※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

株式会社アイ・トランスは、物流関連企業として、フォワーディング(※)と通関業務を中心に展開する。その成長の背景には、効率的な物流サービスの提供だけでなく、企業内での組織づくりにも注力してきた点が挙げられる。特に、近年の同社の躍進には、創業者であり代表取締役社長を務める岡本昌樹氏の独自の哲学が大きな影響を与えている。

岡本社長は、社員一人ひとりに対する「愛」を基盤にした組織の構築に重きを置いており、その考え方が会社全体に浸透しているのだ。今回は、社名に込められた意味や、これまでの歩み、そして今後の展望について詳しく話をうかがい、その独自のアプローチと成長戦略に迫った。

(※)フォワーディング:貨物輸送に関わる手配から納品までの業務全体のこと。フォワーディングを行う事業者のことをフォワーダーという。

「石の上にも三年」からスタートした独立への道のりと企業成長の軌跡

ーー会社を立ち上げたきっかけについて、お聞かせいただけますか。

岡本昌樹:
私は岡山県出身だったため、大阪の大学を卒業して、就職先を岡山にするか大阪にするか悩みましたが、大学の先生からの紹介を受け、大阪でフォワーディング業に携わることにしました。その後、中国系の同僚が独立することになり、「日本のパートナー企業が欲しいので、一緒に起業しないか」と誘われたのです。その話に乗り、2003年に仲間と起業しました。

ーー若くして起業され、当時はどんな困難がありましたか?

岡本昌樹:
起業する前に勤めていた会社は、社長が中国系で、文化の違いもあり、厳しさを感じることが多かったのです。今ではありがたい経験だと思えますが、当時はとても辛かったため、自分が社長になったときには、辞めるときに「良い会社だった」と思ってもらえるような会社にしたいと強く思いました。

しかし、独立したのが24歳のときで、社長と名乗っても信じてもらえず、相手にされなかったことも多かったですね。また、部下の扱いにも不慣れだったため、最初は新しい人がなかなか定着しませんでした。それでも、1人が定着すると次々と増えていったので、最初の社員には本当に感謝しています。

設立当時、「3年続く企業は少ない」という話をよく耳にしていて、そこで、私は「3年間、いや、自分は人より劣るから5年間は派手なことはせず、お客様の信頼を獲得することに専念しよう」と決めました。時折、「面白いから使ってやろう」という方が現れ、そのようなお客様には全力で対応し、また、最初に誘ってくれた同僚の会社が、お客様を紹介してくれたおかげで、何とか乗り切ることができました。

愛を持った担当制でワンストップサービスを提供

ーー「アイ・トランス」という社名に込められた思いについて教えていただけますか。

岡本昌樹:
アイ・トランスの「アイ」は「愛」を意味します。私は常に「愛を持って仕事をしよう」と社員に伝えています。社員に対しても、お客様に対しても、愛を持って接することで、私たちもお客様から愛をいただけると考えています。その結果、社員が幸せになり、幸せな社員が多い会社は、良い仕事を提供できる。これが弊社の根本にある理念です。

ーー貴社はどのような社風をお持ちでしょうか。

岡本昌樹:
社員数は約30名で、営業は幹部社員が数人で兼務しており、他の社員はお客様とのやりとりや税関手続きなどの実務をメインに行っています。人間性を重視した採用を心がけており、特に通関士などのポジションでは、実務経験のない人を採用しない企業が多い中、弊社では人間性さえ良ければ、実務は入社後に教える、といった形をとっています。

その結果、人間性が高い人が多く、お客様が社員の対応を評価して多く発注してくださったり、他のお客様を紹介していただいたりすることもあります。

ーー事業の特徴や強みについて、少し具体的にお話しいただけますか?

岡本昌樹:
弊社は、中国、東南アジアの物流サービスのエキスパートです。フォワーディングと通関業務を主としています。お客様からのニーズを受けて、海外工場からの輸送を手配し、国内に到着した際には通関業務を行い、お客様の元まで輸送を手配する、この一連の流れを一貫して行っています。

弊社の特徴は、分業せずお客様ごとの担当制で業務を行う点です。覚えることは多くなりますが、その分お客様の信頼を得やすく、結果的にお仕事を増やしていただけることが多いです。

売上50億円達成を目指し、組織成長と満足度向上に注力

ーーこれからの目標について教えていただけますか?

岡本昌樹:
私が55歳になる2033年に売上50億円を達成したいと考えています。前期は22億円ほどでしたので、おおよそ2倍の目標です。社員数を増やすよりも、個々の社員の満足度を上げていきたいと考えており、40人から50人でこの目標を達成できればと思っています。分業の方が効率的である一方で、弊社の一貫サービスがお客様に喜ばれているので、今後はうまく両立させていく方針です。長期的には100年企業を目指しています。

ーー現在力を入れていることについても教えてください。

岡本昌樹:
現在、注力しているテーマは幹部育成と人事評価です。早い段階で社員を役職につけ、幹部人材として育てていくことで、次の世代にスムーズにバトンタッチできるように、早期から準備を進めていきます。

また、人事評価についても、皆で決めた会社の目標をもとに、6項目を設定しました。全項目でS評価を目指し、上長との面談で達成事項と今後の課題について話し合います。週に1度の面談を実施し、賞与なども含めて全期間を通じて公平な評価ができるようにしています。さらに、部門別会計を導入し、部門ごとの売上や利益を社員に示し、目標と達成度を可視化しています。

ーー最後に、次代を担う若者へのメッセージをいただけますか?

岡本昌樹:
安岡正篤氏の「因果応報論」をもとに稲盛和夫氏が説いた「善きことを思い、善きことを行う」という言葉が、私の心に深く響いています。たとえ運命がある程度決まっていたとしても、善いことを思い行動することで、人生は変えられるのだという言葉です。

自分は恵まれていると感じられるようになれば、人生はもっとハッピーになります。弊社の理念である愛と、この善きことを思い行うという考えを胸に刻んでいれば、良い人生引き寄せ、幸せになることができるでしょう。

編集後記

愛、感謝、人間性といった柔らかな言葉に満ち溢れたインタビューであった。岡本社長自身が、非常に高い倫理観を持って歩んできたことが伝わってくる。個々の社員との対話を大切にしつつ、明確な目標設定で組織づくりを進めるアイ・トランスにとって、50億円の目標も、100年企業の夢も、決して実現不可能なものではない。その頃、同社には、どれほどの愛が満ちていることか。想像するだけで幸せな気分になれる。

岡本昌樹/1978年、岡山県生まれ。大阪の大学在学中にフォワーディング会社に入社。3年間の修業期間を経て、2003年に株式会社アイ・トランスを設立し、代表取締役社長に就任。