※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

競走馬の輸送で、関西トップクラスのシェアを誇る会社がある。京都府に本社を構える鷹野運送株式会社だ。同社は「馬のまち」にある栗東トレーニングセンターにおいて、約5割という圧倒的なシェアを獲得している。今回は、25歳という若さで会社を引き継ぎ、独自の車両製造や組織改革など次々と新たな挑戦を続ける代表取締役の鷹野衛氏に、運送業界でも特殊な競走馬の輸送の裏側と、未来への展望について話をうかがった。

先代である父の人望

ーーまずは、先代社長であるお父様から仕事を引き継いだ経緯をお聞かせいただけますか。

鷹野衛:
先代社長から「外で勉強してきなさい、いろんな経験を積んできなさい」といわれ、大学卒業後は株式会社PALに就職しました。アウトソーシングの会社で、物流大手の事業を一部請け負う仕事をしていました。

就職して丸1年経つかどうかの頃、先代社長である父が病気になり、余命が半年ということで、実家に戻って鷹野運送に入社することになります。子どもの頃から父の背中を見て育ったので、やはりこの仕事をしたいという思いは少なからずありました。

中学の時に将来の夢を語る授業があって、そのときに漠然とですが「競走馬の仕事がしたい」と思ったことを覚えています。

ーー若くして社長に就任されましたが、社内での反応はいかがでしたか?

鷹野衛:
先代が亡くなり、「もう自分の後ろ盾はなくなってしまった」「なんとかして会社を維持し、前へ進めていかなきゃいけない」という責任感や重圧はとてもありましたが、社長を引き継いだのが25歳の若輩者ということもあって、従業員の方々が本当によく助けてくれました。「支えてあげないといけない」という気持ちからだと思います。これは先代の人望だと思います。先代がどのように従業員の方々と接してきたかを考えさせられました。

従業員の方々だけでなく、お客様方も同じでした。社長が代わったからお客様が離れたということもなく、逆に支えてもらいました。会社を継いで今年で20年目に入りましたが、ここからは本当に恩返しをしていかなければと思っています。

ーー競走馬の運送というお仕事は、具体的にはどういったことをされるのでしょうか。

鷹野衛:
全国の開催競馬場に、競走馬を馬運車で送り届けます。無事に送り届けて当たり前、無事に連れて帰ってきて当たり前の世界で、その上でプラスアルファを求められるのが僕たちの仕事です。レースに向けて、調教で完全に仕上がった状態の馬を競馬場へ送り届ける一番最後のところです。僕たちの仕事というのは、あまり表に出る仕事ではないと思っています。縁の下の力持ちですね。

競走馬はとても繊細でデリケートな生き物で、馬運車に乗った瞬間から車内の暑さや、走行中の振動や、いろいろなストレスで状態が崩れ出していきます。それを、いかに最小限に留めて送り届けてあげられるかどうかが重要です。

競走馬がレースで余力を残して、第四コーナー最後の直線の手前を回らせてあげられるかどうかがとても大事で、馬に対する気遣いが必要です。個別に特別な輸送プランを作って輸送して、それが結果につながったとき、お客様から「ありがとう」とおっしゃっていただけた瞬間は1番嬉しく思います。

地域に根差し、次世代が憧れる企業へ

ーー地域との関わりについて、具体的な取り組みはありますか。

鷹野衛:
これからを担う子どもたちに向けた活動を行っています。私たちの仕事は、栗東トレーニングセンターにいる何千頭もの競走馬を全国へ輸送することです。「馬のまち」において必要不可欠な移動手段を担っています。

長年この地で仕事をさせていただいているからこそ、子どもたちに「こういう仕事をやってみたいな」と憧れてもらえるような活動を大切にしていきたいのです。たとえば、地域の小学校から依頼を受けて、春と秋の年2回、馬運車の展示会や見学会を開催しています。普段なかなか近くで見ることのない大型の輸送車両に触れてもらう、貴重な機会となっています。

また、近隣中学校の職場体験「チャレンジウィーク」も受け入れています。中学生の子どもたちが3日間、弊社に出社し、車両の清掃や一部業務を体験するプログラムです。こうした活動を通じ、物流や輸送の仕事に少しでも興味を持ってもらい、将来の選択肢につながれば嬉しいですね。

