※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

運送業界は今、大きな変革期を迎えている。ドライバー不足や労働環境の改善など、多くの課題に直面し、業界全体で効率化と働き方改革が求められている。丸善運輸株式会社の代表取締役社長である重冨光泰氏は、未経験からこの業界に飛び込み、現場での経験を積みながら新たなビジネスモデルを構築してきた。祖父の代から続く会社を引き継ぎ、社員とともに成長してきた重冨社長に、現状の課題と今後の展望について詳しくうかがった。

現場で培った経験で「共同配送システム」を確立

ーー社長就任までの経歴を教えてください。

重冨光泰:
東京理科大学を卒業後、日本経済社に入社して長らく営業職に従事しており、その後、30歳のタイミングで弊社に入社することを決意しました。弊社は祖父の代から続く家業で、父が後を継ぎ、その後は叔父が引き継ぎ、私は4代目となります。

入社当初は運送業に関する知識が全くなく、不安や焦りを常に感じていました。なにしろ、私は長らくペーパードライバーだったので、運送会社で働きながらも、マニュアル車ではエンストを繰り返すような有様でした。しかし、入社した以上は後戻りできませんので、とにかく現場に出て、できる限り多くの経験を積むことに専念しました。

荷物の配送にかかる時間や、重さ・形態によって現場で求められる作業内容を、自らの体で必死に覚えていき、その経験を通じて、配送業務の実態を深く理解できたと思っています。2013年に社長に就任してからも、現場での感覚を何よりも大切にし、経営判断にも積極的に活かすように心がけています。

ーー改めて貴社の事業内容をお聞かせいただけますでしょうか。

重冨光泰:
弊社は創業以来、自社配送と優良なパートナー会社との連携により、高品質で最適な配送網を構築してきました。現在は建材や、食品の配送が事業の中心を占めています。食品配送は集荷後に倉庫での作業を経て配車を組むため、通常の荷物よりも特に手間がかかるので、この業務を請け負える運送業者は限られているのですが、弊社はこれまでの経験とノウハウにより当該業務に対応することができます。

ーー社長就任後は具体的にどのようなことに取り組まれましたか。

重冨光泰:
先代の頃から少しずつ取り組んでいた「共同配送システム」を、具体的な形にすることができました。従来の配送システムでは、荷主様が個別に配送を行うため、それぞれに物流コストが発生していましたが、弊社の共同配送システムを導入することで、複数の荷主様の商品をカテゴリ別・地域別にまとめて一括配送することが可能となりました。

これにより、異なる荷主様の商品を効率的に積み合わせ、空きスペースや無駄な経路を削減し、トラックの積載効率を最大化できるようになりました。結果として、配送の効率化とコスト削減を実現し、さらにお客様により良いサービスを提供できるようになったのです。この10年間の取り組みを通じて、このシステムが確立され、着実な成果を実感しております。

データ分析を活用した効率的な配送管理で人手不足を補う

ーー貴社の強みはどういった点であると分析されていますか?

重冨光泰:
私は前職で、データを活用した手数料や粗利益の計算業務を経験しましたが、この分析力は、経営判断において重要な武器になっていると感じています。限られた車両や人員で効率的な配送ができるかどうかは、配送先、単価、1日の物量といった要素に大きく左右されます。

たとえば、配送先で荷物の受け取りはリフトで簡単に引き渡しができるのか、手作業で検品して積み下しが必要なのであれば、どのくらいの人員が必要なのかなどの、一つひとつの作業内容を精査し、データと経験を駆使して判断しています。人手不足が深刻な業界ですが、データ活用をすることで、社員の働き方を考慮しながら利益率を追求するビジネスモデルを確立しつつあります。その点が弊社の大きな強みだと思っています。

ーー仕事をするうえで大切にしていることを教えてください。

重冨光泰:
「難しいご要望に対して、どうすれば実現できるかを考えて提案する」ことです。無理難題なご要望をいただいた時も、「できません」と言うのは簡単ですが、弊社には1949年の創業以来、経験を積み重ねてきた運送業者としてのプライドがあります。社員同士で知恵を出し合い、可能な方法を模索してご提案する姿勢を大切にし、今後もこの精神を後世に継承していきたいと考えています。

関わる全ての人に利益をもたらせるように!常に先手の舵取りで不安を払拭

ーー「2024年問題」についてはどのように対応されましたか。

重冨光泰:
ドライバー不足は運送業界にとって深刻な課題ですので、弊社でもドライバーを中心に新規採用の人員を募集しています。働き方の改善については、今年から土曜日を隔週休みにする制度にしました。これまでは「休めるときに休む」形だったため、大きな前進だと感じています。

この制度は、協力会社の皆様の配慮があってこそ実現できました。ドライバーの働時間削減に向け、今後も引き続き問題解決に取り組んでいく覚悟でいます。「2024年問題」は運送業者だけの問題ではなく、国内の企業全体が一致団結して取り組むべき課題だと思いますので、弊社でも、社員の働き方改善と業務の効率化を追求し続ける方針です。

ーー今後の展望をお聞かせください。

重冨光泰:
「運送業」と聞くと、「大変な仕事」というイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、私はこの業界が想像以上にやりがいに満ちている仕事だと考えています。弊社では、困難な作業を成し遂げたドライバーには給与として還元し、キャリアアップの道を広げています。

トラック運送事業者の約99%は中小企業であり、国内貨物輸送の約9割をトラックが支えています。弊社は九州各地で活躍する地域密着型の運送会社と共同配送ネットワークを構築して、荷主のお客様、協力会社、弊社が相互に利益を生み出し、お互いに感謝し合えるような物流サービスの実現を目指しています。

編集後記

運送業界が直面する課題に対して、データ分析による効率化で新たなビジネスモデルを構築するその取り組みは、まさに業界の未来を切り拓くものと言えるだろう。重冨社長が掲げる「無理難題をどう実現するかを考える」姿勢は、全てのビジネスに通じる有益な価値を持っている。

重冨光泰/1974年福岡県生まれ。東京理科大学卒業。1999年日本経済社に入社し、2005年、30歳で丸善運輸に入社。2013年に代表取締役に就任。