株式会社井口一世 世界初、金型を使用しない「金型レス」、切削をしない「切削レス」という金属加工技術を確立したメーカー 株式会社井口一世 代表取締役 井口 一世  (2025年1月取材)

インタビュー内容

―新たな発想は“余裕”から生まれる―

【ナレーター】

採用について自分より優秀な人材であることと、才能を探し出すことが大事だと語る井口。企業の考え方にもある「なんとかなる」という要素を見出す独自の採用方法とは。

【井口】

なんとかなるためには、いくつかの要素があると思っています。その要素を兼ね備えている人を採用しようとしています。なんとかなるための要素はいくつかあって、1つ目は膨大な知識を持っていることです。要はたくさん勉強できる、自分で勉強できる子ですね。2つ目はそれが応用できる、知恵を使える人。3つ目は人徳があるといいますか、「あいつのためだ、何かやってやろう」と周りが思うような、何となく徳を持っている人。言葉を変えれば運がいいというのかもしれませんが、そういう大きく分けて3つの要素を持っている人を探そうと思っています。

採用するときに試験をやります。4次試験までやりますが、最初にトランプを配って、ハート、スペード、ダイヤ、クローバーがありますが、それを4つに分けるわけです。切っているのでぐちゃぐちゃに出てくるのです。出現順はぐちゃぐちゃですが、それの時間を計ります。それで30秒以内という規格が1つあります。そのほかに、IQとかEQとか、アセスメントとか、場合によってはエゴグラムとか、色々ありますが、そういうことで測定というか見まして、最後に私が面接をして笑顔のいい子ということに尽きるんですけどね。

【ナレーター】

新たな発想と文化の醸成に繋がるという評価制度と福利厚生について、井口は次のように語る。

【井口】

「恒産なくして恒心なし」という言葉があって、それを具現化しようとやっています。人間は日々成長します。スキルも日々身についてくる。そういう意味では、普通の企業が1年から1年の間の評価をして年に1回の昇給というのはあり得ないと思っているんです。

リアルタイムに、お給料は月に1回ですから、年間12回しかないんですけども、12回昇給するチャンスがあってもいいと思っているんですね。当社は絶えず評価をして、例えば新卒ですとだいたい年間で3回くらいの昇給があります。初年度、だいたい年収で350~400万円くらいになるようにしています。3年くらい経つと年収で500万円くらい。5年経ったら年収で700万円くらいの収入にしたいなと思っています。そうしますと、生活で今月のカード決済とか家賃をどうしようかという呪縛から解放されるんですよね。そのエネルギーが、遊びに向かうのもいいかもしれないし、仕事に向かうのもいいかもしれませんけど、余裕ができるので、そうすると色々な新しい発想もできるようになるのです。

ですから、そういう中で当社の会社の方針としてあるのが、優秀な人材と優秀な設備。新しい文化をつくりましょうということです。文化というのは余裕がないとできないので、そういうところで余裕を生むということをやっています。当社は女性が多いですから、それに対応した制度というのはつくらなければならないと思っています。当然産休・育休もあります。それ以外の娯楽という意味では、宴会を2ヶ月に1回くらい行います。何かのミッションが成功した時の打ち上げで、高い弁当を買ってきて昼食を食べるなど、そういうことを頻繁にしています。

―歴史を変える会社になるために―

【ナレーター】

会社井口一世の未来像について、経営者井口一世はどのように捉えているのか。

【井口】

おそらく今、製造業というのは、ドイツ発祥の“インダストリー4.0”とか、アメリカのIoTとか、AIとか色々ありますけれど、恐らくそういうところはこれから様変わりしてくると思います。その中でモノをつくるということは、基本的には全て機械やAIに置き換わってしまう可能性があります。そうすると人間の役割は何かと考えると、人間は新しいモノの価値を創造しなければならないと思っています。創造活動をする集団。それを2020年くらいまでには目指したい。

特にうちの会社には、「仕事にくる」という概念ではなく、会社に「遊びにくる」という概念です。その中で突拍子のないことを皆考えて、世の中を変えていくんだ、歴史を変えていくんだということができるような、そういう会社にしたいと思っています。ですから、会社にくることが楽しくて仕方ない。決してきつくてやるということではないと思っています。それができたら最高かなと思います。当社の工場を先ほどご覧いただきましたが、女性が一生懸命働いていて、機械のボタンを押してモノをつくる。当然そこにはノウハウや知見がありますが、基本的にはあのような時代がもっと進んできてしまうと思っています。

例えば機械が壊れたら修理するのは人間かもしれませんが、もっと新しいモノを色々と組み合わせることもあるし、全く今までなかったつくり方をすることもあります。当社でモノをつくっているつくり方というのは、世界中どこでもできないつくり方をしてつくっている。それはやはり、機械、コンピューターがやることではなくて、人間が考えてやっていることだと思っています。それが知的財産なのか、ノウハウなのかわかりませんが、そういう意味では工場がどんどんシンクタンク化していきます。

