※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

地域に根差した公共交通機関として、約130年もの歴史を持つ近江鉄道グループ。そのグループ内で県内最大のタクシー会社として活躍する近江タクシー株式会社は、タクシー事業だけでなく、コミュニティタクシーや貸切バス事業も展開している。時代の変化に合わせ、バスからタクシーへと地域の足を柔軟に移行させながら、総合的な交通体系の構築に取り組む同社の元代表取締役である磯谷淳氏に話をうかがった。

地域の交通を守る使命感で取り組んだ公共交通の再構築

ーーこれまでの経歴を教えてください。

磯谷淳:
私が弊社の親会社である近江鉄道株式会社へ入社したのは、1984年のことです。若手のころから会社を動かすような業務を任せていただき、仕事に打ち込むうちに成果が出て、さらに大きな課題に挑戦するというサイクルを積み重ねてきました。

特に長年携わったのは、路線バス事業です。入社当時はマイカーの普及などから利用者が減少し、ほとんどの路線が赤字でした。しかし、交通網の維持は地域にとって不可欠との思いから、安易に廃止にするのではなく、コミュニティバスへの転換を進めたのです。

そこで県や市との交渉を重ね、試算表を作成して補助金申請を行うなど奔走しました。運用方法も単に路線を代替するだけでなく、病院や駅を結ぶ利便性の高い路線網を整備し、高齢者の方が通院や買い物に利用しやすいよう、病院を経由するルートを積極的に取り入れました。

さらに、高齢者向けに経済的な負担を軽減する制度をつくって利用者の促進を図るなど、さまざまな工夫を導入。こうした取り組みを30年ほど前から続けた結果、路線を残すことができたのです。これらの施策が評価され、2017年に弊社の取締役となり、2019年に代表取締役へ就任しました。

ーー経営者としての心構えをお聞かせください。

磯谷淳:
社員全員を家族と思い、一人ひとりに対して責任を取る覚悟で臨んでいます。代表になる前も部下がいる立場ではありましたが、経営に携わるようになってからはその責任の重みをより強く感じるようになりましたね。

私が特に大切にしているのは、決断と即断です。経営者として判断を求められる場面は多く、即座に決断しなければならないことも少なくありません。「判断ミスは許されない」という重圧はありますが、それが経営者としての責任だと考えています。

地域の老舗企業として、安全安心な交通事業を展開

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

磯谷淳:
弊社の事業は大きく3つの柱で成り立っています。主軸となるのはタクシー事業で、これは全体の約66%を占めています。次に力を入れているのはコミュニティタクシー事業で、現在17%ほどの割合を占めています。さらに、貸切バス事業も展開しており、こちらも全体の約17%を担っています。

弊社の強みは、まもなく130年を迎える近江鉄道の歴史と地域に根付いた信頼です。地元では「近江さん」と親しまれ、小さなお子様からご高齢の方まで広く認知されています。その期待に応えるため、安全安心を第一に事業を展開しています。

ーー貴社で働くやりがいをお聞かせください。

磯谷淳:
弊社では、多様な交通サービスを展開しており、新たな交通体系を構築できる点に大きなやりがいがあります。タクシー業界については将来的に縮小するのではないかという見方もありますが、私はむしろ新しい可能性が広がっていると感じています。特に足の不自由な高齢者の方などは、バス停に行くのも大変です。その点、タクシーなら移動が困難な人でも利用しやすいというメリットがあります。実際にバスからタクシーへと移行する流れも進んでおり、交通の中心としての役割が増していくのではないでしょうか。

時代の変化に合わせ、公共交通のあり方を考えることで、地域の活性化にもつながる事業をつくっていけることが、この仕事の面白さですね。

多様な人材が集まることで生まれる、新たな成長の芽

ーー採用に関してはどのような取り組みをされていますか?

磯谷淳:
2022年に、求人の発信方法を見直しました。働き方の柔軟性を前面に出し、介護や子育てをされている方でも無理なく働けることをアピールしたところ、大きな採用効果が得られました。以前は女性社員が7名だったのですが、現在は23名まで増えており、所長として活躍している方もいます。女性が少ないといわれるタクシー業界において、ありがたい限りです。今後も多様な働き方を支援し、さらに幅広い人材が活躍できる環境を整えていくつもりです。

ーー今後、どのような会社を目指していきたいですか?

磯谷淳:
グループ内で鉄道、バス、タクシー、船と幅広い交通事業を展開しているという強みを活かし、今後は単なるタクシー会社にとどまらず、より総合的な交通体系を提案できる会社を目指していきます。そしてこれからも、地域の交通を支え続ける企業であり続けたいですね。

ーー最後に、就職活動をされている方々へのメッセージをお願いします。

磯谷淳:
弊社の仕事は、公共交通のあり方を考え、地域の皆様の役に立ちたいという方にとって、大変やりがいのある仕事です。私自身、もし今もう一度就職活動をするとしたら、迷わず弊社を選ぶでしょう。それほど魅力のある仕事です。ぜひ、弊社で一緒に働くことをご検討いただければと思います。

編集後記

磯谷氏への取材を通じて、公共交通機関の存在意義を改めて考えさせられた。地域住民、特に高齢者にとって、移動手段の確保は生活の質に直結する重要な問題だ。近江タクシーが展開する事業は、まさに地域の実情に合わせた解決策といえる。こうした社会貢献と経営を両立させる姿勢が、地元で親しまれ続ける理由なのだと感じた。

磯谷淳/1984年に近江鉄道株式会社に入社し、2016年に取締役常務執行役員に就任。その後、営業部長兼グループ営業推進部長、湖国バス株式会社取締役、近江トラベル株式会社取締役を歴任し、2019年に近江タクシー株式会社の代表取締役に就任。