新型コロナウイルスの感染拡大の影響による経済活動の停滞は、さまざまな業界で深刻な問題となっているが、農業分野においても例外ではない。

相次ぐ自粛や休業・休校要請から、イベントや給食、外食の機会が減り、農作物の需要が激減したのである。緊急事態宣言が解除されたことで、需要は徐々に回復する見込みはあるものの、影響の長期化が予想されており、予断を許さない状況が続くと言っても過言ではない。

そんなコロナ禍で苦戦を強いられている農業従事者のために、業界に革命を起こすべく奮闘している企業が、愛媛県宇和島市に本社を構える上場企業「ベルグアース株式会社」だ。

同社は減農薬・高品質苗『e苗』シリーズの他、生分解性ポットを使用した『アースストレート苗』、お客様のお好みに育てていただける『ヌードメイク苗』など、時代やニーズに合わせた商品を生み出し続け、野菜苗の生産量は国内トップを誇る。

代表取締役社長の山口 一彦氏は「農業だけで生活ができる仕組みをつくっていくことが私どもの使命」と意気込む。

アフターコロナの世の中をどう予測し、今後の展開にどのようにつなげていこうとしているのか、山口社長に話を伺った。

※本ページ内の情報は2020年6月19日時点のものです。

ウイルス対策の心得

―新型コロナウイルスへの対策は、御社ではどのように進めてこられたのでしょうか?

山口 一彦:
実は、弊社のような企業ではウイルス対策は日々当然のようにおこなっております。しかし、今回は規模が全く異なるため、感染リスクを最小限に止めるべく、まずは国の指針に従うことに重きを置きました。

通常おこなっていること以上の対策を実施し、幸いにも弊社ではコロナショックの影響はほぼありません。ポイントは「冷静に対応すること」です。これに尽きますね。

危機は業界の拡大・向上のチャンス

ベルグアースが運営する育苗ハウスでは、病害虫の発生を最小限に留めるための環境づくりがおこなわれている。

―御社で管理されている植物への感染対策としては、普段からどのようなことをおこなっていらっしゃいますか?

山口 一彦:
虫が媒介する感染症は多く、弊社でもさまざまな対策をしています。たとえば、オンシツコナジラミという2㎜ほどの小さな虫がいるのですが、この虫が刺すと食物の成長が止まってしまい、場合によっては枯れてしまうこともあるのです。

ビニールハウスに網を張ったり、エアカーテンをしたり、入り口に消毒マットを置いたりするなど、できる限りの対策をして、オンシツコナジラミがビニールハウス内に入らないよう防止策を施しています。


―農業にとっては、感染症対策をおこなうことは日常のことなのですね。

山口 一彦:
そうなんです。農業とは、簡単に言えば「自然との闘い」です。新型コロナウイルスだけでなく、さまざまなウイルスや地震、台風などの災害に打ち勝つこと。これらはすべて農業では日々おこなわなくてはいけないことです。

加えて弊社は立地的な条件にも打ち勝たなくてはなりません。弊社の本拠地は愛媛県宇和島市ですが、台風が年に何度も直撃する地域で、なおかつ交通も利便性が良いとは言えません。そのような条件であっても、野菜苗業界では全国1位のシェアを実現しています。


―自然に打ち勝つためには、どのようなことを心がけていらっしゃるのでしょうか?

山口 一彦:
弊社では、危機こそ農業界を向上させるチャンスだとポジティブに考えるようにしています。災害の場合、被災された方の痛みを充分に理解したうえで、被災地の生産者に素早く苗を供給することを心がけていますね。

スピーディに苗を届けることで、被災地の農業従事者の皆様がより早く再起することができます。それが、農業自体の発展につながり、生産者はもとよりすべての消費者の食と暮らしを豊かにすることにつながるのです。

たとえば、2011年の東日本大震災では、花巻や長野の直営農場から農家の方々に苗を供給しました。また、農家の方以外にも園芸が広がった時期でもあったのです。

原発事故から、電力の供給が不安定になったことがありましたよね。そのため、今まで園芸に興味を持たなかった方も「グリーンカーテンが冷房効果を高める」という情報に反応し、家庭でグリーンカーテンをつくろうという動きが増えたんです。

もちろん、グリーンカーテンで各家庭から省エネを進めていくことは素晴らしいことですが、それだけではなく、園芸の楽しさに気づくきっかけになったとも考えています。

現在、顧客の約7割は農業従事者なのですが、残りの3割はそういった個人の園芸家の方にご愛顧いただいていますね。

AI化の推進で「農業従事者の努力が結実する世界」をつくる

―御社ではAI化にも力を入れていらっしゃると伺いました。現在どのような取り組みをされていらっしゃるのでしょうか?

