【ナレーター】
世界初の自動運転のオープンソースソフトウェア『Autoware』の開発を主導するディープテックスタートアップ、株式会社ティアフォー。
「自動運転の民主化」をミッションに掲げ、技術をあえてオープンソースとして公開し、さまざまな組織や個人が自動運転技術の発展に貢献できるエコシステムの構築に注力。世界をリードする存在として注目を集めている。
イノベーションを起こすべく、道なき道を切り拓き続ける創業者が目指す未来とは。
【ナレーター】
現在の加藤の原点は、大学受験を終えた頃に出会ったある1冊の本だったという。
【加藤】
受験勉強の名残で図書館に行った時にたまたま、ビル・ゲイツの本を読みまして。ビル・ゲイツが生まれてからマイクロソフトを創業するまでをまとめた本で、それを読んでいると(創業時の年齢が)自分とそんなに変わらないなと思ったんです。
当時、これからの時代はプログラミングが重要でしたし、プログラミングをやるとこういう人になれる可能性があるのかと思いました。ですので、プログラムの勉強をしました。あとは、キャンパスライフを楽しんでいましたね。
【ナレーター】
加藤はマイクロソフトへの就職を志していたが、新卒採用を行わないことを知り、大学院へ進学。研究者としての道を歩むことになる。
研究を進める中でより高いレベルの学びを得たいと考えた加藤は渡米を決断。海外で得た学びについて次のように語る。
【加藤】
一言でいえば文化ですかね。考え方など国ごとで相当違いました。
英語は話せるといっても、ネイティブの人と比べたら少しハンディがある状態。でも勝ち残っていかなければいけないので、ハングリー精神が身につきます。
とにかくどうにかしなきゃいけない、何としても伝えないといけない、そういうのを体験できるので、海外は例外なく行ったほうが得るものはあるのではないかなと。
【ナレーター】
研究を進めるなかで自動運転技術と出会った加藤は、車が当たり前のように自動で動く姿に感動。この経験が現在の事業の着想とティアフォーの創業につながった。
【加藤】
初めてカーネギーメロン大学に行ったときに自分を受け入れてくれたホストの先生が自動運転プロジェクトのリーダーをやっていたのですが、普通に車が自動で走っていて素直にすごいと思いました。
実は研究の世界では、少なくとも僕がいたコンピューターサイエンスの世界では「普通だけどすごい」というテーマはあまりなくて。
自動運転はビジネスにもなるし、たくさんテクノロジーを進めないとつくれない。だから研究者としてもすごくディープダイブができるし、そのときからベンチャーを立ち上げることは頭にありましたね。
これを大学で成功させて、オープンソースという形でベンチャーをやったらシリコンバレーにも勝てるかもしれない、みたいな思いが、アメリカにいるときに構想としてありましたね。
起業の4、5か月前ぐらいに、一般にオープンソースとして「Autoware」という名前をつけて公開し、ほぼ同じ時期にオープンソースとしてプロジェクトを公開しました。これでベンチャーを立ち上げてうまくいくのか、少し様子を見たかったというのがあって。
公開した後に反響もあったので、これは自分の研究室の5、6人でできる規模じゃないなと思って事業化したというのが創業の経緯ですかね。
【ナレーター】
2015年に設立したティアフォーは、プログラミング情報を開示する「オープンソース化」をおこない、注目を集めた。なぜ自社の技術をあえて公開したのか。その理由に迫った。
【加藤】
サクセス・ストーリーの源はビル・ゲイツ、マイクロソフトはすごいなというところから始まって、気持ちとしてはこれを目指したいのだけど、研究していたときにもっとすごいやつが現れまして。
それが「Linux」というオープンソースのOSですね。
マイクロソフトのWindowsはオープンソースではなくて、プロプライエタリな商品なのですが、自分が憧れていたマイクロソフトとwindowsがLinuxにどんどんシェアを奪われていったんですね。
もはやマイクロソフト自身もコアはLinuxでこれから開発していくとアナウンスしていました。
そのときに世界一のマイクロソフトですら、20年経つとオープンソースというのに抗えなくなってきて、取り入れざるを得なかったのかと思いましたね。
これを自分の都合のいいように捉えると、自動運転の領域はGoogleが先行していて、自動車メーカーだったり、中国の大きなベンチャーがやっていたりするんですけれど、自分たちが彼らに追いついて、ちゃんと追い越せて、使ってもらえたら勝てる可能性があるかなということで、オープンソースを選びました。
【ナレーター】
「創造と破壊」。ティアフォーがミッションとして標榜している言葉だ。この言葉の真意と込められた想いとは。
【加藤】
自動運転には明るい面と暗い面があるんです。明るい面は新しい産業をつくる、人手不足も解消できる、トータルで見たら交通安全にも寄与するというところです。
暗い面は今までのドライバーはどうなるのか、人間が起こさないような事故を起こすかもしれないというところですね。これをどう「破壊するか」というのが、自分が一番考えなきゃいけないことだと思っています。
一般の方から見たらテクノロジーって何が起こっているのかよくわからないことが多いのですよね。ですので、テクノロジーをつくる側が対策というか、少なくともこういう悪い面があるとわかっていないと、(自動運転という存在を)本当に破壊してしまう。
こういった責任を、テクノロジーをつくる人がもつべきだというのをミッションとして自分に言い聞かせていますね。