【ナレーター】
独自の「金型レス」「切削レス」の技術で、低コスト、高精度の加工による競合他社との差別化に成功し、順調に業績を伸ばし続けている井口一世。挑戦を成功させるために井口が意識していることとは。
【井口】
自分の発言や行動が周りに与える影響力を考えながら行動し、話すことにも気を付けることです。もう一つは、「決してできないことはない」という思いです。そういう信念を持っていれば、絶対に何でもできると思います。
「なんでもやってみる」という考えを大切にしているので、うちの会社には「失敗」という言葉はありません。「うまくいかない方法の発見」なんです。
特に製造業はうまくいくための標準があり、「その通りにやりましょう」とよく言われます。
それも正しいのですが、「うまくいかなかったから、こういうふうに修正しよう」「失敗のおかげでこんな経験が積めました」という意識で広く学ぶことが、将来起こり得るリスクに立ち向かえる唯一の方法だと思っています。
そのためには、自分に力をつけること。知識を持ち、知恵を使えるようになれば、リスクを避けるのではなくて、リスクを払いのけられるようになるはずです。その実力を持つことが一番のリスクマネジメントだと思っています。
【ナレーター】
組織づくりにおいて、「恒産なくして恒心なし」がベースにあると語る井口。その真意と、人材教育に対する考えに迫った。
【井口】
適切なお給料をもらえるからこそ、きちんとした仕事ができると考えています。「今月の家賃どうしよう」「カードの支払いどうしよう」などの心配をしながらでは、きちんとした仕事はできません。ある程度の所得を得ることが、仕事のベースにあると思っています。
採用で大事にしていることは、個人の客観的な能力を重視することです。採用試験のときのベースはIQが110以上で、EQが100以上、その他にもエゴグラムやいろいろな概念化能力などを測って採用をしています。
その結果、一番適した人材が集まってきて、自然に楽しく遊べるような社風がつくられる。それが理想の組織づくりだと思っています。
教育は基本的にしない方がいいと思っています。教えてしまうと、教わった一つのつくり方しかしなくなってしまうからです。自分でゼロから勉強してつくっていくと、10人中7〜8人は違うつくり方をするはずです。
それは製造業、ものづくりでもそうで、つくり方を習ってしまうとそのつくり方しかできなくなります。世の中にはもっと新しいつくり方がありますし、全く新しいつくり方をしようと思ったら、教育を受けるのではなく、自分で勉強する必要があります。
その素質を持った人、勉強の仕方を知っている人がベストだと思うので、基本的には教えないようにしています。
【ナレーター】
今後、つくったものではなく、つくり方を販売する「ものづくりのシンクタンク」を目指すと語る井口。見据える展望とは。
【井口】
つくり方のノウハウを管理するシステム、それ自体をパッケージにした「箱」を外販しようとしています。ものをつくって売ると、ものを運ぶ必要がありますし、輸送などのロジスティックコストがかかり、二酸化炭素の排出量も増えます。そのため、製品を組み立てて使うところの近くで作っていただくのが、よりベストだと思っています。
これは事業承継、技能伝承の面でも役立ちます。今まで日本の中小企業では、「技術はあるけれども後継がいない」となれば、M&Aしか方法がありませんでした。しかし、技術や技能をデジタル化したり、AIを活用したりして使いやすいようにすれば、次の世代や次の会社に自由に転用できるようになります。
そのシステムを今、弊社でつくっているのです。それを次のビジネスモデルとして売り出そうとしているところです。
【ナレーター】
ともに働く仲間に求める要素について、井口は次のように語る。
【井口】
面白くて明るい人、それに尽きます。自由にフレキシブルな発想ができて、いつも前向きにものが考えられる人がいいですね。それは後天的にも獲得できる要素なので、そういう方と一緒に同じ夢を共有できたらと思います。
いろいろな友達をつくって、いろいろな文化と触れ合って交流をすると、自由な発想もできるようになります。また、一緒に触れ合うということは、みんなに好かれる要素がないと遊んでもらえませんから、そこで淘汰されるのか、成長できるのかは自分次第です。それが大事だと思います。
■ 視聴者へのメッセージ
【井口】
弊社は世界一を目指す会社です。そのために、いろいろなことにチャレンジをしています。そのプロセスとして、弊社には「失敗」という言葉はありません。すべて「うまくいかない方法の発見」だと捉えています。
みんなで一緒にたくさんの失敗をして、その中から世界一のものを探し出す。たくさんの失敗をして人生を積み重ねるのと同じように、技術を積み重ねて、世界のものづくりの原点を変えていきたいと思っています。どんなことでも「なんとかなる」という思いで、みんなで頑張っていけたらと思います。