※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

2024年の労働基準法の改正に伴い、ドライバー不足が深刻化している運輸業界。大型二種免許の取得者も減少傾向にあり、全国各地でバス路線の廃止が続いている。そうした中、配車アプリを使ったオンデマンド交通や、自動運転バスの実証実験に取り組んでいるのが、神奈川中央交通株式会社だ。

バス事業のほかにも不動産や飲食事業を展開している理由、ドライバー不足解消のための取り組みなどについて、取締役社長の今井雅之氏にうかがった。

会社の未来を考えるきっかけとなった創業100周年の節目

ーーまず入社から社長就任までのご経歴についてお聞かせください。

今井雅之:
大学生のときに就職活動をする際、自分が生まれ育った街に貢献したいと思い、県内の交通を支える弊社に入社を決めました。入社してから10年間関わったのが、バスの運行管理やダイヤ編成です。その後、本社運輸部門、経理部門に異動しました。経理部門で携わったのは、決算業務やグループ会社の財務管理です。

経理部門で経験を積んだ後は、経営企画、経営戦略部門を担当し、会社の経営を任される立場になりました。そうした中、2021年に創業100周年を祝うイベント企画の責任者になったのです。企画の際に、これまでの弊社の歴史を振り返り、今後も守っていきたいこと、見直すべきことを整理しました。

結局、新型コロナウイルスの影響でイベントは中止になってしまいましたが、この振り返りをもとにつくったのが、2030年度を最終年度とする長期ビジョン「Vision 2030 NEXT 神奈中」です。その後、社長に就任し、長期ビジョンの実現に向けて経営の舵取りをすることになりました。

バス事業会社が多角化経営となった経緯

ーー貴社の事業内容について教えてください。

今井雅之:
弊社はバス事業を中心に、不動産事業や生活関連サービス事業など、経営体質の強化を図るため、グループ全体で多角的に事業を展開しています。

不動産事業では、駅周辺や住宅地に土地を保有しているため、バスの待機場や折り返し場であった土地を活用し、商業ビルや賃貸マンションなどを建て、新たな収益源を確保しています。

また、郊外の土地を活用してラーメン店を開業し、飲食事業も始めました。自社で立ち上げたブランド「らーめん花樂」「北海道らーめん麺処うたり」をグループ会社が運営しています。

さらに本社の建て替えに伴い、地域の方々が集まれる宴会場を併設したホテル事業も展開しています。「グランドホテル神奈中 平塚」「グランドホテル神奈中 秦野」は駅からのアクセスも良く、宴会場を食事会場として利用できるため、団体予約にも対応可能です。

ーー連節バス「ツインライナー」を導入したのはどのような背景があったのでしょうか。

今井雅之:
大学のキャンパスへの輸送など、大量輸送ニーズに対応すべく、車両を連結させることで一度に多くのお客様を運ぼうと考えたことが導入につながりました。

当時、国内には連節バスがなかったため、海外から車両を輸入したのですが、すぐに運行できたわけではありません。車両の構造が日本の法律を超えるものだったことから、自治体や警察の協力を得て、特別な認可を受けるため数年かかりました。弊社のこの取り組みが広がり、現在は全国各地で連節バスが運行されています。

ドライバー不足を解消するための新たな施策と労働環境の改善

ーー今後の課題と対応策について教えていただけますか。

今井雅之:
弊社の最大の課題は、ドライバー不足です。わが国全体でも20年前と比べて大型二種免許保持者は約8割まで減少したうえに、その大半が50代以上と高齢化が進んでいます。この状況を放置しておくと、これまで通りのバスの運行が維持できなくなるでしょう。

この課題に対応するため、乗客が少ない路線は各自治体と協議のうえ、小型のワゴン車タイプへの切り替えを検討中です。第二種普通免許でも運転できる車両に変えることで、ドライバー不足を解消しようと考えています。

