【ナレーター】
金型を使用しない「金型レス」、切削をしない「切削レス」という、従来の金属加工の常識を覆し、半導体製造から住宅設備まで、幅広い分野の部品製造を手がける「株式会社井口一世」。
独自の金属加工技術を武器に、大手メーカーを始めとした数多くの企業の金型製造にかかるコストの大幅な削減と、完成までの期間短縮を実現させている。
また、技術や技能の属人化を防ぐべく、最新設備の活用や知財システムの開発を積極的に推進しており、ものづくり企業の新たなカタチを追求し続けている。
「なんとかなる」という企業精神のもと、成長を続ける企業をけん引する創業者が語るその秘訣と、思い描く未来像とは。
【ナレーター】
自社の強みについて井口は、常識にとらわれない自由な発想から、新たなものを生み出せることだと言い切る。
【井口】
世界中で弊社にしかできないものがたくさんあるんです。それらが毎日、毎週、毎月、毎年ブラッシュアップされています。1年後には他社が同様のものを開発するかもしれませんが、弊社はそのときにはもっと違うものができているというのが最大の強みです。
そのベースにあるのは、自由な発想です。「今までにこんなつくり方あったの?」「本当にできたの?」ということばかりやっているんですね。それができる会社のカラーは、一番強いところだと思います。
どこにもできないものがたくさんあるという点は、とても評価していただいています。ですから、オンリーワンなのかもしれません。製品がオンリーワンなのでなくて、技術がオンリーワンというのは、どんなものにも転用できるということです。それが非常に強みになっていると思います。
【ナレーター】
井口の原点は、学生時代にある。小学校から大学まで一貫校だった井口は、同級生の両親に経営者が多かったことに影響を受け「世界で一番になれるような会社をつくりたい」と考えていた。そんな中でたどり着いた答えが「ものづくり」の会社だった。
【井口】
面白くて楽しくて、ワクワクするような人生を送りたいじゃないですか。「誰もやれなかったことをやっていけるような、そんな会社をつくっていきたいな」と思っていたんです。
「日本で世界一になれる企業というのは何だろう」と考えてみたら、多分「ものづくり」が世界一になれるベースを持っているのではないかと。その中でも、金型を使わずにものをつくるという製造方法は今までどこにもなかったので、自ずと世界一になれるかなと思いました。
つくったもの、できたものが世界一であると同時に、社員も世界一、全部を世界一で埋め尽くした会社をつくろうと思っていました。
【ナレーター】
そして、2001年に株式会社井口一世を設立。あえて自身の氏名を社名として掲げた真意に迫った。
【井口】
第一印象が強いことが大事だと思っています。たとえば、「なんとか精密」や「なんとか製作所」は、一般的なので覚えにくい。そこで、私が親からもらった名前がちょっと変わっていて覚えやすいので、井口一世という名前をそのまま会社名にしようと思いました。
商品には自信があるので、「何かあったら、文句があるなら言ってこい」「逃げも隠れもしないから名前を出すのだ」という思いがまず第一にあります。もう一つは、井口一世という漢字は縦と横の線だけで成り立っているので、「曲がったことが嫌い」という思いも兼ねて付けました。
【ナレーター】
金型を使わずに、金属を加工する。これまでにない技術ということもあり、正攻法の営業ではすぐには信頼を得られず門前払いになるだろう。そう予測した井口が取った策とは。
【井口】
サンプルを無料で配布しようと思いました。BtoBの事業ですから、ものをつくるときには試作がついて回るのですが、試作品を全部無料でお客様に提供しました。
最初は眉唾物のような扱いで、お客様が「そんなのできるわけないじゃない」と思われたとしても、具体的に製品を提供することによって評価していただきました。その評価が水平展開されて、いろいろなお客様に伝わり、なんとか苦境を乗り越えられてきたのです。
弊社の社員は、誰も「世界一すごい技術で製品をつくっている」とは思っていません。なぜなら、それが弊社の標準だからです。
まだまだもっと先があるし、今まで誰も考えなかったつくり方とか、今までは「絶対こんなものはできるわけがない」と思っていた設計の皆さんに「こんなこともできますよ」と言えるのは素晴らしいことなので、まだまだこれから行けるところまで行きたいと思っています。
【ナレーター】
創業時の経験を経て生まれたのが、「なんとかなる」という考え方だ。これには、主に3つの要素があるという。
【井口】
一つは膨大な知識を持っていること。もう一つは、知恵を持っていること。最後に、人徳があることです。人徳を積むと「あいつが困っているなら助けてやろう」ということが結構あります。格好良く言うと、「清く、正しく、美しく」という生き方です。
加えて、人を裏切らない、約束を守ることが大事だと思っています。普通は、約束を守ることで自分が不利益になるなら、みんな逃げてしまいますよね。私はそれはやらないようにしようと思っています。約束することで自分は少し損をするけれども、その通りちゃんとやることが一番大事なことだ、と思って守るよう心がけています。