車両製造会社の設立と飽くなき探求心

ーー2023年1月に新しい会社を設立されましたが、今後社長が取り組んでいきたいことは何ですか。

鷹野衛:
馬運車は、ベースは普通のトラックですが、競走馬のためにいろんな特殊加工を施してあります。その馬運車を自分たちでつくるというのが新しい会社の業務になります。これまでは業者と一緒にやっていたのですが、製造してもらっていた業者が撤退しました。しかも、昨今のコロナショックやウクライナの戦争で、鉄やステンレスといった資材の仕入れ価格が高騰しました。それでは安定した車両の製造につながりません。「どうしようか」と考えた時に、「いっそ自分のところでつくってしまおう」という発想に至りました。

弊社の強みは、高い運転技術やお客様への対応力に加え、他社にはないオリジナルの輸送車両をつくれる点にあります。自社で馬運車をつくれば、毎日トラックを扱うドライバーや、厩舎スタッフの方々の意見を直に反映できます。毎日乗っていただけるお客様から、「こんなのでできない?」「こうしたほうがいいのでは?」という声をいただいた場合でも、すぐに改善につなげられます。

ーー馬運車の開発において、苦労されたことはありますか。

鷹野衛:
「今までにない、競走馬のための理想の車両をつくりたい」という一心でしたが、私たちは運送業の経験しかなく、製造は初めての領域です。お客様から「こんな設備がほしい」と要望をいただいても、それを形にするプロセスは簡単ではありませんでした。設計図をゼロから引き直し、試行錯誤を繰り返す日々は、まさに山あり谷ありでしたね。

構想から実際に納車するまでに2年以上もの時間がかかりました。予定よりも時間はかかりましたが、つい先日、自社製造の第1号車が完成しました。2026年の1月から稼働し始めました。夢が叶ったようで、本当に感慨深いです。

ーー新車両にはどのようなこだわりが詰まっているのですか。

鷹野衛:
徹底したのは、競走馬のための環境づくりです。たとえば、競走馬は暑さに弱く、車内温度が27℃を超えると汗をかいて体重が落ちてしまいます。出発時と到着時で体重差があるとレース結果に大きく響くため、空調管理は極めて重要です。また、輸送中の緊張からくる呼吸数の増加や、疲労による免疫力の低下を防ぐため、車内にはプラズマクラスターを導入しました。菌を抑制し、輸送熱などのリスクを少しでも減らすことで、馬が万全の状態でレースに挑めるようサポートしています。

営業戦略とビジネスパートナーの育成

ーー競走馬の輸送は日本中央競馬会とのお取り引きだと思いますが、どのような仕組みになっていますか?

鷹野衛:
契約先は日本中央競馬会で、入札を経て、輸送費の契約を本部と交わしています。ですが、馬の発注に関しては契約書はなく、そこは信頼なのです。「鷹野さん輸送お願いします」という馬の発注は、調教師からいただきます。調教師からの信頼があって、初めてその馬の発注をいただけます。ですので、荷主は日本中央競馬会ですが、輸送費の支払い契約先と馬の発注契約先は別なのです。両方からの信頼を獲得できないと、この輸送は成立しません。

現在、栗東トレーニングセンター内には92名の調教師がいらっしゃいますが、ありがたいことにその約5割の方々からご依頼をいただいています。指定業者が5社ある中でこれだけのシェアをいただけているのは、これまでの安全への取り組みや、馬のための環境づくりを評価していただいた結果だと思っています。新規開業される調教師の方などに向けて、実績と信頼、そして車両の強みをアピールしながら、一つひとつ信頼を積み重ねていくことが私たちの営業戦略です。

変化する採用基準と「育てる」環境

ーー人材の採用についてはどのように考えていますか?