さらに、AIを活用したオンデマンド交通の実証実験も行っています。ネクスト・モビリティ株式会社さんの配車用アプリ「のるーと」を使い、お客さまが指定した乗降ポイントで乗降できるサービスです。持続可能な地域公共交通の実現に向けて、藤沢市や、地元自治会と協力して行っています。

この実証実験では、AIが計算した最適ルートをもとに随時経路を変え、同じ目的地の方がいれば乗合で利用します。バスのドライバー不足に対応できるよう工夫し、利用客の少ない日中はワゴン車2台に変えているのが特徴です。

実証実験を始めるにあたり、集会所などで説明会を行い、アプリの使い方をレクチャーした結果、今では利用者の方の約9割がスマホで予約されています。また、キャッシュレス化を進めるため、現金の場合は300円かかるところ、交通系ICカードを利用した場合は200円で利用できるようにしています。

なお、実施期間は6ヶ月間の予定でしたが、2026年度末まで運行時間を拡大して継続する予定です。これから他の路線でも拡大し、新たな地域の交通手段として定着させていきたいです。

ーー採用や職場環境の整備についてお聞かせください。

今井雅之:
現在は中途採用のほか、若手の採用にも注力し、高卒の方も募集しています。これまでは21歳以上でないと、大型二種免許を取得できませんでした。しかし、免許取得制度が変わり、19歳以上で普通免許を取得してから1年経過すれば、試験を受けられるようになったのです。

そこで19歳になるまでは営業所の業務を担当してもらい、免許取得後にドライバーとして働いてもらおうと考えています。

ほかに力を入れているのが、働きやすい職場づくりです。具体的にはプライベートの時間を確保できるよう、テレワークや時差出勤など、柔軟な働き方が可能な制度を設けています。さらに、従業員からの要望も集めて改善を図った結果、従業員からは「この会社変わってきたよね」といった声も聞くようになりました。

コツコツとできるところから変えていき、従業員が働きやすい職場にしていく所存です。

日頃からお世話になっている地域の方々に恩返しをしたい

ーー今後の注力テーマについて教えてください。

今井雅之:
地域密着企業として、地域貢献に注力していきたいです。今後は生命保険会社と提携し、弊社グループのスポーツ施設を活用した健康増進イベントなどを計画しています。

また、バスの車体デザインを74年ぶりに変更し、横ラインから縦ラインへ変え、明るいカラーへ刷新しました。新しいデザインのバスが増えていくことで、街の風景を明るくしていきたいです。

さらに、現在取り組んでいるのが、自動運転バスの実証運行です。弊社では数年前から既存路線にて大型自動運転バスの実証実験を進めています。他社でも自動運転バスの実証実験は行っていますが、小型のバスや既存路線とは別の実験用のルートを使っているところがほとんどです。

そのため、視察に来られた国土交通省や警察の方から、「実用化に向けた取り組み方のレベルが他社とは違いますね」といったお言葉をいただいています。

ーー最後に就職・転職を考えている方々へメッセージをお願いします。

今井雅之:
弊社は「多様化するお客さまニーズに応え続けるために、時代の変化に柔軟に対応し、新たなサービスの創造に挑戦し続ける」をビジョンとしています。地域と共に歩み、地域の課題解決に取り組むことで、今後も住みやすい環境づくりに貢献していきます。

私たちの考えに共感していただける方、仕事を通じて地域に貢献したいという方は、ぜひご応募ください。

編集後記

学生の頃に地域に貢献したいと思い入社してから、長年にわたりバス事業に携わってきた今井社長。インタビューの中でも、「地域貢献」というワードが度々出てきて、地域の方々に対する強い思いを感じた。バス業界で運転手の人手不足が深刻化する中、神奈川中央交通株式会社は、AI技術や自動運転技術を活用し、人々の生活を支えていくことだろう。

今井雅之/1968年生まれ。青山学院大学理工学部卒業。1992年神奈川中央交通株式会社に入社。取締役経営企画部長、取締役経営戦略部長、執行役員、常務執行役員、専務執行役員を経て、2023年代表取締役社長に就任。