【ナレーター】
2018年に開始した採用コンサルティング事業は、武蔵野での新卒採用の失敗を活かしているという。事業誕生の背景にある、失敗から得られた「気づき」とは。
【小山】
当社が初めて新卒を採用した時には15人以上を採用したんですが、全員辞めました。それは当社に新卒採用のノウハウがなかったからです。
2年目にまた20人ぐらい採用して、1人だけ残りました。3年目も全滅。4年目は4人が残りました。
そうして、やっていくうちにノウハウがだんだんと確立してくるものなんです。
今から4年ぐらい前に、新卒社員から、強い “抵抗”がありました。なぜかといえば、新卒として入社する社員の考え方や価値観などが以前とは変わっていることを私が読みきれなかったからです。
2014年以前までは、他人よりも給料を高くしたい、他人よりも出世したい、そういう新卒社員の集まりだったのです。ところが今の新卒の人たちの考えはそれとはまるっきり変わりましたよね?
そうすると、その人たちに合わせて採用の方法を変えなきゃいけないんです。昔は、新卒社員が10人入ってきたら10ヶ所に配属するのが正しかったのですが、今の人たちは目立つのが嫌なんですね。そういう人たちをいきなりバラバラにしちゃいけない。
そこで入社後の3ヶ月間だけは4組ぐらいに分けて、3、4人ずつでいろいろな営業所を回ってもらいます。その中でメンバーを入れ替え、だんだんとバラバラにしていくということを訓練させています。
そういったことを、ほとんどの会社では行わないため、入社したばかりの新卒社員たちがすぐに辞めてしまうんです。その理由は今の学生たちに合わせて自社を変えていないからです。変えるべきは学生ではなく、企業側であり、経営者なんです。
【ナレーター】
武蔵野を永続させるために、小山が思い描いている展望とは。
【小山】
当社としては、社長である私、小山昇と同じことを誰にも求めていません。そもそも私と同じことをできる人はいませんし、お客様側からそれを求められても対応できません。
そこで会社をいくつかの事業部に分ける、小学校でいえば、国語の学校、算数の学校、物理の学校、社会の学校というように、社内を分けてしまいます。専門的な業務だけであれば、誰でも何とか対応できるものです。というわけで、当社では組織を事業グループの集合体にしています。
できないことをやらせようとすると皆さんのストレスになってしまうため、今はそのような社員の育成の仕方に方法を変えました。
【ナレーター】
求める人材像について、小山は次のように語る。
【小山】
まず、失敗体験がない人は不採用です。
高校野球の世界でいえば、甲子園でずっとホームランを打ち続けて優勝を経験してきたような人は、絶対に不採用です。そうではなく、甲子園球場でホームランは打ったけれど、その試合が負けたというような方を私は採用します。
それは、「失敗や挫折の経験がないと人を大切にすることはできない」、という考えからきています。
ー大事にしている価値観ー
【小山】
「自分に正直」であることです。
会社の業績が良い時は社員の頑張りが素晴らしかったから、会社の業績が悪い時は社長の意思決定が間違ったからということです。
だからこそ、業績が低迷した際は、役員たちの報酬を減額します。そしてもちろん、役員全員の減額分の合計と同じ額を、社長一人分の給与からも減らします。
そうすると、社員がどのように思うかといえば、「もっと働かなきゃいけない」となるわけです。社員に「働け、働け」と一方的に要求するのは間違っていると思います。
そうではなく、自然と働きたくなるように、自分が働く会社を応援したくなるようにするのが私の仕事だと考えています。
たとえば、こんなことがありました。経営計画発表会の準備を進めていた時に、大役を任せたある社員が「妊娠何ヶ月だ」と気づきました。
そこですぐに私自身が「妊娠に気づけないで負担になるような業務をお願いしてしまい、ごめんなさい」と直接謝罪してピンチヒッターを入れたんです。
後日その社員からは「社長、配慮していただき、ありがとうございます」と書かれたサンクスカードが届きました。
このように社長としてやらなければいけないことは自分でやり、任せた方がいいようなことは部下に任せるようにしています。