ものづくりベンチャー経営者、“世界最速の開発支援企業”への挑戦
株式会社クロスエフェクト 代表取締役 竹田 正俊
京都市伏見区に本社を構える株式会社クロスエフェクトは、“高速試作”のノウハウを武器にメーカー等の開発支援を行っているベンチャー企業である。同社が開発した3Dプリンタを活用した心臓シミュレーターは、2013年に経済産業省主催「第5回ものづくり日本大賞」(製品・技術開発部門)の「内閣総理大臣賞」を受賞している。現在、国立循環器病研究センターらと共同で、小児期の複雑先天性心疾患の診断や治療用に精巧かつ短期間で制作可能な心臓の3Dプリンター技術の開発を行い、注目を集めている。 “世界最速の開発支援企業”を目指す同社代表取締役、竹田正俊氏の創業から現在までを振り返る中で見えてきた、ベンチャースピリッツの神髄に迫る。
竹田 正俊(たけだ まさとし)/1996年立命館大学卒。米シリコンバレーでの4年間の留学を経て、2000年にクロスエフェクトを創業。2001年、同事業を法人化し株式会社クロスエフェクトを設立、同社代表取締役となる。2011年、臓器シミュレーター等の開発を手掛ける株式会社クロスメディカルを設立し、同社代表取締役を兼任、現在に至る。
“上流”でのものづくりをビジネスにしようとした理由
―創業までの経緯についてお話しをお聞かせ頂けますか?
竹田 正俊:
僕の父も会社を自ら興し、携帯電話やカーナビの部品を大量生産する町工場を経営していました。その父の背中を見ているうちに、「自分もいつか会社を経営してみたい」と、中高生くらいの時には自然と考えるようになりましたね。大学卒業後、4年間のシリコンバレーでの留学を経て、帰国した2000年にマンションの1室でクロスエフェクトを創業したのです。そして翌年に株式会社化し、本格的に事業をスタートさせました。
―シリコンバレーでは、どのようなことを学ばれたのでしょうか?
竹田 正俊:
僕は小さなコミュニティカレッジに所属していたのですが、そこから徒歩2分くらいのところには、アップル社やイーベイ社など名だたる企業が集まっていました。シリコンバレーは“アントレプレナーシップ”という起業家精神を非常に大切にする文化を持っていて、僕の所属していたコミュニティカレッジの先生も起業することの重要性を学生に説いていました。「大企業の一員になるのもひとつの人生かもしれないが、道端で花を売る屋台を引いている青年の方が、よほど自立している。人生は、自立(independent)するために生きていくのだ」という先生の話は、非常に印象に残っています。
“じりつ”には“自立”と“自律”という2つの意味があります。アメリカで教わったことは、まさにこの2つの意味を含む“じりつ”です。父の出してくれたお金で大学まで卒業し、留学もしていた僕は、親の庇護のもとにあることを痛感したのです。“じりつ”している人が多いので、アメリカには起業家が多く、彼らが新しいビジネスをどんどん生み出します。先生はこうも仰っていました。「起業家が継続的に生まれない国は滅ぶ。新しいものを生み出す国が発展するのだ」と。日本はアメリカに比べて起業家が少ないのが現状です。だからこそ、僕は何か新しいビジネスを始めようと心に決めて日本に帰ってきました。
―帰国されてから、どのようにしてビジネスモデルを考えられたのでしょうか?
竹田 正俊:
正直、ビジネスの手段に特にこだわりはありませんでした。とにかく新しいことを始めて“じりつ”したいと考えていましたが、父の事業のような大量生産という業態は、人件費の安い国でないと成り立たないと考えていたので、大量生産ではないものづくりをしようということは決めていました。
大量生産しないものづくりとは、開発です。僕はものづくりの“上流工程”のビジネスをしようと考えました。ものづくりは川の流れに例えられることが多いのですが、どんな川も山の中の1滴から始まります。同じように、まずはものづくりも1つ目の試作品から始まります。その後、試作品をいくつか作り、マーケティングサンプルや実験用、検証用にと、だんだんと制作する数が増え、製品化する段階で大量生産の工程に至ります。川幅が徐々に広がっていくようなものですね。僕の父は、河口付近、“下流”のものづくりをしていました。ならば僕は“上流”に行こうと思ったのです。開発工程やデザインサンプルなど、形状を決定するところまでを業務としようと考え、帰国した年に、マンションの1室でクロスエフェクトを創業しました。
圧倒的な短納期で顧客に“時間”という価値を提供
―御社の事業内容についてお教えください。
竹田 正俊:
弊社の業務は、お客様の開発支援、試作品などの制作です。通常、ものづくり会社の多くは、お客様からデータをもらい、指示通りに作ったものを納品しています。もちろん、弊社はそういった仕事もしていますし、業績もあげていますが、それだけでは将来的には立ち行かなくなると思っています。ですので、弊社は、お客様から指示や図面を頂くのではなく、弊社自身でデザインをし、お客様に提案をしています。企画会議にも同席し、「こんな商品を作りたい」「前のデザインよりも格好良くしたい」といったお客様の思いをヒアリングし、それをもとに試作品を作り上げます。そして、弊社の一番の強みは、その試作品を完成させ納品するまでの納期の短さです。弊社は“世界最速の開発支援企業”を目指しています。他企業が納品までに1か月かかる試作品でも、弊社ならば15日で仕上げることができるといったように、圧倒的なスピードとクオリティでお客様からの信頼を勝ち得ています。
―試作品が完成するまでの時間を短縮することは、お客様側にとっても大きなメリットになりますね。
竹田 正俊:
開発工程で一番大切な要素は、“時間”です。開発競争や開発戦争、特許戦争という言葉がありますが、まさに時間との戦いです。期日までにモノを作って市場投入しないとライバル他社に負ける可能性があります。どんどん変化する流行や消費者の好みに対応していくには、開発期間を縮めるということが本当に重要なのです。
弊社の業種を一言で言うと「時間を納品している会社」です。弊社は確かにお客様に“モノ”を納品していますが、それはあくまで媒体にしか過ぎません。お客様に感じて頂いている価値はモノよりも“時間”です。弊社は、金型を使わずに熱可塑性樹脂を試作することができる光成形を始め、“高速試作”を実現するための技術やノウハウを持ち、短納期とクオリティを両立させることができます。そこが弊社の最大のアドバンテージであると考えています。
“地球規模”でビジネスを行う
―今後の経営拡大や海外展開などについてはどのようにお考えですか?
