※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

2024年4月1日以降、自動車運転業務における時間外労働時間の上限が年間960時間に制限さ
れる。これによりトラックドライバーの労働環境改善が期待される一方で、運送・物流業者
の売上やドライバーの収入が減少することが懸念されている。

この「2024年問題」が業界内で不安視されるなか、顧客と社員の両方を守りながら、新た
な対策を打ち出そうとしているのが株式会社トランスウェブだ。

同社の代表取締役社長、前沢武氏にゼロから会社を立ち上げた経緯や2024年問題に向けた
対策、今後の展望などを聞いた。

ドライバーから運送会社を立ち上げた経緯

――創業の経緯を教えていただけますか。

前沢武:
始まりは、高校時代にアート引越センターのアルバイトをしていたことです。トラックの助
手席に乗せてもらう機会が多く、運転手の方々がとても優しかったことを覚えています。卒
業後は自動車整備の学校に通いながら引っ越しのアルバイトを続け、その流れでアート引越
センターの本社に就職しました。

アート引越センターでは営業の仕事をしていて、そのときに出会った運送会社の社長に
「モータースポーツを運ぶ仕事をするから、うちの会社に来ないか」と誘われたのが創業の
大きなきっかけです。この社長に誘われて、別の運送会社へ転職しました。

しかし、いざ転職してみると話が全く違いました。当初はモータースポーツの仕事全般を任
せるといわれて入社したのに、実際は宅配業者の下請けなどドライバーの仕事ばかり。

私も今まで営業の仕事を続けてきてプライドがありましたし、自分にはもっとこの業界でで
きることがあるのではないかと考え、2001年に一念発起してトランスウェブを設立しまし
た。

――自動車業界の知識があったとはいえ、ゼロから会社を立ち上げるのは大変だったので
は。

前沢武:
大変でしたが、何もないドライバーの状態からスタートして会社を大きくしてきたからこ
そ、現場のドライバーの気持ちがよく分かると思っています。社員たちが置かれている状況
が理解できますし、理解できるからこそ私は彼らから憧れられる存在になりたいですね。

「何でも解決できるウェブサイトのような会社」を目指して

――2001年の創業から順調に売上を伸ばしていらっしゃいますが、貴社のどういった点が
評価されているとお考えですか。

前沢武:
かゆいところに手が届くことだと思います。弊社の社名トランスウェブの「ウェブ」には、
「ウェブサイト」の意味が込められています。
ウェブサイトで検索したら何でも答えが見つかるように、トランスウェブにお願いしたら何
でも解決してくれる。そう思ってもらいたくて、この社名を付けました。

弊社は今までできるだけ仕事を断らず、何でも対応することでお客様と信頼関係を築いてき
たので、そこが評価されていると思います。

2024年問題に立ち向かう戦略

ーー原油高などで物流業界を取り巻く環境は厳しくなってきている面もあるかと思います。
今後どういった点に力を入れていきたいのか、教えていただけますか。

前沢武:
原料高もそうですが、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間になる
2024年問題も、業界の環境を厳しくさせています。

今後は働く時間が減って給料が下がることが予想されるわけですが、そういった状況下でも
私は「トランスウェブに入った先で叶えられる人生」をドライバーたちに見せて、弊社に入
りたいと思ってくれる人を増やせるように取り組んでいきたいです。

たとえばその1つとして意識しているのが、他社よりも良いトラックを用意することです。
花形ともいえるトラックの1つに「スカニア」がありますが、弊社ではこの「スカニア」の
トレーラーヘッドを70輌用意しています。

冷蔵庫やコーヒーメーカーが設置された憧れのトラック「スカニア」に乗ることはドライ
バーの目標の1つでもありますし、それが会社に入社するきっかけにも十分なります。実際
に弊社のトラックを見てかっこいいと感じて、北海道から千葉まで出てきて入社してくれた
社員もいるんですよ。

今後はスーパーカーだけでなく大衆車の輸送も視野に

――先ほど2024年問題についてお話をされていましたが、事業の方向性を切り替えるなど
何か対策をする予定はあるのでしょうか。

前沢武:
時間外労働の上限が年間960時間に制限されることに対しては、今やっている長距離輸送を
短距離化していくことで対策を考えています。今いる営業所から隣の営業所まで4時間で行
けるようにすれば、運転時間は1人あたり往復8時間。運転が短距離で済むようなポイント
に、営業所を配置しようと思っています。

あとは、2024年問題とは別の話になりますが、トレーラーの新商品開発にも今後は力を入
れていきたいと考えています。現在も海外からトレーラーを輸入して自社で販売しています
が、コストがかからずに済むようなトレーラーを今後はさらに仕入れて、新商品として販売
を進めていきたいです。

――貴社は大手企業のスーパーカー輸送がメインだと伺いましたが、今後は大衆車の輸送に
も力を入れていく予定はございますか。

前沢武:
大衆車の輸送も前向きに考えています。弊社にはスピード感を持って輸送できる仕組みがあ
るので、今より輸送能力を上げれば、納期が短い大衆車の輸送にも十分に対応できると思っ
ています。

そのためにも、先ほどお話しした1人あたりの輸送距離を短距離化することが必要です。4
時間ごとにドライバーをどんどんバトンタッチしていくことで、大衆車の全国輸送にもス
ピーディーに対応できるような仕組みづくりを実現したいですね。

編集後記

「オランダに運送会社をつくるのが夢」として、今後は海外進出にも力を入れていきたいと
話す前沢社長。実際に毎年のように社員をヨーロッパへ連れていき、トラックで国をまたぐ
経験もしてもらっているという。

トラックと輸送業界への熱い思いで会社を成長させてきた前沢社長が海外進出を果たし、異
国の地で大勢の社員に囲まれながら笑顔でコーヒーを飲む姿が目に浮かぶ。

前沢武(まえさわ・たけし)/1971年生まれ。1992年にアートコーポレーション株式会社
に入社。1999年に某運送会社に転職後、2001年株式会社トランスウェブを設立する。2022
年には同社でトレーラー販売部門のEU TRAILERSを発足。