※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

経済産業省が掲げる「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の一つに、「2035年までに、新車販売で電動車100%を実現する」というものがある。2021年の首相演説において「2035年」という具体的な期日が発表され、自動車業界やエネルギー業界に変革が求められたことは、記憶に新しい。

株式会社オーエヌトランスは、ガソリンを始めとする石油製品の輸送を事業の柱とする老舗の運送会社だ。大手石油販売会社であるENEOSと専属運送契約を結び、安定した収益を生み出してきた同社の事業もまた、変革の時期を迎えている。今回は、代表取締役社長を務める杉江竜太氏に、事業についての話をうかがった。

「やりたいことをやらせてもらった恩を返したい」と、29歳で入社を決意

ーー社長のご経歴について教えてください。

杉江竜太:
高校を卒業後、日本大学の芸術学部に入学して歌舞伎について勉強していました。大学卒業後はテレビ局に就職したのですが、現会長である父に「30歳までに進路を決めてほしい」と言われていたこともあり、29歳のときに会社を継ぐことを決意。「30歳までやりたいことをやらせてもらった恩を、これからの30年で返していきたい」という思いで入社しました。

ーーオーエヌトランスに入社してから苦労したことについて聞かせてください。

杉江竜太:
テレビ局の仕事とは業種も業態も違うので、石油製品の知識や経営者としての仕事を一から学ぶ必要がありました。古参の社員の中には「なんだあいつは」と反発した人もいて、そこは苦労だったかもしれません。もちろん助けてくれる人もいて、家庭教師のようにマンツーマンで仕事を教えてくれた社員もいました。その人には今でも感謝しています。

近年では人手不足やドライバー不足、働き方改革など、課題が山積している状態です。その反面、新規の引き合いもかなりあるので、働き方改革やコンプライアンス、労働状況の改善に取り組みながら事業を展開しています。

「守る」を大切に石油輸送事業で安定した収益を確保

ーー他の輸送業者にはない、貴社ならではの強みを教えてください。

杉江竜太:
弊社の事業の柱は、石油製品の輸送です。いわゆるインフラ系の仕事として、24時間365日、毎日輸送を続けています。つねに仕事があり、安定した収益を確保しているということが、他社にはない強みと言えるでしょう。

弊社は、1913年の創業から111年経ち、既存の取引先とのお付き合いも長く、会社として非常に安定しています。コロナショックの際にも、弊社は15〜20パーセントの減収にとどまりました。石油は現代の生活に欠かせないものであり、それを運ぶ弊社の事業も景気に左右されにくいところが、会社を長く続けてこられた理由なのだと思います。

ーー社会のインフラを支える事業者として、どのような考え方や価値観を大切にしていますか。

杉江竜太:
弊社は「守る」ことを大切にしています。これは、弊社のホームページにも掲載している行動基準ですね。具体的になにを守るかというと、まず社会的な責任において、「お客様の荷物を守ってしっかり運ぶ」ことを意識しています。

さらに、社内にあっては社員の生活を守ることが大切ですし、現場においてはルールを遵守して仕事に臨むことが大切です。社員がいるからこそ会社が維持できているので、会社と社員の生活を守ることを意識しています。これらのやるべきことがしっかりとできていれば、お客様からの信頼もおのずと守られるのではないかと考えています。

海上コンテナ輸送で石油輸送の減収を補いたい

ーーカーボンニュートラル実現に向けて石油の流通減少が予測される中で、今後どのような事業を展開していきたいとお考えですか。

杉江竜太:
石油製品の輸送事業と並行して、新規顧客を開拓していきたいと考えています。具体的には、弊社の子会社を中心に取り組んでいる海上コンテナ輸送や一般貨物の仕事を増やしていく方針です。

弊社が所持しているトラクターは、タンクトレーラーやウイングトレーラーなど、さまざまなタイプのトレーラーを付け替えできるようになっています。トレーラータイプのものであればなんでも運べるというのは、運送会社として大きな強みです。お客様とコミュニケーションをとるときにも、この強みをアピールできます。

国内統計上、今後の石油輸送の需要は年2パーセントずつ減っていくと言われています。つまり、10年後には石油輸送の需要が今より20パーセント減っているのです。この減りつつある石油輸送の売上を新規事業の売上に置き換えることができれば、会社として減収することはありません。

事前に減収に備えることで無駄な設備投資を避け、新しい事業が開拓できるのではないか。そうした私たちの価値観を新規のお客様に理解してもらいながら関係を深めていくことが、営業における次のステップです。石油輸送というコアの事業で安定的な収益を上げつつ、新規の取引先を増やしていきたいですね。

編集後記

「人々の生活に直結したインフラを支える仕事は、非常に価値がある」と語る杉江氏。社会全体が変化の波にさらされ、自社の事業が過渡期を迎える中でも、「会社を守る」という社長の思いは揺らいでいない。200年企業を目指して、さらなる活躍に期待だ。

杉江竜太/1977年、愛知県生まれ。日本大学芸術学部卒業。テレビ愛知に入社し、その後、2006年に株式会社オーエヌトランスに入社。2018年に代表取締役に就任。