竹田 正俊:
僕は、企業の価値は「規模の大小にあらず」だと考えています。むしろ僕は、我々にしかできない技術を提供できる企業を目指しています。マーケットが小さくニッチな分野であったとしても、そのエリアで世界No.1の技術を開発することができる会社を作っていきたいですね。
現在、弊社では心臓の臓器シミュレーターを開発しています。これに関しては、世界的にみても弊社の技術力は圧倒的な高さを誇っていると自負しています。ですので、今後この分野での世界展開を進めていこうと考えています。そもそも僕は、ビジネスは地球規模でやるものだと思っています。国内なのか、海外なのかという違いはなく、より包括的な視点で市場を捉えています。自分たちの開発した技術や商品を世界に届けていくということが、僕の個人的なミッションでもあります。
会社は“命を使う場所”
―社長は会社を経営する上で、どのような理念をお持ちでしょうか?
竹田 正俊:
弊社では、理念という言葉を使わずに、“使命”と言っています。弊社は使命として、「開発者を徹底的にサポートし、期待を越える試作品をどこよりも速く提供する。」ということを掲げています。そして、会社というのは、その使命を実現する場所です。「命」を「使う」と書くように、使命によって、どうやってその人の命を使うかということが決まります。人は約3万日しか生きられません。会社は自分の人生の大半を費やす場所ですので、会社や組織にはそれにふさわしい何かしらの意味合いがなければなりません。社員には、お金を稼ぐためだけではなく、お客様から「ありがとう」と言ってもらえるような命の使い方を、この会社でさせてあげたいと思っています。
―何か社員の方たちのモチベーションを上げるような取り組みなどはされていますか?
竹田 正俊:
弊社は現在30名ほどの社員数ですが、2015年に新しいオフィスに移転したのを機に、社内キッチンを併設しました。毎日温かいご飯を提供するということに、僕自身がこだわったのです。以前、マンションの1室で創業した後、小さな貸工場に移転したのですが、そこでは昼食に仕出し弁当を頼んでいました。ただ、その弁当が、食中毒防止のためだとは思うのですが、完全に冷えていておいしくなかったので、いつも昼食に弁当の蓋を開けると、社員が溜息をもらしていました。
僕は、食事というのは非常に大きなイベントだと捉えています。一生懸命ものづくりをしている社員のためにも、一番お腹が空くランチタイムを充実させなくてはと考えました。今は、6種類のメニューから選んで注文できますし、ご飯も味噌汁も食べ放題飲み放題で、値段も1食280円です。それも将来的には無償にできればと考えています。僕もここで社員たちと一緒に食事をしていますよ。
求める人物像とは
―社長が必要としている人材はどのような人物でしょうか?
竹田 正俊:
個人のスキルや経験に関しては、僕は一切気にしません。もちろん、それらがあれば良いのかもしれませんが、場合によっては今までの経験が邪魔をしてかえって成長できない人もいます。僕は「うさぎと亀」の話をよく社員にしますが、弊社は亀タイプの人が多いかもしれませんね。「うさぎと亀」に出てくる両者の目標は全く異なります。うさぎは、とにかく「亀に勝つ」ことを目指していますが、亀は「着実に前進し、必ずゴールする」ことを目標にしています。僕が求めているのはうさぎではなく、亀の方です。ひとつの目標を決めたらそこに向けて、例え遅くても着実に粘り強く進み続ける、そんな人材を必要としていますね。
編集後記
竹田社長は、学生たちの将来の選択肢の1つとして、起業という選択が日本ではあまり広まっていないことを危惧されていた。「何か新しいものを生み出そう」という気概は、時として画期的な技術を生み出し、世界を変える礎になることもある。クロスエフェクトには、竹田社長の持つベンチャースピリッツと、地道な努力を積み重ねることのできる多くの人材という、まさに革新的な技術やノウハウを生み出す土壌が整っていることを実感した。