【ナレーター】
イタリアンカジュアルレストラン『サイゼリヤ』をはじめ、2021年8月時点で国内1089店、海外464店の計1553店を展開している「株式会社サイゼリヤ」。
「日々の価値ある食事の提案と挑戦」を経営理念に掲げる同社は、誰もが驚くリーズナブルな価格にこだわり、業界に先駆けて製造直販の体制を構築。品質と価格を自社でコントロールすることで高い生産性を実現している。
近年では深夜営業の廃止や、同僚推薦方式の人材採用、組織の成長フェーズに合わせた集客施策の実施など、常識に囚われない取り組みに数多く挑戦し、食堂業と農業の産業化に向け、歩みを進めている。
大いなる挑戦に込めた経営者の想いとその原点に迫る。
【ナレーター】
新型コロナウイルスの影響により、時短営業を余儀なくされた飲食業界。サイゼリヤも例外ではなく、午後10時までの営業としていたが、感染拡大が落ち着いた2021年11月時点においても継続する方針だ。その選択を可能にしたサイゼリヤの強みに迫った。
【堀埜】
ビジネスモデルとして上手くいっているのは、我々が選択したのは「SPA(speciality store retailer of private label apparel)」なんですよ。自分のところでつくって自分で売ろう、と。自社で製造・販売することでコストが抑えられるのです。
もうひとつは、生産性がとても高い。そのため当社は、営業時間が短くても利益を出せる数少ないレストランのひとつだと思います。ショッピングセンターは、夜9時や10時までと、営業時間が短い。そこで利益を出せるモデルをつくっているんです。
営業時間に関係なく利益を出せるというのが、当社のもうひとつの強みといえます。
【ナレーター】
元来ある強みを生かすだけでは事業の拡大は難しい。そこで堀埜が現在取り組んでいるのは、自社のフェーズごとにやることを変える、キャズム理論の実践だという。
【堀埜】
おそらくどのビジネスにも当てはまると思います。成長期には、3つの要素があり、プロダクト・リーダーシップ(製品リーダーシップ)とカスタマー・インティマシー(顧客との親密性)、オペレーショナル・エクセレンス(業務の卓越性)があります。それぞれの期によって、この3つのうちの2つをやり、残りの1つを捨てなさい、という手法です。
成長期は新規顧客が多いため、カスタマー・インティマシーを捨てます。成長期には、プロダクト・リーダーシップを固め、オペレーショナル・エクセレンスを追求し、生産性を高めることを徹底的に行う。
成長が横ばいになった時は、ほぼ既存店になり、リピーター顧客が重要になります。カスタマー・インティマシーが非常に重要になるため、オペレーショナル・エクセレンスを少し落とすんです。
それを今、キャズム理論に書かれてあるとおりやってみようかなと思っています。
【ナレーター】
堀埜のビジネスパーソンとして原点は学生時代にまで遡る。今に生きていると語る当時培ったある経験とは。
【堀埜】
就職するにあたって、いつも遊んでいたスキーの仲間が悩んでいて。「このまま就職していいのか」「何も勉強していない」と。「わかった、ゴルフしよう」と、ゴルフをし始めました(笑)。
それは本当に当たりで、会社に入って研究所に所属し、しばらくして課長に「この会社、コンペやらないんですか?」と言ったら、まあ喜ばれて。「お前、すぐ来い」と言われて。ゴルフをきっかけに前職の上司と交流し、そこから人脈が広がりました。
実はテニスもやっていたんですよ。そのテニスが、次に(赴任した)ブラジルで生きるんですよ。当時、テニスは富裕層のスポーツでした。町のテニス大会に出場したことで、富裕層とつながりができ、人脈が広がっていきました。
勉強以外にも様々な経験をしたほうが、後々役に立つ可能性が高いと思いますね。
【ナレーター】
大学卒業後は大手食品メーカーへ入社し、九州工場での勤務を経てブラジルへ赴任した堀埜。どのような経緯でサイゼリヤ入社に至ったのか。
【堀埜】
当時勤めていたブラジルの工場長が、当社の元専務で、その方にずっと声をかけられ続けていました。しかし、自分は酒が飲めなかったので「ワインを出す店には行きたくない」と断り続けていました。
2年ほど経ち「最後に社長(現会長)に会ってほしい」と、12月24日に横浜のホテルに呼び出されたんです。
豪華な料理が出てきて「美味いな」と思いながら食べていたら、会長が「美味くないだろ?」と言いはじめて。「この人は何を言うんだろう」と。その理論が面白くて。
おそらくその時だと思うのですが、「食堂業と農業を産業化してくれ」と言われたんです。「え?」という感じですよね。「でも、前職の仕事より面白いかも」と思ったんです。
【ナレーター】
正垣氏の人間性に惹かれた堀埜は2000年にサイゼリヤへ入社。当時の印象深いエピソードとは。
【堀埜】
福島・白河の山をひとつ買う調印式に参加して、そこで皆に紹介してくれました。「農業の専門家だからよろしく」と。自分は農業の「の」の字も知らないのに…。
さらにショッキングだったのが、売値が数億円上がったんです。地主が「すみません、もうちょっともらえませんか」と言ってきました。会長(当時は社長)は「わかった」と。
そのやり取りを見て「電話一本で数億円が動くんだ」と、前職にない文化だと衝撃を受けました。