鷹野衛:
この先、ドライバーと営業職の採用は増やしていきたいですね。6年前にM&Aで合併した竹内運送との共同輸送を進める中で、今後輸送量はさらに増加していく見込みです。また、お得意様の数も年々増えていっているので、日常的に調教師や調教助手、牧場関係者と打ち合わせを行い、輸送の段取りをする営業スタッフの増員も必須だと考えています。

また、求める人物像については、これまでは大型トラックの経験が5年以上あり、かつ無事故・無違反である即戦力の方を基準としていました。出走が確定した競走馬の輸送は、決して失敗が許されない責任ある仕事だからです。しかし近年は、熟練のドライバーが減少しています。そのため、今後は考え方をシフトしていく考えです。経験の浅い方や免許を持っていない方でも採用し、入社後の指導教育でじっくりとプロの技術を身につけてもらう。時間はかかりますが、そうした「育てる採用」へ転換していくことが、技術継承のためには必要だと捉えています。

ーー社内の雰囲気はいかがですか。

鷹野衛:
3年前に完成した新社屋は、事務所だけでなく整備工場などすべての機能が集約されています。ドライバーも整備士もスタッフ全員が同じ場所にいるため、「今日こんなことがあったよ」といった情報共有が非常にしやすく、コミュニケーションが活発です。従業員同士の仲が良く、和気あいあいと助け合いながら仕事に取り組んでいる点は、弊社の大きな魅力の一つだと自負しています。

ーー2024年問題を経て、現在の運送業界についてどうお考えですか?

鷹野衛:
業界それぞれにいろいろと悩みはあると思いますが、良くするのも悪くするのも、自分次第だと思います。良い方向に持っていくのも悪い方向に持っていくのも、本当に全部自分次第です。自分の生き方、やり方、考え方次第、付き合い方次第だと思っています。だから「世の中がこうだからダメだ」というような考えには、僕はなりません。問題を一つひとつクリアしながらコツコツ進んでいれば必ず道は開けていくと思います。

具体的な対策としては、まず社内のDXを進めています。運送業界はまだアナログな部分が多いですが、労務管理や配車業務などにシステムを導入し、シンプルで分かりやすい体制を作ることで、無駄な労力を省いていきたいと考えています。これは2026年の春以降、トライアンドエラーを繰り返しながら形にしていきたいですね。

ーー最後に、今後のビジョンがあれば教えてください。

鷹野衛:
将来的には、競走馬輸送を軸とした総合物流を確立したいと考えています。単に馬を運ぶだけでなく、輸送に関わるすべてを支える仕組みをつくることを目指します。現在は関西が拠点ですが、今後は関東、そして馬の産地である北海道にも新たな拠点をつくり、この3拠点を結ぶネットワークを構築したいのです。長距離輸送の中継地点として、競走馬が休憩できたり一時預かりができる施設を持つことで、より円滑で安全な輸送が可能になります。まずは3年以内に関東での拠点づくりを実現し、5年以内には北海道へと広げていきたいですね。

人材育成においても、今の時代に合った指導や働き方を進めていきます。昔のような「見て覚えろ」といった風潮や、厳しい叱責による教育は今の時代にはそぐいません。そのため、弊社ではコミュニケーションを重視した環境づくりを徹底しています。指示を待ち「やらされている」という受動的な姿勢ではなく、自ら「やっている」と感じられる環境をつくることで、次世代の技術者を育てていきたいと思っています。

編集後記

“英雄”の二つ名を持つディープインパクトなど、競馬ファンに人気の競走馬に携わるも、あくまで自分たちの仕事は裏方、縁の下の力持ちだと強調する鷹野氏。デリケートな競走馬をベストコンディションで運ぶために、ときには採算度外視でトラックの改良に力を入れ、遂には馬運車製造の会社まで設立した。「競走馬のための環境づくりは、いくらでもできる」。そう力強く語る同氏の言葉とおり、その探究心は終わらない。プラズマクラスターの導入や空調管理もその表れだ。今後は関東や北海道への拠点展開を掲げ、競走馬輸送の「総合物流」という新たな形を目指す。伝統を守りながら、次世代の育成と革新に挑む同社の飽くなき探求と挑戦はこれからも続くことだろう。

鷹野衛/1981年神奈川県生まれ。神戸国際大学卒。2003年株式会社PALへ入社。2004年鷹野運送株式会社へ入社し、2006年同社代表取締役に就任。2018年竹内運送株式会社とM&A、同社代表取締役に就任。2023年TAKANO WORKS株式会社を設立し、競走馬輸送車両の製造にも取組む。