株式会社ホットリンク
代表取締役社長CEO 内山 幸樹

内山 幸樹(うちやま こうき)/1971年生まれ。東京大学大学院工学系研究科在学中に、日本最初期の検索エンジンの開発に関わる。博士課程を中退し、2000年に株式会社ホットリンクを設立、代表取締役社長に就任。2013年12月に東証マザーズに上場。2015年には世界規模でのソーシャルメディアデータの提供事業を展開する米国企業を買収。世界中のソーシャルデータと解析技術を組み合わせ、インバウンド市場をビッグデータで読み解く事業をスタート。 「EY Entrepreneur Of The Year 2015」アクセラレーティング部門日本代表ファイナリスト。著書に「仮想世界で暮らす法(ブルーバックス)」「1時間でわかる図解WEB2.0」。2015年7月から1年に渡り、世界的な起業家組織 EO(Entrepreneurs Organization) の世界最大の規模であるEO Tokyoの20期会長を務めた。

本ページ内の情報は2016年11月当時のものです。

株式会社ホットリンクは、ソーシャル・ビッグデータの流通・分析を行う企業で、SNS・掲示板の投稿データを活用するソーシャルメディア分析ツールやソーシャルリスクモニタリングサービスを展開している。2013年12月、東証マザーズに上場。その後は訪日客の口コミを基にしたマーケティングデータ活用によるインバウンド対策支援に力を注いでいる。日本旅行の需要をさらに喚気し、インバウンド市場拡大に貢献する方針だ。
今回は、同社代表取締役社長CEOの内山幸樹氏へのインタビューを通して、ホットリンクの経営戦略、事業の魅力などを紹介していきたい。

起業のきっかけは“ワクワク感”

起業のきっかけについてお聞かせください。

内山 幸樹:
数値流体力学を専門として勉強していた大学院の博士課程の時に開催された、世界最大のヨットレース「America’s Cup(アメリカズカップ)」で、私はヨットを設計する日本代表のチームに所属しました。世界最高のヨットを設計するためには、流体力学・空気力学・材料力学・画像処理などの、あらゆる技術をフルに使わなければなりません。これに携わったことで、私は世界と戦うワクワク感というものを経験しました。

丁度その頃アメリカから始まって、色々なブラウザが世の中で出来てきていましたが、まだ日本に検索エンジンはありませんでした。そこで、検索エンジンを日本で作ろうと思い、会社を起こしました。

検索エンジンも、テキスト解析の技術、データベースの技術、人間工学、分散システムなど、あらゆる技術をフルに使わなければできません。America’s Cupに通ずるものがあります。検索エンジンを作ることで、今度は自分が先頭に立って、また世界と戦えるんだと思いましたね。そのワクワク感が、私に大学院の博士課程を中退させ、起業することを決意させました。

ホットリンク 創業秘話

起業を決意されてからホットリンクをご創業されるまでの間は、どのようなことをされていらっしゃいましたか?

内山 幸樹:
検索エンジンに限らず、先端的なシステム開発の仕事を企業様からのご要望に合わせて受託していました。それと、東大・早稲田・慶応・東京工大などの有志を集めて、学生技術者派遣センターというのを作り大企業に送り込んでいく、今のインターンシップの走りのような事業をしていました。

その後、「世界をあっと言わせるようなソフトを作りたい」という気持ちから、私たちが既に行っていた開発の事業に、学生技術者派遣センターの中のトッププレイヤーの人たちを加えて、人工知能などを研究する、エージェント研究会というグループを作りました。そのグループが起点となって2000年にホットリンクにスピンアウトするという流れになります。

ホットリンクのビジネス

今の御社のビジネスについて、簡単にお教え頂けますでしょうか?

内山 幸樹:
当社のビジネスは、コンセプト自体が、ビッグデータ、ソーシャル、クラウドという3つのキーワードで成り立っています。いわゆるビッグデータという、伸びていく市場をターゲットにし、様々な種類があるビッグデータの中でも、ソーシャルメディアのデータに特化をしてクラウドで提供しています。

実際にやっている事業としては3つあります。1つ目は国内のソーシャルメディアのビッグデータを解析するツールを、企業様にご提供する“SaaS”と呼ばれる事業です。

2つ目は、データ流通事業と呼んでいるものです。人工知能やロボットの時代になると、家電製品に電気が必要であるのと同じように、彼らのエネルギー源としてデータが必要になります。そのために世界中のネット上のデータを収集して、ロボットや人工知能を扱う会社に供給するという、ある意味電気でいう送電線や変電所の役割となる事業を、世界規模で行っています。

3つ目は、当社が持っているソーシャルメディアのビッグデータ解析技術と、世界中のソーシャルメディアのデータを掛け合わせて、観光の分野に特化し、リアルタイムで世界中の人々の観光にかかわる消費動向などを解析し、企業様のプロモーションなどを支援するという事業です。

今後の展開を見据えて、現時点で注力をされていることは何でしょうか?

