株式会社ミマキエンジニアリング
代表取締役社長 池田 和明
池田 和明(いけだ かずあき)/2003年米GTインターナショナルスクール卒。帰国後、プリントビジネスに携わり、2006年にミマキエンジニアリングに入社。取締役営業本部長、常務取締役などの役職を経て、2016年4月に代表取締役社長に就任。
株式会社ミマキエンジニアリングは、独自技術により開発された業務用大型インクジェットプリンタやカッティングプロッタなどを国内外に向けて販売している開発型企業だ。革新的な製品と地域密着型の販売・保守サービスを武器に、海外での売上比率を約75%まで伸ばしている。
「売上比率だけを見たら、今でも十分グローバル企業と言えますが、“真のグローバル企業”となるべく、社内の仕組みを変えていきたい」と語るのは、同社代表取締役社長、池田和明氏である。池田社長の考える“ミマキ”の今後の姿を追った。
革新的な技術を生み出し続けるために
御社の経営理念として「新しさと違い」というものがありますが、新しい技術を生み出し、他社と差別化するためには、どういった取り組みをなされているのでしょうか?
池田 和明:
弊社の主力製品はインクジェットプリンタとカッティングプロッタですが、これらは3つの市場に向けてそれぞれの用途に応じた形で供給しています。
まずは屋内外の看板や切り文字看板、カーラッピングなどのサイングラフィックス(SG)市場は、弊社の売上比率約45%を占める主力市場です。屋外などに設置する看板については、その耐光性が非常に重要となりますので、競争力の高いインクを開発してマーケットの深耕に取り組んでいます。次にインダストリアルプロダクト(IP)市場ですが、これは小物へのプリントや、ラベル、パッケージなどの包装印刷ですね。他社でも同様のマーケットに向けた製品を手掛けられていますが、弊社は、例えば金銀のインクを作ってみようとか、少し特徴をつけることで付加価値を上げるようにしています。
他にも時計の文字盤や部屋の壁紙なども手掛けているんですよ。最後がテキスタイル・アパレル(TA)市場です。布に直接プリントするものや、紙にインクをプリントしてその紙から布にインクを転写したりするもので、わかりやすい例ですとスポーツのユニフォームなどが挙げられます。TA市場はまだまだデジタル・オンデマンド生産への対応が発展途上の市場ですので、今後の伸びしろが期待されています。
そうした市場に対応するために、弊社のポリシーとして、開発投資を毎年売上の7~8%かけていこうというものがあります。経営理念である「新しさと違い」を追求していくためにも、開発投資は欠かせないと考えています。実際、リーマンショック後の厳しい事業環境の中で開発投資した商品によって、今の500億円近い売上を生み出しているのです。例えすぐに成果が出なかったとしても、しっかりと市場調査を行い、コツコツと続けていくという姿勢が大切だと思います。その最たる例は、私たちのテキスタイルプリントですね。
テキスタイルプリントのデジタル化が20年くらい前に始まったとき、参入してきた企業の多くはその後撤退してしまいましたが、ミマキは少しずつではありますが開発投資を続けました。その甲斐あって、ようやくデジタル化の波が押し寄せようとしている今、私たちは既に技術基盤が完成した状態で市場に臨めるという、アドバンテージを有することができているのです。
海外販路の開拓と地域密着型の販売戦略
御社の市場は海外が主なものとなっていますが、海外の販路に関するお話をお聞かせいただけますか。
池田 和明:
世界初のプリンタの技術を開発し、2000年前後から海外へ販路を広げていきました。販路開拓は、商社を使った海外販売ではエンドユーザーの声やニーズが聞こえないので自販のルートを開拓していくことにしました。現在はそこから大きく進化して全世界を、日本、アジアオセアニア、EMEA(EUからロシア、アフリカまで縦割の地域)、NCSA(北米・中米・南米)の4極体制に分けて販売展開しています。やはり商品を買っていただくには直接触っていただくしかないので、なるべくたくさんの拠点を出してユーザーニーズをきめ細かく汲み取ろうとしています。
こうした営業で重要なのは地域密着ということです。弊社では、営業担当、保守サービス担当、業務担当でチームとし、このチームで一定水準の売り上げをとれるなら新たな拠点を出していきたいと思っています。実際に多くの国内外の拠点がこの方針のもとで新設され売上を拡大しています。お客様の近くにミマキの拠点があれば、迅速な対応ができますし、新製品に触れていただけます。需要が把握しやすいという利点もあります。あとはミニ展戦略といって、地域の小規模なスペースでミマキが独自に展示会を行うのですが、お客様との距離が近い分、密なコミュニケーションをとることができます。これらのことを世界中で続けていくことで、強い組織が作れるだろうと考えています。
海外と日本の違い
池田社長ご自身も海外でのご経験などがおありだと伺っておりますが、そういった観点から、海外と日本とで顧客のニーズなどに何か違いは感じられますか?
