株式会社ジェネレーションパス 代表取締役社長 岡本 洋明
インテリアや衣料品など120万点以上もの商品を扱うECサイト『リコメン堂』の運営と、そこで蓄積されたデータを活かして企業のEC運営をサポートするECマーケティング事業を主事業とする株式会社ジェネレーションパス。近年ではアジアを中心とした更なる海外展開も積極的に進めている。平成26年に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、今後更なる成長が期待される同社の代表取締役社長、岡本 洋明氏に、創業に至る経緯や求める人物像について話を伺った。
岡本 洋明(おかもと ひろあき)/昭和61年駒沢大学卒業後、日本信販株式会社(現:三菱UFJニコス株式会社)入社。同社退職後に渡米し、Harvard Business School上級MBA課程を修了。平成12年ソフトブレーン株式会社に取締役として就任。平成14年、株式会社ジェネレーションパスを設立、同社代表取締役社長に就任した。
面接と間違えて出席した内定式
-ご幼少の頃から、社会人になるまでの経歴などについてお話しをお聞かせいただけますか?
岡本 洋明:
私は三人兄妹の次男として静岡県浜松市で生まれました。幼少期は四畳半二間の部屋で暮らしていたのですが、父が丸八真綿(現:株式会社丸八ホールディングス)という寝具の会社を興してからは、少しずつ暮らしぶりが良くなっていったのを覚えています。いわば、会社の成長を肌で感じていたようなものです。そうした経験から、「昨日より今日、今日より明日の方がきっと良くなる」という考えが、子どものころから心に染み込んでいました。経営者としての父の背中はとても印象に残っています。
大学ではスキー部に所属しました。そのスキー部は全国大会での優勝経験もある強豪で、大学4年生の冬まで大会、練習と忙しかったです。就職先については「これ!」という職業の希望が無かったので、いろいろな人や仕事に会える仕事に就きたいと思い、漠然と金融業や銀行を志望していました。しかし、部活動が忙しく、就職活動に関する情報はほぼ皆無。就職活動の解禁とされていた10月1日に合わせて、履歴書を持って志望企業へ面接に向かったのですが、既に当日は内定式を行っていました。多くの企業で、新卒の選考がすでに終了していたのです。
最初に着いた金融業の会社で受付を通ると、内定式に来た学生だと思われ、そのまま会場に通されました。他の学生たちが次々と名前を呼ばれていくにも関わらず、自分だけが呼ばれない状況に疑問を抱き、事態を把握しました。そこで人事担当の方に事情を話したところ、急遽面接を行ってくださり仮内定をいただきました。人事の方も体育会系で、私のスキーの受賞歴などを見て興味を持ってくださったというのもあり、助かりました。
刺激を受けた同年代の経営者の姿
―その後、アメリカのビジネススクールで学ばれたと伺っております。
岡本 洋明:
社会に入って最初の5、6年間は債権回収の業務を行い、その後本社の企画部に異動しました。仕事は楽しく、やりがいもありました。アメリカに渡ったのは、企画部で新規事業の開発を担当したことが大きなきっかけです。その調査の過程で多くの新規事業がアメリカ発であることから、何か新しいことを始めるためのヒントがアメリカにあるのではないかと考えたのです。その思いが強くなり、意を決し会社を退職、ビジネスを学びにアメリカに行きました。
まず、大学での聴講生からスタートしました。そのうちに、若い学生に交じって30代の日本人が聴講しているということに興味を持たれた教授に声をかけられるようになりました。スキーにも誘われ、流石に上手だったこともあり、親交を深めるようになりました。芸は身を助けるということですね。その教授たちから、ビジネスを真剣に考えるならばビジネススクールに行くと良いと薦められました。そこでハーバード大学のビジネススクールに入学し、経営に関するノウハウを世界各国の同級生とともに学びました。大学院での勉強が修了した後、日本に帰国し、以前からの知人であったソフトブレーン株式会社の宋文洲さんに誘われて、同社の取締役に就任することになりました。
ソフトブレーンは上場に向けて動き出していた時期でしたので、売上を上げることはもちろんのこと、営業手法の見直しや上場手続きなど、幅広い業務を朝から深夜まで行いました。その激しい仕事を同社の創業者の宋さんと一緒に戦えたことで、私の中に起業への意識が芽生えたのだと思います。
3人の社員のために創業したアーカイブ事業
―創業のきっかけについてお教えいただけますか?
岡本 洋明:
創業意識が芽生えたといっても具体的な事業アイデアがあったわけではないのですが、きっかけは3人兄妹の次男だったという事でしょうか。長男や長女の方にはわかりづらいと思いますが、私には、いわゆる“自分だけ”の写真というものがあまりありませんでした。生まれてからの写真は当然兄と共に写っているものも多く、兄の歴史に自分が入っていたような写真しかありません。もちろん親の愛は同じだと思います。
自分も子供ができ、その子供たちに自分の幼少期の写真を見せようと思ったのですが、他の兄妹が写っている紙の写真を自分だけの手元に持ってくるわけにもいきません。そこで、写真のデジタル化をしようと思い、いくつか企業にあたってみたものの、20冊分をデジタル化するのに2,000万円かかると言われました。ソフトブレーンが上場した時期でもあり、資金はあったのですが、同社の若い社員たち3人に声をかけたところ、土日を使って手伝ってくれることになりました。それがきっかけで、アナログ写真をデータ化するアーカイブ事業を考え始めました。しかし、無事作業も終了したところで、手伝ってくれた3人の社員がソフトブレーンを退職してしまいました。そして、私のところに来て「アーカイブ事業を本格的に始めたい」と言ったのです。「無給でも構わない」という彼らの熱意に押され、私もソフトブレーンを退職し立ち上げたのが、次の世代に伝えるという意味のジェネレーションパスです。
―その後、現在の中心的事業であるECマーケティング事業に至るまでにはどのような経緯を辿られたのでしょうか?
