【ナレーター】
進化を続けるテクノロジー。その進化に伴い、様々な分野においてより繊細かつ多彩な表現ができるようになり、クリエイティブの領域も拡大しつつある。
そんな中、液晶ペンタブレットやデジタルペン、デジタルインクのトップメーカーとして業界をリードする企業がある。株式会社ワコムだ。
1983年の創業以来、培ってきた高い技術力を生かし、自社ブランドのペンタブレット製品を販売する他、タブレットやスマートフォンのメーカーにデジタルペンの部品などをOEM供給するテクノロジーソリューション事業にも注力し、成長を続けている。
ワコムを牽引する代表取締役社長兼CEOの井出信孝氏は、進化を続けるデジタルペンの市場において、仲間と共にワクワクするような製品を開発し、社会を活性化していく存在になっていきたいと語る。
業界の枠組みを超えた挑戦に込めた想いと、経営者の軌跡に迫る。
【ナレーター】
大学時代、希望に満ち溢れたキャンパスライフを過ごしていたと語る井出。その中でも今でも鮮明に覚えているという衝撃的なエピソードとは。
【井出】
大学が国際的な環境で、キャンパスに入ったらもう、英語が飛び交っているわけですよ。帰国子女とか海外の人達が「Hi!」みたいな感じで。「なんじゃこりゃ」みたいな衝撃を受けました。
ただ、何でもできるんじゃないかということと、今まで自分がやってきた努力はすごくちっぽけだなという両方の感覚もありました。それを経験したのが19歳の春で、「俺、何をやろうか?」と思ったのが最初でしたね。
【ナレーター】
大学ではサークル活動に没頭。世界に目を向けるきっかけになったアメリカでの演奏旅行のエピソードに迫った。
【井出】
僕はその時、指揮者の横で弾く、コンサートマスターという役割を担当していましたが「かなわないな」っていう感覚がありました。
ハーバードに行った時に、ハーバードのオーケストラと交流してその人たちの演奏とか聞いたんですよ。めちゃくちゃ上手いんですね。
僕と同じ役割をやっている人と話すと「自分の専攻は、脳生理学でジュリアード音楽院にも籍を置いている」みたいな天才ばかりなんですよ。
知らないものに向き合いたい、世界は広いなという感覚はすごくありました。そういうところで仕事をしたいなという思いは、大学でむくむくと出てきたかもしれないです。
【ナレーター】
その後、大学院へ進み、当時の行政学研究科を専攻。勉強をしていく中で、学んだことを将来どう活かせば良いのか、疑問を抱く日々を過ごしていたという。しかし、ある講義を受け、その疑問は一気に解消へと向かった。
【井出】
「世界平和とか意味が無いんだ」と言うようなすごい教授がいて(笑)、すごく面白い授業があったんですよ。
その授業を受けて、世界平和、国際貢献と言っているけれど、人間が仕事をしてお金を儲けてというサイクルがある限り、そこの仕組みに乗っからない仕組みをつくり出していくのは実はすごく難しいことなんじゃないかと思って。
自分はズブズブのビジネスをまずはやらないと、国際平和とか世界にどう貢献していったらいいのかなんて語れないな、という思いが強くなっていきましたね。
【ナレーター】
ビジネスの道を志した井出は、大学で専攻した内容とは遠く、真逆の世界、かつ東京以外の場所という条件で、シャープ株式会社へ入社。当時の上司からは多くの学びを得たという。
【井出】
すごく色々な勉強をさせてもらいました。
僕が何かをしでかしたときに、他の人があれこれ咎めてくるのですが、その時も「何言っとんじゃ!井出は一生懸命やっとるんじゃ!」みたいに言ってくれて。どの部屋のどの場所で言ってくれたかとか、今でもそれは覚えています。
とても感動して、ああ、そうことをやらなきゃいけない瞬間があるんだと。その上司には感謝していますし、今でも気にかけてもらっています。
【ナレーター】
その後、29歳でアメリカ、シリコンバレーでのマーケティング責任者に抜擢。期待に胸を膨らませ渡米した井出だったが、待ち構えていたのは想像を超えた試練の連続だった。
【井出】
もう最初は「俺は夢掴んだ!」みたいな感じで浮かれていました。
1回目のアポイントはシャープの看板を背負って、「何か新しいビジネスを探しに来たんだ」「どういうことができる」と小1時間ぐらい話をして盛り上がり、お互い連絡先を交換しました。
2回目のアポイント、もう少し詳しい話をと再度アポを取るのですが、何か様子がおかしくなってくる。話は盛り上がらないし、思ったように上手くいかないんですよね。
3回目になると、会ってくれないのです。価値がないと判断されるわけですね。なぜか?すぐ分かります。僕にはもう、言うことがないんですね。
そこで禁断のワード。「持ち帰って本社と話をしてきます」。終わりですよね。それの連続で、絶望でしたね。そこからは、悩みとぶつかりの連続でした。
直感として、自分はこのままでは無価値だから、そこから価値をつくらなければいけないのだと。A3の用紙に事業計画書を書いて、営業もやらせてもらい、本当に外に出て、時には怒られることもありながら、あちこちに行きましたね。
経営者プロフィール
氏名 | 井出 信孝 |
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役職 | 代表取締役社長兼CEO |
生年月日 | 1970年5月19日 |
出身地 | 東京都 |
座右の銘 | 「65点で全力疾走」(本人オリジナル) |
愛読書 | 三島由紀夫 「豊饒の海」 |
尊敬する人物 | 板垣祟志(いたがきたかし)氏、岩手県花巻市るんびいに美術館 アートディレクター |
著書 | なし |
2013 年8月 当社入社
コンポーネント事業本部技術マーケティング部ジェネラルマネージャー
2015 年4月 テクノロジー ソリューション ビジネスユニット バイスプレジデント
2015 年7月 テクノロジー ソリューション ビジネスユニット シニア・バイスプレジデント
2017 年4月 エグゼクティブ・バイスプレジデント
テクノロジーソリューションビジネスユニット担当兼プラットフォーム&アプリケーションビジネスユニット担当
2017 年6月 取締役
2018 年4月 代表取締役社長 兼CEO(現任)
会社概要
社名 | 株式会社ワコム |
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本社所在地 | 埼玉県加須市豊野台2-510-1 |
設立 | 1983 |
業種分類 | 機械器具製造業 |
代表者名 |
井出 信孝
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従業員数 | 1012 名(連結)(2020年3月31日現在) |
WEBサイト | https://www.wacom.com/ja-jp |
事業概要 | ペンタブレット、デジタルペン関係製品・部品およびソフトウェア等の製造・販売 |