モノをつくるときの条件というのはビッグデータでありますが、そういうのがコンピューターの領域。人間の領域は違うところと、分けてやっていけるのかなと思っています。それを(今、当社の一部が)具現化しているのだと思います。

当社には失敗という概念は、実はありません。苦労という概念もないです。失敗というのではなく、「うまくいかない方法の発見」です。それは知見として自分にずっと溜まっていく、自分の財産です。ですから、別に失敗しても取り返せるわけですから、それは全然問題とせずに「よく失敗したな。あと頑張って直せよ」といった、そんな概念を当社の全員が持っています。

―競争相手を存在させない経営戦略とは―

【ナレーター】

現在のビジネスモデルにおいて、競争相手はいないと語る井口。そうなった背景として、既存の市場で勝負するのではなく、新たな市場をつくり出したからだと言う。

【井口】

競争して他社より安くモノをつくる。そうしたら当然中国などには負けてしまう話ではないですか。そこで競争しても日本人の給料が月2万円になるわけがないし、無理なんですよね。それだったら違う土俵でやらなくてはならない。新しい土俵をどこにつくるか、どういう土俵をつくるかというところに知恵を使わなくてはならない。それが今の当社のビジネスモデルである、金型レスとか、切削レスとか色々ありますが、そういう、どちらかというと新しいマーケットを自分でつくってきたということが当社の特徴だと思います。

会社とは、どんな技術があるよりも先に営業ありきと言われるくらいで、売れるところを最初に開発しなければいけない。お客様がどこもできなくて困った、こんなことができればいいなということをやっている。だから、競争相手はないと思っています。あえていえば自分自身なのかもしれませんね。

製造業は3Kのイメージがすごく強いですよね。みんな誰も憧れない商売なのです。そうではなくて、「すごい。こんなものがあった」とか、「こんな珍しい会社があった」というのをやるというのはおかしいけれども、やはり製造業、当社「井口一世」と言ってくれたらもっとベストですけれど、みんな憧れて「あそこ行きたいよね」、「あそこで働きたいよね」、「あそこ格好いいよね」。もっといいのは、「あそこで働いている人たち(いいよね)」、例えば当社の社員が友達と集まったら、「お前いいよな、うらやましいよな」と言ってもらえるような会社になりたい。それは給料もそうですし、環境もそうですし、見た目もこういうハイカラなのがいいと思いますよね。

―視聴者へのメッセージ―

【井口】

今、当社は経済産業省から、「地域中核企業創出・支援事業」というものの委託を受けています。それはどういうことかといいますと、当社の井口一世というブランドを持って世界中から仕事を集めてきて、日本の製造業に仕事をばらまきなさいと。当社が仕事をばらまいて、やっていただいたということの結果として、地域経済なり日本の経済が底上げされるようなそんなイメージを、国は持っています。そのために当社が一役を買えたらいいなと思っています。それはどういうことかというと、日本の中小企業で非常に世界的な技術を持っている、尖がった技術という表現が正しいのかもしれませんが、そういう企業を集めてそれを組み合わせる。当社でいえば、ソリューションを世界中の色々なユーザーに提供しようという、要はジャパンブランドを構築しようということを、今一生懸命やらせていただいております。それが先ほどお話した「地域中核企業創出・支援事業」であります。

当社は製造業であります。今までの製造業といいますと、汗を流して場合によったら手に切り傷をつくってモノをつくっていた、あまり明るくない職場をイメージされていると思いますが、これからのモノづくり、当社もそうですが、人間ができることというのはモノをつくることではないと思っています。モノをつくるのは機械やコンピューターがつくります。そのつくり方やプロセスを考えるのが、人間の本来のこれからの仕事だと思います。そういう意味では、モノづくりとか製造業というのは、これから一番未来が拓ける業種だと思っています。その中でみんなの力を合わせて世界一を目指していけたらと思っています。一緒に遊べるような楽しい会社をつくっていけたらと思っています。そういう意味では当社の目標というのは、会社に来る時にサングラスをしていこうという目標をもっています。それはどういうことかというと、将来が眩しいからであります。サングラスをかけて会社にみんなで行けるようにしたいと思っています。頑張りましょう。

【ナレーター】
金型を使用しない「金型レス」、切削をしない「切削レス」という、従来の金属加工の常識を覆し、半導体製造から住宅設備まで、幅広い分野の部品製造を手がける「株式会社井口一世」。

独自の金属加工技術を武器に、大手メーカーを始めとした数多くの企業の金型製造にかかるコストの大幅な削減と、完成までの期間短縮を実現させている。

また、技術や技能の属人化を防ぐべく、最新設備の活用や知財システムの開発を積極的に推進しており、ものづくり企業の新たなカタチを追求し続けている。

「なんとかなる」という企業精神のもと、成長を続ける企業をけん引する創業者が語るその秘訣と、思い描く未来像とは。

【ナレーター】
自社の強みについて井口は、常識にとらわれない自由な発想から、新たなものを生み出せることだと言い切る。

【井口】
世界中で弊社にしかできないものがたくさんあるんです。それらが毎日、毎週、毎月、毎年ブラッシュアップされています。1年後には他社が同様のものを開発するかもしれませんが、弊社はそのときにはもっと違うものができているというのが最大の強みです。