池田 和明:
違いはたくさん感じますね。ただ、品質の高さへの要求は変わりません。壊れないとかそういったところで信頼を築いていかないといけないというのはありますね。あと、文化の違いを強く感じる部分と言えば、色の好みですね。同じ黒でも、ヨーロッパの人たちは青系に近いすっきりとした黒がいいと言いますが、日本人は少し赤系の黒が好みなんです。着物の黒などは、一回赤を塗ったあとに重ねて塗るんですよ。国によって求められているデータが異なるので、そこはすごく勉強になりましたね。
他にも、次の商品を企画するときにはお客様からの声を参考にするのですが、日本人よりも海外の人たちのほうがたくさん意見を言ってくださる気がしますね。特に海外の人からは、モデルチェンジに近いような大きな改善要求をいただくこともありますが、商品を作る側からすると、そういった意見は貴重だなと思います。
“真のグローバル企業”になるための仕組みづくり
こうした海外のニーズにも応えていき、更に売上高を伸ばしていくためにも、グローバル企業として御社がより強化していきたいと思う点は何でしょうか?
池田 和明:
それは仕組みづくりですね。“真の意味でのグローバル企業”になるためには、販路を海外に広げていくだけではなく、人事制度や管理会計など、本社の仕組みを海外拠点に適用していかなくてはなりません。ですので、例えば現地スタッフの報酬などについても、結果と報酬がきちんと結びつくような制度を本部で作っていこうと思います。
他にも、海外拠点で行われる会議なんかですと、これまでは日本人社員だけで会議していたのを、現地スタッフにもどんどん参加してもらうという方針に変えたんです。というのも、やはりある程度一緒に議論に参加してもらわないと、こちらの考えが伝わらないと思うんです。このスローガンを掲げてから、現地スタッフの士気がすごく高まったんですよ。
本社では、そうした仕組みづくりのための専門部署を新たに作りました。今、私たちはまさに変わりつつあります。新たな局面にいる状態なんです。
1000億企業を目指して
“真のグローバル企業”として、これから御社が進んでいく方向性についてお聞かせください。
池田 和明:
現状に満足せず、サイングラフィックス(SG)、インダストリアルプロダクト(IP)、テキスタイル・アパレル(TA)の3つの市場を更に伸ばしていきたいと考えています。特にTA市場のデジタル・オンデマンド生産に対する需要の増加は今後かなり見込まれますし、東京オリンピックに向けてSG市場における看板や交通・施設案内なども刷新されていくでしょう。
加えて、今後新たに3Dプリンタの技術開発とIoTの導入による生産性向上を強化していくつもりです。3Dプリンタは、看板や、付け爪、釣りのルアーといった小規模店舗や個人のニーズに沿った製品に応用するなどして、設計への応用に寄りがちな他社とは少し違った視点から攻めていきたいと思います。また、大学や研究機関、様々なメーカーと組んで開発する、オープンイノベーションも視野にいれています。こうした改革を進めていき、“真のグローバル企業”として国内外の市場を牽引し、売上高1000億円を目指していきます。
編集後記
インタビューの中で池田社長は、“真のグローバル企業”として、社員に求めることは「なるべく相手の立場に立って行動すること」だと仰っていた。その考えは、地域密着型の営業を国内外で行っている同社の姿勢にもよく表れている。顧客のニーズを肌で感じることこそが、的確な市場予測で業績を伸ばし続けるミマキエンジニアリングの強みなのかもしれない。