内山 幸樹:
今特に注力しているのはインバウンド支援事業の分野で、1つ目は、中国のソーシャル・ビッグデータ解析を軸として中国から日本、中国から韓国、中国からタイなどの中国旅行客向けのマーケティング支援を強化していきたいと思っています。2つ目は、その解析結果をもとにした中国の消費者に対してのプロモーション支援です。

特に2つ目の、中国の市場に対するプロモーション支援の分野では、今年、中国のIT企業の中でビッグ3と呼ばれている、テンセント社と中国最大の動画配信サイト「テンセントビデオ」で配信される番組の制作に関して提携できたことは大きかったです。今後は、日本に興味を持っている中国人向けのメディア開発をテンセント社と共同で行っていき、この事業を日本の企業様に早く広めたいと考えています。

強みを生かした戦略的な海外展開

海外での事業の展望について語る内山社長。世界規模でソーシャル・ビッグデータ提供を行うアメリカの企業の買収。インバウンド支援事業で更に海外展開を加速させる。

海外展開はどのようにされて来られたのでしょうか?

内山 幸樹:
当社は成長を早めるために上場しましたが、その後の海外展開の戦略が立たない状態でした。世界中を見た時、中国には勝てるチャンスがありそうでしたが、そもそものデータの取得が日本にいるとなかなかできません。そういった中で、当時、当社と提携していたエフィウス社という、アメリカで世界中のデータ、特に中国のソーシャルメディアのデータを唯一中国国外で販売できる権利を取得した会社があったのですが、その会社を買収する着想を得ました。

エフィウス社を買収して子会社化することで、ビッグデータや人工知能を扱う世界でもトップレベルの会社がいきなり当社の顧客となり、彼らに提供するサービス事業及びそれを運営する人材を、全て一気に獲得できました。当社としては、ものすごく大きな賭けに相当する規模の買収を行いましたが、それが海外展開のファーストステップですね。

次に、海外展開のセカンドステップになった事業についてですが、通常、人工知能が世の中に広まるのには5年10年という長い時間がかかります。しかし当社は上場企業として、それよりも速い1年2年という成長スピードで、一気に伸びていく事業もポートフォリオとして持ちたいと思っていました。

その問題を解決するために、自社の外部環境と内部要素について分析しました。外部環境、市場のトレンドとして発展途上国が経済発展にともない、その地からの海外旅行客は必ず伸びていくことが想定されていますし、日本は観光立国を目指していますし、インバウンドの大きな波も来ています。

そして、内部要素としては、当社のビッグデータ解析の技術、世界中のソーシャル・ビッグデータを手に入れることが出来る子会社の獲得があります。外部環境と内部要素を掛け合わせた時に、その強みを観光産業に活かせれば、、1年2年という速い成長スピードで事業を伸ばしていくことが出来ると考え、インバウンド支援事業をスタートさせました。これが海外展開のセカンドステップです。
このように、当社は戦略的に今の強みを生かすことで、うまくファーストステップ、セカンドステップを設定できていると思います。

強い組織をつくるために重視する4つの要素

強い組織について、どのようにお考えになりますか?

内山 幸樹:
組織として強くあるために、私は4つの要素を重視します。
1つ目は、いわゆる会社の屋台骨である、“ミッション”、“ビジョン”、“バリュー”がしっかりしていることです。2つ目は、一緒に働く社員たちそれぞれが、プロフェッショナルでなければなりません。3つ目は、このプロフェッショナルたちが、共有された“ミッション”、“ビジョン”、“バリュー”に共感していることです。4つ目は、この個々のプロフェッショナルが、チームとして機能することです。

当社では、この4つの要素を重視した組織設計を整備しています。ただ、今は新たな創業期として急激に社員を増員している状況にあるので、まだ理想通りには実現しているとは言えませんが。今後は組織力を高め、実績を上げることが必要だと思っています。

活躍できる人材にある3つのポイント

今後活躍できる人材について、御社のお考えをお聞かせください。

内山 幸樹:
人材に関して、3つのポイントがあると思います。

1つ目は視点が高いことです。もっと上を目指そうとか、もっと凄いことをやろうとか、志の高さがあることですね。2つ目は課題解決力です。3つ目は課題を見つける力です。与えられた課題を解決することよりも、今の時代は、自分から課題を見つけることが何よりも大事だと思います。この3つを持っている人は伸びるので、当社でも欲しい人材ですし、活躍できる人材だと思います。

就職希望者に向けたメッセージ

就職希望者の方へ向けて御社のPRをお願いいたします。

内山 幸樹:
当社は、自分で事業をつくり、引っ張る気概と能力のある人にやりがいのある場を提供できます。特にこれからの時代、グローバルで戦えるというのは、その人のキャリアの中でも重要な要素になってくると思いますが、今ホットリンクに入社して頂ければ、グローバル展開していく、まさにその歴史を一緒につくるチャンスがあります。

その能力と気概のある人は是非当社の門を叩いて頂ければと思います。

編集後記

編集中、チャンドラーの「組織は戦略に従う」、アンゾフの「戦略は組織に従う」という言葉を思い出していた。経営戦略と組織は常に両輪でなければならないと言われるが、内山社長は、その両輪を寸分の狂いも無く回していらっしゃるように感じた。今回、お話を伺っていて、ただただその頭脳の明晰さと手腕に圧倒されるばかりだった。