に行って、直接社員の皆さんを見ているんです。