岡本 洋明:
アナログ写真をデジタル化するアーカイブ事業は、良いアイデアだと思ったのですが、顧客の開拓に難があり、行き詰まってしまいました。事業を閉鎖すべきか考えた時に、岐阜県にある葬儀会社からの依頼があり、故人の写真をまとめた葬儀用映像の作成を始めたところ、一気に規模が拡大し、従業員もアルバイトを含めて60名程の従業員を雇用するまでに成長しました。しかし、依頼が突発的であるということと、やはり悲しみを伴う作業であったため、徐々に従業員が疲弊してしまい、その事業から撤退することにしました。
次は悲しみよりも喜びをということで、結婚式のプロフィールDVDの作成に切り替えました。当初は競合他社が少なく順調だったものの、すぐに価格競争の渦に飲み込まれてしまいました。そこで、更に別事業を立ち上げようと考え、映像制作のノウハウが生かせると考えたEC事業に目をつけました。書籍を読み、関係会社にヒアリングをする中で、多くのネット通販企業がきちんとした統計学に基づいたマーケティングを行っていないことに気が付きました。私は大学院で統計学を学んでいたので、それを武器にすれば勝てると確信し、事業をスタートさせたのです。事業開始から5年後に売上50億円という当初の目標は4年目で達成し、一気に上場まで辿り着きました。
データに基づいたマーケティングで売上アップを目指す
―御社の今後の展望についてお聞かせください
岡本 洋明:
弊社の主力事業はECマーケティングです。EC事業である『リコメン堂』運営で蓄積された膨大なビッグデータやノウハウをもとに、作り手と消費者を結ぶ“橋渡し役”に徹しています。また、取引先様の為にそのデータを活用した商品企画やEC運営代行等を行う、ECサポート事業も更に強化していきたいと考えています。「モノを持っているけれども売り方がわからない」、「更に売上を伸ばしたい」といった課題を持つ企業様に、企画だけでなく実際に数字を見せる。つまりは売れなければ手数料をいただかない成功報酬型のサービスです。売れなければ収益が上がりませんから、必死に本気になって売ることを考える。1日に約3,000万件、10TBに上るビッグデータからはじき出された適正価格や販売手法などで、お客様にとって最大限の利益が出せる仕組みを構築しています。まさにマーケティングの領域が弊社の神髄です。今後も徹底的に追及していきたいと思っております。
また、現在は取引先様の商品の企画を推進する商品企画事業にも注力しています。モノづくりの企業様に対して、マーケットデータに基づいた商品提案を行っています。より効率的な製造方法でより良い商材を創るために海外にも多くの社員が数か月単位で滞在し、お客様の立場に立った提案を続けています。
さらに現在、中国において越境ECという形でマーケットを開拓していますが、今後ベトナムなど他のアジア諸国にも広げていきたいと考えております。特にベトナムは最も注目しています。今後そういったEC事業の海外展開により、人の思いを橋渡しする会社からモノを作る人の思いの橋渡しへ。そして日本のモノを海外へ橋渡し出来ることに、より一層力を注いでいきたいと考えております。
求める人物像とは
―最後に社長が求める人材についてお教えください。
岡本 洋明:
新しい事にチャレンジしたい方ですね。もちろん仕事は地味な作業の連続ですが、どのような仕事にも工夫できることがあると思います。10時間かかっていた仕事を、如何に楽して1時間で終わられるかなどです。時間で働くのではなく、成果を目指して働くという事でしょうか。弊社の事業はインターネットの特性から、一般に言われる営業というものがありません。ですから仕事によっては一日会社にいることもあるでしょうし、新しい商材を求めて外に出ていくこともあります。かなり自由な裁量です。もちろん入社して直ぐには難しいかもしれませんが、数か月もすれば何年もいるような人になっていきます。私が良いなあと思える人物像は、好かれる人や一途な人です。並び立たないかもしれませんが、どちらのタイプでも人の話などを謙虚に聞いて、教えてくれたことに感謝の気持ちを持ち、それを工夫して行っていける人ではないでしょうか。あとは、“時間で業務をしないで、成果を目指すビジネスマン”になりたい方には、弊社の社風は合っていると思います。
そして、個人的には明るい人ですね。毎日顔を合わせるので、明るい人がいると周りも楽しくなりますから。それにどんな仕事も、楽しいと思えば楽しめるものだと思います。自分自身の経験を活かして、仲間と共に日々成長していける人と仕事ができたら嬉しいですね。
編集後記
株式会社ジェネレーションパスが、現在のECマーケティング事業にたどり着くまでには多くの物語があった。岡本社長ご自身の就職や同社の創業についても、思わぬ巡り合わせから始まっている。まるで偶然が重なったような軌跡を辿っているが、それらは岡本社長の行動力あってこその結果である。「これから“来る”というものを見極める力は、誰にでもあると思います」と岡本社長は仰っていた。目の前のチャンスを見過ごすことなく、しっかりと掴む力があってこそ、“チャンス”を“結果”に結び付けることができるのだろう。そうした岡本社長の決断力の速さは、同社の強みのひとつなのではないかと感じた。