※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

東京でトップクラスのシェアを誇るタクシー会社、日本交通グループの関西拠点として、2014年に発足した日本交通グループ関西の日本交通関西本部株式会社。日本交通グループは、観光タクシーやキッズタクシー、陣痛タクシーといった多彩なサービスを展開しているだけでなく、業界初のホワイト企業認定を受けるなど、乗務員にとって働きやすい環境を整えている。

関西進出にあたって代表取締役社長に就任した金田隆司氏に、自身のキャリアやタクシー乗務員として働く魅力、今後の展望についてうかがった。

すぐに辞めるつもりで始めたタクシー乗務員

ーー入社までの経緯を教えてください。

金田隆司:
高校卒業後、働いてお金が貯まったら海外に行く、という生活を3〜4年続けていました。そんな中、帰国した際に実家に立ち寄ったところ、当時、日本交通でタクシー乗務員をしていた父に「お金を稼ぎたいならタクシーの乗務員になると良い」と言われ、ある程度お金が貯まったら辞めるつもりで日本交通に入社しました。しかし、実際に働き始めると仕事への充実感を感じ、結果的に長く続けることになったのです。

ーーその後、どのようなキャリアを積んできたのでしょうか?

金田隆司:
タクシー会社で10年間乗務員として働くと、個人タクシーを開業できる資格が得られます。入社8年目に、営業所の所長から「内勤職をやってみないか?」と声をかけられました。内勤職は営業所で運行管理をする仕事で、当時、個人タクシーの開業を目指していた私は、「2年後に辞めても良いのであればやります」と承諾しました。

しかし、運行管理の仕事が予想以上に面白く、入社から10年を迎える頃には「もう少し続けてみよう」と考えるようになりました。そんな時に日本交通の本社の営業企画部へ異動になり、クレジットカード決済機や新しい配車システムの導入に関わりました。さらに、他のタクシー会社の買収やフランチャイズ化の業務にも携わり、買収したタクシー会社の代表も務めていました。

ーー2014年には関西にも進出されていますね?

金田隆司:
はい。日本交通グループが関西に進出するにあたって、関西拠点の代表を務めることになりました。関西でのタクシー事業は、大阪の難波営業所でタクシー22台、乗務員ゼロの状態からスタートしました。徐々に乗務員を採用していきましたが、開始当初は大阪市内で弊社のタクシーが3〜5台しか稼働しておらず、お客様からの配車依頼に応えられないことがありました。もどかしさを感じたのを覚えています。

その後、関西の既存のタクシー会社からタクシーを譲り受け、約2年で100台規模まで拡大することができました。2016年、大阪の老舗タクシー会社であるさくらタクシーがグループ会社に加わったことで、関西での事業はタクシー500台、乗務員700人規模まで一気に拡大しました。

快適な車とサービスでお客様の移動を支える

ーー日本交通グループの強みを教えてください。

金田隆司:
日本交通グループは、1928年に東京でハイヤー1台から始まりました。ハイヤーとは、完全予約制で、タクシーよりもワンランク上のホスピタリティを提供する個別輸送機関です。現在はタクシーの方が圧倒的に多く、身近な存在ですが、どちらも良い車で良いサービスを提供することには変わりはありません。

従来、タクシーの車種はセダンタイプが主流でしたが、現在は、車内が広く安全性が高いトヨタのジャパンタクシーが徐々に増えてきています。大阪全体でのジャパンタクシー導入率は10%程度ですが、弊社グループではすでに8割の車両をジャパンタクシーに切り替えています。さらに、お客様のニーズに合わせて多様な決済手段を導入しています。

ーー貴社のサービスにはどのようなものがありますか?

金田隆司:
弊社グループの取り組みの1つに、陣痛の際にタクシーを優先的に配車する「陣痛タクシー」というサービスがあります。10年ほど前に「タクシーで病院に行こうとしたら、妊婦だからという理由で乗車を断られた」という声が広がりました。

弊社グループは過去に「妊婦だから」という理由で乗車をお断りしたことはなかったので、世間の声を受けて「陣痛タクシー」という名のサービスを開始しました。妊婦の方が陣痛中に行き先を伝えるのは難しいため、事前に病院を登録いただき、乗務員が荷物運びなどのサポートを行っています。

他にも、乗務員が観光地などを案内する「観光タクシー」や、子どもを学校や塾へ送迎する「キッズタクシー」など、さまざまなサービスを取りそろえています。「タクシーでできることは何でもやる」という精神のもと、今後も新しいサービスを提供していきたいですね。

ワークライフバランスと高収入が叶うタクシー乗務員の仕事

ーー採用強化のためにどのような取り組みを行なっていますか?

金田隆司:
タクシー会社は乗務員の数が売上に直結するので、採用には特に力を入れています。積極的に新しい車種に入れ替えることで、お客様へのサービス向上だけでなく、乗務員の「新しくて安全な車で乗務したい」という願いを叶えています。また、他のタクシー会社や他の業界と比較して、十分に稼げる環境を提供することを重視しています。

タクシーの乗務員は歩合制ですが、弊社グループでは、研修が終わったばかりの新卒社員でも月に平均で50万円程度は稼ぐことができます。さらに、タクシー乗務員の労働時間は、安全性を確保するために厳格に管理されており、弊社グループでは月の平均残業時間が20時間ほどに収まっています。ワークライフバランスの観点でも魅力的な仕事だと感じています。

また、タクシー業界では、乗務員だけでなく、多種多様な職域の人材も必要です。新たなサービスを考えたり、乗務員が快適に仕事ができる環境を整えるためには、乗務員経験がある方が有利だと思いますが、経験の有無に関係なく、さまざまな経歴を持った方に入社してほしいです。また、乗務員の中からも、希望者がキャリアアップできるように育成していきたいと考えています。

さらなるシェア拡大を目指してフランチャイズ展開を強化

ーー規模拡大のための取り組みを教えてください。

金田隆司:
現在、日本交通グループ全体では、子会社を含めて5,000台のタクシーを運行していますが、フランチャイズ契約の会社を合わせると、8,000台規模になります。関西だけで見ると、全1,400台のうち200台がフランチャイズ契約をしている会社のタクシーです。今後はM&Aや事業譲渡と同時にフランチャイズ展開をさらに広げていきたいと考えています。

ーー今後の展望をお聞かせください。

金田隆司:
現在、関西で1,400台のところ、2年後には2,000台、中でも大阪だけで1,800台まで拡大することを目標としています。大阪では全部で約1万8,000台のタクシーが走っていますが、マーケティングの世界ではシェアが10%を超えると市場に対して一定の影響力を持つといわれています。2年後には、大阪でのシェア10%を目指して、タクシー台数をさらに増加させたいですね。

編集後記

金田社長は「まだまだ新しいサービスを提供する余地がある」と言い切る。1人の乗務員が1台の車でお客様に向き合うというシンプルな事業ゆえに、ひとりひとりのお客様のニーズに応えようとするサービス精神は、まさにタクシーの原点とも言える。

同時に、乗務員の働きやすさを徹底的に考え抜くその姿勢は、同社が単なる利益追求にとどまらず、社会的な価値を生み出している証でもある。今後の展開を通じ、タクシー業界の新たな可能性を切り拓いていくその挑戦に大いに期待したい。

金田隆司/1967年、東京都生まれ、東京都立九段高校卒業、1993年、日本交通株式会社入社、都内タクシー乗務員、運行管理者、日本交通本社の営業部門を経て、2014年、日本交通グループの関西進出にあたり、日本交通グループ関西(東京・日本交通株式会社)代表取締役に就任。