山口 一彦:
弊社の生産管理システムで管理している、15、16年分の膨大なデータをAIに記憶させています。

同じ品種でも、季節によって成長速度が違います。ビニールハウス内で育てる場合でも、季節によって成長速度は変わるんですね。種類が違えばさらに違います。

これらのデータをAIに覚えさせ、生産者が働き甲斐を持てる仕組みをつくりたいと考えていきます。


―具体的にはどのような仕組みを考えていらっしゃいますか?

山口 一彦:
実は、農業は努力が結実しづらい業界と言われているんです。たとえば、頑張って農作物がいつも以上に実ると、価格が暴落して農家の収入は減ってしまいます。また、どんなに頑張ったとしても、台風や長雨などで作物自体がダメになってしまうこともあります。

AI化を通じて農業だけで生活ができる仕組みをつくっていくことが、私どもの使命だと考えています。

生活するために野菜をつくっているにも関わらず、生活できるだけの収益が上げられないのはやるせないですよね。そんな「努力が結実しづらい世界」を私たちで変えていきたいと思います。

中国でシェアナンバーワンの苗会社を目指して

接ぎ木室では苗に応じた接ぎ方・ノウハウを駆使し、一日最大25万本の苗を接ぎ木する。

―御社では、グローバル化にも力を入れていらっしゃいます。今後の展望についてお聞かせください。

山口 一彦:
弊社では、全国での農場展開と事業の多角化、グローバル展開を3本の柱としています。グローバル化としては、主に中国なのですが、青島に連結子会社を設立し、中国の農家向けの苗を販売しています。

中国は多くの民族がおり、言語も文化も地域ごとに異なるため、特にビジネスで成功することが難しい国と言われています。

しかし、ひとつひとつ問題をクリアしていくことで、シェアを伸ばしていくことは可能だと考えています。5年後の2025年までに、中国で一番大きな苗会社になるという夢を叶えたいですね。

―中国と日本では求められる苗は異なるのでしょうか?

山口 一彦:
日本は、食への安全安心を求めるこだわりが強い国です。しかし、中国では「多少質が悪くても安いほうがよい」と考える生産者が多いのです。ですから、基本的に苗にお金をかけようという発想がありません。

もちろん、中国でも近年、ブランド志向が生まれています。ですが、農家・農業に関しては、ブランド志向はあまり浸透していないんですね。そのため、納得できる品質の苗を安価で供給することが、日本以上に重要です。


―中国での夢を実現するためには、どんなことが重要と考えていらっしゃいますか?

山口 一彦:
優秀な人材を招へいすること、そして、良いパートナーと巡り合うことが大切だと考えています。弊社は多くの海外の企業と手を結んでいますが、お互いを理解するためにこまめなコミュニケーションは欠かしません。

5年以内に中国でシェアナンバーワンの苗会社になるという夢だけでなく、一部上場を目指すという夢もあります。農業は不安定な業界ではありますが、その常識を覆すべく、さらなる飛躍を目指して邁進していく所存です。

編集後記

天候、天災といった自然の脅威によって、その日の収益が左右される。それを予測し、コントロールしていかなければならない農業というビジネスの難しさを改めて感じた。

それを理解した上で、すべての農業従事者の人生を豊かにするべく事業を推進する山口社長。その揺るがない意思と行動力は、いつの日か業界にイノベーションを起こしてくれるに違いない。

山口 一彦(やまぐち・かずひこ)/ 愛媛大学付属農業高校卒業。家業の農業を引き継ぎ、1986年からは野菜苗の生産販売に着手。2001年、ベルグアース株式会社を設立し、創業10年目となる2011年にはJASDAQに上場。5ヶ所の直営農場と20以上の提携農場を持つベルグアースの社長として、また、日本野菜育苗協会の理事として農業界の発展に尽力。