※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

2019年8月に設立された「株式会社エニキャリ」は、コロナ禍の需要によるデリバリーサイト構築サービスで一躍注目を浴びた。「ラストマイル物流DX」を主力とする企業として、代表取締役の小嵜秀信氏は何を思い、次のステージへ向かうのか。設立の背景と今後の展望をうかがった。

会社設立のきっかけ――中国における急激なキャッシュレス社会化

ーー貴社を設立された経緯をお聞かせいただけますか。

小嵜秀信:
私はもともと、中国・上海でスーパー経営などのリテールビジネスをしていました。「アリババ」の登場でECが活発化し、スマートフォンの普及によって実店舗のキャッシュレス化が進む流れを体験したのです。

スマホは電話から情報端末へ、さらに財布へと進化を遂げました。「電子マネー決済が一番お得なところで買う」など、「財布からサービスを選ぶ」という逆流も始まりました。リアルとネットの垣根がなくなっていき、顧客の購買行動も変わっていったのです。

ーー中国は日本よりもキャッシュレス化が早かったのですね。

小嵜秀信:
流通も激変しました。「宅配」や「お店に取りに行く」という買い物方法に加えて、「お店から即時配送」という選択肢が生まれたのです。フードデリバリーから始まり、スーパー、ドラッグストア、コンビニなどの商品がすぐに手元へ届く時代に変わり、その流れは一般のEC商品にまで普及しました。

エンドユーザーに商品が届く"物流最後の接点"を「ラストマイル」と呼びます。この新たなインフラを急速に作り上げたのは、大手の宅配会社ではなくベンチャー企業たちです。私はアリババグループのニューリテール(新しい小売形態、日本で言えばOMO)に感銘を受け、日本よりニューリテールの普及スピードが4〜5年ほど進んでいることにも気付きました。

中国の会社を売却後、東海大学総合社会科学研究所客員教授(現任)としてニューリテールの研究をしていた際に、「日本でも同じような時代が訪れるのであれば、今から準備を始めよう」と考え、賛同してくれた仲間たちと会社を作ることにしました。

「エニキャリ」の使命×コロナ禍で定着した企業イメージ

ーー日本でサービスを展開するにあたって障害などはあったのでしょうか。

小嵜秀信:
大前提として、ラストマイルにあたるインフラを作ることが弊社の最終的な使命です。徐々に段階を踏んでいく予定でしたが、創業直後に新型コロナ感染症が流行したため、フードデリバリーに注力せざるを得なくなりました。

現在はデリバリー案件よりEC宅配の方が圧倒的に売上が多いものの、「エニキャリ=フードデリバリー」というイメージが根強く残っています。その点は障害の一つであり、「物流DXのシステムを作っている会社」として認知度を上げることが直近の課題です。

物流業界における「自転車の可能性」と「位置情報の活用」

ーー貴社の強みやサービスの優位性はどのようにお考えですか。

小嵜秀信:
物流業界は「排ガスを垂れ流す業界」という問題があり、都市型の物流はトラックのみに頼らない変化が可能だと考えています。海外の都市区と同じように、弊社では小さい荷物の配送には自転車を活用しています。この流れを日本でも当たり前にしていきたいですね。

自転車には「誰もが配達員になれる」という良さもあります。弊社にはアルバイトのスタッフが数百人いますが、7割ぐらいが学生さんです。

今まで学生や主婦の方は戦力外だと考えられていましたが、実際は自分が住む街をよく知る頼もしい存在です。そうした方々にまでドライバースタッフの幅を広げることで、サービスの満足度やクオリティの高さも追求していけるでしょう。

ーーシステムの特徴や今後の開発計画についてもお聞かせください。

小嵜秀信:
「位置情報を活用したデータのマッチング力」は弊社の大きな特徴です。配達員や荷物の位置を可視化することで、さまざまな問題の解決が迅速化しました。

GPSと絡んだトランザクションが常に動いているため、サーバー負荷は膨大なものの遅滞なく捌けています。

代表的な事例として「日本マクドナルド社のマックデリバリー」の基幹システムは、弊社がシステムおよび配達員アプリを構築しております。

配送管理に関しての技術はトップクラスだと自負していますが、AIなどの技術開発によりさらなる効率化を目指しています。

若者に伝えたい「フィジカルインターネット」の重要性

ーー若い世代に向けてメッセージをいただければと思います。

小嵜秀信:
私の視点では、新しいテクノロジーを使って最適なルートで荷物を運んでいる先進的企業は「Amazon(アメリカ)」と「アリババ(中国)」の2社になります。日本の物流業界はまだまだ紙ベースでDXが進んでいません。2024年問題をきっかけに日本政府も動き始めてはいますが、国内企業が対策しなければ日本の物流はいずれ一部が止まってしまうでしょう。

将来的に必要となるのは、「フィジカルインターネット」と呼ばれる物流のインフラです。災害時においても、ITを使えば瞬時に物資手配システムを構築できるようになります。

弊社が作っている物流プラットフォームは全業種につながるものであり、若者の方々にも「インフラを作る」という経験の重要性や将来性に注目していただければと思います。

編集後記

通販の荷物を届ける途中でデリバリーもこなす、そんな世界観がいつか日本でも実現するだろう。小嵜社長が完成形を目指す物流DXシステムは、ユーザーの想像をはるかに超える未来だと感じた。
「エニキャリ=フードデリバリー」というイメージを塗り替えながら、業界の高みを目指す革命家に今後も注目していきたい。

小嵜秀信(こさき・ひでのぶ)/1971年愛知県生まれ。立命館大学文学部東洋史学科を卒業。Eコマース黎明期から、大手小売企業ジャパン(現スギ薬局)の子会社代表としてEコマース事業に携わる。その後、Eコマースシステム会社経営や中国上海でのリテール事業を経験。東海大学総合社会科学研究所客員教授として、中国Eコマースやニューリテール研究などを行う。2019年、物流DX企業エニキャリ代表取締役に就任。