そのベースにあるのは、自由な発想です。「今までにこんなつくり方あったの?」「本当にできたの?」ということばかりやっているんですね。それができる会社のカラーは、一番強いところだと思います。

どこにもできないものがたくさんあるという点は、とても評価していただいています。ですから、オンリーワンなのかもしれません。製品がオンリーワンなのでなくて、技術がオンリーワンというのは、どんなものにも転用できるということです。それが非常に強みになっていると思います。

【ナレーター】
井口の原点は、学生時代にある。小学校から大学まで一貫校だった井口は、同級生の両親に経営者が多かったことに影響を受け「世界で一番になれるような会社をつくりたい」と考えていた。そんな中でたどり着いた答えが「ものづくり」の会社だった。

【井口】
面白くて楽しくて、ワクワクするような人生を送りたいじゃないですか。「誰もやれなかったことをやっていけるような、そんな会社をつくっていきたいな」と思っていたんです。

「日本で世界一になれる企業というのは何だろう」と考えてみたら、多分「ものづくり」が世界一になれるベースを持っているのではないかと。その中でも、金型を使わずにものをつくるという製造方法は今までどこにもなかったので、自ずと世界一になれるかなと思いました。

つくったもの、できたものが世界一であると同時に、社員も世界一、全部を世界一で埋め尽くした会社をつくろうと思っていました。

【ナレーター】
そして、2001年に株式会社井口一世を設立。あえて自身の氏名を社名として掲げた真意に迫った。

【井口】
第一印象が強いことが大事だと思っています。たとえば、「なんとか精密」や「なんとか製作所」は、一般的なので覚えにくい。そこで、私が親からもらった名前がちょっと変わっていて覚えやすいので、井口一世という名前をそのまま会社名にしようと思いました。

商品には自信があるので、「何かあったら、文句があるなら言ってこい」「逃げも隠れもしないから名前を出すのだ」という思いがまず第一にあります。もう一つは、井口一世という漢字は縦と横の線だけで成り立っているので、「曲がったことが嫌い」という思いも兼ねて付けました。

【ナレーター】
金型を使わずに、金属を加工する。これまでにない技術ということもあり、正攻法の営業ではすぐには信頼を得られず門前払いになるだろう。そう予測した井口が取った策とは。

【井口】
サンプルを無料で配布しようと思いました。BtoBの事業ですから、ものをつくるときには試作がついて回るのですが、試作品を全部無料でお客様に提供しました。

最初は眉唾物のような扱いで、お客様が「そんなのできるわけないじゃない」と思われたとしても、具体的に製品を提供することによって評価していただきました。その評価が水平展開されて、いろいろなお客様に伝わり、なんとか苦境を乗り越えられてきたのです。

弊社の社員は、誰も「世界一すごい技術で製品をつくっている」とは思っていません。なぜなら、それが弊社の標準だからです。

まだまだもっと先があるし、今まで誰も考えなかったつくり方とか、今までは「絶対こんなものはできるわけがない」と思っていた設計の皆さんに「こんなこともできますよ」と言えるのは素晴らしいことなので、まだまだこれから行けるところまで行きたいと思っています。

【ナレーター】
創業時の経験を経て生まれたのが、「なんとかなる」という考え方だ。これには、主に3つの要素があるという。

【井口】
一つは膨大な知識を持っていること。もう一つは、知恵を持っていること。最後に、人徳があることです。人徳を積むと「あいつが困っているなら助けてやろう」ということが結構あります。格好良く言うと、「清く、正しく、美しく」という生き方です。

加えて、人を裏切らない、約束を守ることが大事だと思っています。普通は、約束を守ることで自分が不利益になるなら、みんな逃げてしまいますよね。私はそれはやらないようにしようと思っています。約束することで自分は少し損をするけれども、その通りちゃんとやることが一番大事なことだ、と思って守るよう心がけています。

1 2

経営者プロフィール

氏名 井口 一世
役職 代表取締役
生年月日 1955年9月8日
出身地 東京都
座右の銘 なんとかなる
略歴
1978年立教大学卒業、2001年㈱井口一世設立代表取締役に就任、2009年農工大学修士課程修了、2015年㈱なんとかなる設立代表取締役に就任

会社概要

社名 株式会社井口一世
本社所在地 東京都千代田区飯田橋4-10-1
設立 2001
業種分類 金属製品
代表者名 井口 一世
WEBサイト http://www.iguchi.ne.jp/
事業概要 精密板金加工・ソフトウェア開発販売
社長動画一覧に戻る
会員限定
あなたのビジネスに活かせる特典を無料でご利用いただけます
社長名鑑では、会員登録していただいた方のみにご利用いただける特典を多数ご用意しています。
会員特典の詳細を見る