
トラックドライバーの時間外労働の上限規制が厳格化されるなど、大きな動きが見られた2024年の物流業界。ドライバーの働き方が見直される中、コンプライアンスを最優先にしながらも、質の高い輸送を実現しているのが大阪府茨木市に本社を置く中山運送株式会社だ。2024年から代表取締役を務める桑波田吉広氏に、同社の事業内容や働きやすい環境づくりへの取り組み、今後の展望などを聞いた。
15年間にわたり工場で物流業務を経験。阪神大震災も乗り越え社長へ
ーーこれまでの経歴を教えてください。
桑波田吉広:
大学を卒業後に山村倉庫株式会社へ入社し、播磨の工場で15年ほど物流業務に携わりました。おもに工場から出荷されるガラス瓶を包装し、得意先まで配送するといった業務を行っていましたね。
同社での忘れられない出来事といえば、阪神淡路大震災です。工場までの交通ルートが遮断されて通勤ができなくなり、工場周辺でほかの社員たちと共同生活をしなければいけませんでした。このときは、非常に大変な時期だったことを覚えています。
その後、ガラス関係の事業は山村倉庫、それ以外は山村ロジスティクスという新会社に分社化したのが2014年のことです。
2020年には、山村ロジスティクスが中山運送の全株式を取得し、2024年に山村ロジスティクスから中山運送に出向していた私が、中山運送の代表取締役社長に就任しました。
近畿エリアの地域密着型企業として、質の高い冷蔵・冷凍輸送を強みに事業を展開

ーー事業の強みや特徴はどんなところでしょうか。
桑波田吉広:
弊社は食品や自動車部品、衣料品などを運んで届ける会社で、ほかにも倉庫で荷物を預かるサービスや、不動産賃貸事業などを手がけています。近畿エリアの各所に営業所があり、24時間365日即日輸送に対応している点が強みです。
また、食品関係の輸送が特に多いことから、冷蔵車の割合が高く、保有台数も多いことが特徴です。チルド輸送の冷蔵車はマイナス5度から5度程度の低温、コールド輸送の冷凍車はマイナス18度以下を保持しての輸送を実現しています。
ーー働く環境については、どのような特徴がありますか。
桑波田吉広:
乗務員は自身の希望する時間帯や場所で働くことができ、ドライバーが主役になって働ける環境が特徴です。
また、コンプライアンスを最優先にしているため、安全な環境で働けるのはもちろん、労働時間や体調の管理は欠かせません。会社を辞めた方の出戻りも受け入れており、非常にアットホームな環境です。
そのほか、たとえば神戸と姫路の荷物のやりとりの際、必要に応じて車両の応援を派遣するなど、効率的に仕事ができる仕組みづくりにも力を入れています。
「基盤を固める3年にする」飛躍に必要なのは教育体制を整えること
ーー今後の注力テーマを聞かせてください。
桑波田吉広:
1つは、DXを進めることです。現在、各取引先の請求書をすぐに発行できるようなシステムを導入していますが、今後は請求書だけでなく、運行指示書などにもシステムの活用を広げていきたいです。
また、営業に力を入れて、近畿エリア内でより強固なポジションを築くこと、食品以外の分野でも「京阪神地域の輸送は弊社に任せてください」と言えるようになることを目指していきます。
ーー人材への取り組みについては、どのようなことを考えていますか。
桑波田吉広:
運送業というと「長い時間働いてたくさん稼ぐ仕事」というイメージがあるかもしれませんが、ドライバーの時間外労働の年間上限が960時間になったことで、昔ほど長く働くことが難しい状況にあります。
弊社はコンプライアンスを重視しているので、ドライバーの残業時間を減らすように努めますが、その一方で、残業時間が減っても給与が維持できるように努力をしていきます。
たとえば、今まで従業員が負担していた部分の費用を会社が負担したり、稼働時間が減っても賞与を減らさないようにしたりといったことも考えています。
また、経営幹部の育成も今後進めていきたいことの1つです。現在は入社から退職まで異動せず同じ職場に勤める社員が多いので、特に若手社員は途中で部署を異動するなど、いろいろな経験ができるチャンスを提供していこうと思っています。
ーー最後に、今後の展望をお願いします。
桑波田吉広:
現在の弊社の売上は配送業務によるものが大半で、運送業務の中でも「配送」という一部分にしか関わっていません。そのため今後は、配送だけでなく、その前後で行われている業務にもサービスを広げながら、会社を成長させていきたいです。
そのために必要なことが、親会社と連携してシナジーを生み出すことと、教育体制を整えることです。まずは教育体制を整えて近畿エリアで基盤を固め、トラックの保有台数を現在の165台から200台に増やすことを目指していきます。
弊社が山村ロジスティクスの子会社になってから現在までの3年間は「基盤を固める3年間」でした。この時期に培ったものを活かして、今後さらに大きく飛躍するつもりです。
編集後記
桑波田社長の「弊社はドライバーが主役になれる会社」という言葉からは、物流業務の根幹を支えているドライバーたちに敬意を払い、彼らとともに会社を成長させていきたいという強い意志が感じられた。今後は九州など、近畿エリア外にも積極的に進出したいとのこと。顧客からの信頼が厚い同社の輸送サービスなら、きっとエリアを越えても通用すること間違いないだろう。

桑波田吉広/1967年兵庫県尼崎市生まれ、1990年京都学園大を卒業後、同年山村倉庫株式会社へ入社。物流に携わり基礎を学ぶ。2024年、中山運送株式会社の代表取締役に就任。