※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

コロナ禍以降の物流量の増加により、コンテナ船の運賃が高騰し、国内の大手海運3社は大幅増収となった。その一方で、世界的なインフレ進行による景気後退リスクもあり、海運業界は先行きが不透明な状況が続いている。

そんな中、中国航路を主として国際一貫輸送サービスを提供しているのが、新世紀海運株式会社だ。

社員教育に力を入れ、正確かつ迅速な物流サービスを提供し続ける、創業者である顧俊(こしゅん)氏の思いを聞いた。

物流会社を立ち上げた経緯

ーー顧社長は上海のご出身ですが、日本にはどのタイミングでいらっしゃったのですか。

顧俊:
中国で経理の専門学校を卒業した後、1998年に来日しました。それから1年半ほど日本語学校で日本語を学び、埼玉県の大学に入学しました。

中国の専門学校へ通っていた頃に、上海の海運会社で1年間研修を受けており、ある程度貿易に関する知識があったため、それを活かして大学卒業後は日本の海運事業会社に就職しました。

ーー起業するに至った経緯をお聞かせいただけますか。

顧俊:
北京出身の会社の後輩に「一緒に会社を立ち上げませんか」と誘われたのがきっかけです。しかし、誘いを受けた当初は事業が失敗することへの不安もあり、独立をためらっていました。

それから1年間説得され続けてようやく踏ん切りがつき、2007年に会社を設立しました。

ーー前職の経験が活かされた場面はありましたか。

顧俊:
前職では荷物の輸送に必要な資料の作成や、運輸会社への依頼など、あらゆる業務を任されていました。そのため、貿易に関わるすべての業務に携わっていたおかげで、独立してからとても役に立ちましたね。

当時は過酷な労働環境で働いていたのですが、多くの経験を積んだことで自分の糧になったと感じています。

ーー起業当初はどのような状況だったのですか。

顧俊:
4、5人が座るのがやっとの狭い事務所を借りて仕事をしていました。それから、一緒に起業した彼はさらに独立し、私が1人で運営していたのですが、間もなくリーマンショックが起こり、会社存続の危機を迎えます。

この状況が半年続いたら会社をたたもうと覚悟していましたが、依頼が激減したところから3ヶ月ほどで徐々に回復していき、なんとか倒産をまぬがれました。

成長の秘訣は社員教育によるサービスの質の向上

ーー倒産の危機を乗り越え、今日まで順調に業績を伸ばされていますが、どのように事業を拡大されたのですか。

顧俊:
仕事の正確さやサービスの丁寧さが評価され、お客様のご紹介で新たなご依頼が増えている状況です。

社員の増員については、仕事量と社員のキャパシティを見ながら行ってきました。2、3人採用したら半年ほどかけてしっかり教育し、社員が職場に定着してから新規のお仕事を受けるようにしています。

こうすれば社員に適量の仕事を任せられ、お客様により良いサービスを提供できます。結果として健康的な経営ができ、長きにわたりお取引させていただいているお客様が多いですね。

ーー貴社では社員教育に力を入れているのですね。

顧俊:
ジョブ型雇用を採用している欧米の企業とは違い、日本や中国はメンバーシップ型の企業が多く、1人の社員を長く雇う傾向にあります。

どちらもメリット・デメリットはありますが、私は責任を持ってきちんと教育し、会社と共に成長してもらえるよう、最後まで社員の面倒を見たいと考えています。

ーー現在はどのようなことに注力されているのですか。

顧俊:
海外営業に力を入れていて、現地の物流会社の方にご協力いただきながら新規開拓を行っています。たとえば中国の大連やベトナム、マレーシアに拠点を置く企業に営業して、日本へ輸出する際に弊社のサービスを利用いただけるようアピールしています。

コロナ禍以降の働き方改革

ーー新型コロナウイルスの蔓延により世界的に一時経済が停滞しましたが、貴社にも影響はありましたか。

顧俊:
多くの方が外出を控えるようになり、ネットショッピングの注文件数が急増した結果、物流量が一気に増えましたね。こうした社会背景が追い風となり、コロナ禍でも売り上げを伸ばすことができました。

社員の働き方に関しては、週の半分はテレワーク、もう半分は出社してもらうようにして、出社する人が半分になるよう調整しました。

ただ、組織としての一体感が薄れてしまうことに危機感があったため、現在は全員出社してもらうようにしています。港区の今の事務所に移転を決めたのも、自宅より良い環境で社員に働いてもらいたいと思ったのがひとつの要因です。

ーーその他に貴社が取り組んでいる働き方改革はありますか。

顧俊:
昨今では定時で業務を終え、ワークライフバランスを重視する方が増えていますよね。そのため弊社でも残業はできるだけせず、コアタイムだけで業務を終えられる体制を整えています。

今後も人材を確保するためには、社会背景を考慮しながら働き方の改善が必要だと考えています。

ーーお客様とも対面でのお付き合いを大切にされているのですか。

顧俊:
そうですね。取引先の方とはビジネスの場以外での交流も大切にしています。オンライン会議システムや電話で連絡を取り合うだけでなく、直接お会いする方が密なコミュニケーションが図れると思っています。

こうして広く人脈を築いておくと、何か困ったときに相談しやすくなるので、ビジネスの面でも大きなメリットになると感じていますね。

顧社長が大切にしている思い・今後のビジョン

ーー経営者として大切にしている信条はございますか。

顧俊:
過去は振り返らず、常に前を向くよう意識していますね。現状維持は後退するのと変わらないと思っているので、毎年少しずつでも成長することを目標にしています。

ーー人材を募集する際、どのような基準で採用していますか。

顧俊:
誠実な方を優先的に採用しています。こうした方に仲間に加わってもらえれば、自然と職場の雰囲気も良くなるので、採用面接では人柄を重視していますね。

ーーこれからの展望について教えてください。

顧俊:
海運業だけでもまだまだ需要を見込めると思っているので、今ある事業に注力していこうと考えています。

また、弊社は中華料理店「創新中華名菜 GINZA沁馥園」も運営していますが、中華料理店の経営者だった祖父の思いを継いだものなので、飲食店ビジネスを拡大する予定はありませんね。

ーー今後の中長期的なビジョンについてお聞かせください。

顧俊:
ベンチャー企業のうち、30年間生存できる会社はかなり少ないと言われています。そんな中、弊社は今年で17年目を迎えます。このまま20年目を迎えられたら、経営者としてひとつの目標をやり遂げた実感が持てるでしょう。

まずは創業20周年を迎えることを目標とし、さらに創業30周年を目指して息の長い企業にしていきたいですね。

編集後記

日本に移り住んでから、中国や諸外国との架け橋として海運事業に携わってきた顧社長。

ネットショッピングの普及に伴い、運輸ビジネスの需要は今後さらに増加していくことが予想される。

海上運送において豊富な知識や経験を持つ新世紀海運株式会社は、今後も日本と諸外国との貿易において欠かせない存在になることだろう。

顧俊(こ・しゅん)/1974年生まれ、中国・上海出身。2004年城西大学卒業後、日中海運株式会社に就職。2007年に新世紀海運株式会社を設立。