※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

今まで、トラックドライバーといえば、労働時間が長く賃金も安いと言われてきた。実際、国土交通省のデータでも、トラック運送事業者の年間労働時間は全職業平均より約2割(300〜400時間)長く、年間賃金は全産業平均より5%〜10%(20万〜50万円)低いという。そこで厚生労働省は、トラックドライバーに2024年4月以降、時間外労働の上限規制を適用した。

そんな物流の変革期にありながら、近江商人の「三方よし」精神を持って、効率化を進めている会社がある。それが、ダイセー倉庫運輸株式会社だ。代表取締役社長の田中毅氏に、根底となる考えや会社の今後の構想をうかがった。

大手運輸会社での経験を経て、新たなことを生み出す楽しさを知る

ーーまずは、ダイセー倉庫運輸に入るまでの道のりを教えていただけますか?

田中毅:
大学卒業後、日本通運株式会社に入社しました。私自身に何か思いがあって入社したというよりは、父から紹介された会社なので、もしかしたら父はダイセーグループに「日本通運とのつながりを持ってほしい」という思いがあったのかもしれません。日本通運は非常に忙しい会社でしたが、4年間、仕事のやり方や仕事に対する姿勢など、社会人の基本を教わりました。

そして1998年3月、父の経営するダイセーロジスティクス株式会社、2009年に現在代表を務めるダイセー倉庫運輸株式会社に入社しました。

ーーこれまでのキャリアの中で、特に印象に残っている仕事は何でしょうか?

田中毅:
ダイセー倉庫運輸に入社した10年後の2019年には、茨城県に関東第2物流センターを新しく建設。5,000坪の倉庫を、できる限り社員の意見を取り入れながら開設しましたが、新しく何かをつくることがこんなに楽しいことだとは思いませんでした。

特に印象深かったのが、当時の社員の言葉です。弊社は、愛知県小牧市が拠点なので、私も含めて「茨城県に物流センターをつくっても、果たして(関東に)荷物が集まるのか」と心配していました。そのとき、小牧の社員が「関東ではなく小牧に倉庫をつくれば、1万坪でも2万坪でも荷物を集められる!」と言ってくれたことは心強かったですね。次は絶対に小牧に倉庫をつくろうという意気込みにもつながりました。

そして、来年の2025年。小牧の本社近くに良い土地が見つかったので、新しく物流センターを建てる予定です。すでに7月7日に竣工式を行うことも決めており、物流センターをつくれば、商売の流れも大きく変わるので、今から楽しみです。

日本の物流をつなぐ架け橋になりたい。自社事業だけに留まらない理想の構想

ーー貴社のメインの事業について教えていただけますか?

田中毅:
「ジャスト便」と呼ばれるポリマーに特化した共同配送システムです。もともと初代社長の加藤俊夫が豊田合成株式会社様から「工場周辺にたくさんのトラックが並んでいるのを改善したい」と相談を受けたことが始まりです。当時の弊社社長が開発した仕組みですが、現在まで非常に多くのお客様に喜んでいただいています。

主な方法は、各メーカーのトラックがそれぞれの製品を納めることをやめて、弊社物流センターに一旦荷物を集めて複数メーカーの製品をまとめて納品先様が必要なときに必要な数だけ届ける方法です。

他にも、入荷してきた製品を保管しないですぐにジャスト便と組み合わせることで保管費用のカットによりコストダウンを実現するサービスや、「ジャスト便」のノウハウを活かしお客様の最適な物流をコーディネートするサービスなど、お客様から求められるサービスの提供に努めています。

ーー貴社の物流範囲は主に中部地方とのことですが、今後の展望についてお聞かせください。

田中毅:
愛知県小牧市を中心に、半径約100㎞までの愛知、岐阜、三重における9つのエリアが自社配送エリアです。しかし、今後は石油化学品カテゴリーの企業の皆さまと協力して、中部地方で培ってきた「ジャスト便」を日本全国に拡大する計画を立てています。

また、トラック台数や輸送量が増加傾向にあるのに、物流事業者、ドライバー数が減少傾向にある課題を踏まえ、配車担当者同士のネットワークを弊社の配車担当がつなぎ、トラックと荷物をマッチングさせる事業も新しくスタートしました。

人間力溢れる社員が集う会社の魅力

ーー新社長としてこれから大切にしていきたい価値観や考え方を教えてください。

田中毅:
1974年に創業してから、2024年2月2日に50年目を迎えました。まさに今年がちょうど50周年なので、次は100周年を目指していきたいですね。

そのために、会長の吉田がつくった「朝起きたらすぐ行きたくなる会社」の理念を大切にしています。「インフレで物価が高い」、「労働人口が減っていく」、「コンプライアンスの徹底が叫ばれる」、そんな社会情勢であっても利益が産み出せる方法を考えていかなければ会社を継続することができません。

同じ人数でより大きな利益を上げるにはさまざまな生産性向上の対策が必要で、そのためには社員一人ひとりの知恵と力が重要です。現時点で会社としてできていないことや足りないことはたくさんありますが、社員にはそれらをむしろ「伸びしろ」と考えてもらい、現場で望んでいることを教えてほしいと思っています。社長の私も引っ張っていきますが、むしろ社員一人ひとりの意見を聞きながら、会話しながら、変化が激しいこれからの社会を一緒に乗り越えていきたいと考えています。

ーー最後に、ダイセー倉庫運輸で働く魅力について教えてください。

田中毅:
社員一人ひとりが責任を持って仕事ができることだと思います。弊社のお客様は、自動車メーカー様が多いので、ドライバーとして自分が運ばないと、あるいは物流センターの管理者として荷物を管理していかないと、自動車産業が停止してしまいます。今いる社員は、「それくらい重要な仕事をしている」という意識で任務にあたってくれています。

490名のすばらしい社員crewとともに、294社のお客様の声を聞きながら、一緒に変化を楽しんでいきたいと思います。今現場で汗を流してる人材は、正直で明るくて、親切な人材ばかりです。「宝の人財」だと常々思っています。

編集後記

社員の魅力を語りつつ、常に頭の中では効率化を考え、業界全体のことを考えている田中社長。多忙な中でも、すでに124名の社員と昼飯会をして親睦を深めたり、現場に足を運んで社員一人ひとりから話を聞いたりしているという。「社員が魅力」と話す田中社長だが、実は「田中社長だからこそついていきたい」、そんな社員が多いのかもしれない。社長と社員の距離が近く、社員のやりたいことや現場の意見に耳を傾けてくれる。そんなダイセー倉庫運輸だからこそ、物流の人手不足などといった厳しい課題に今後も立ち向かってくれるに違いない。

田中毅/1969年、東京都生まれ。1994年、湘南工科大学卒業。日本通運株式会社関東支店に入社し、東京コンテナ事業所で4年の修業期間を経て、1998年に父親の経営するダイセーロジスティクス株式会社に入社。2009年、ダイセー倉庫運輸株式会社に入社。常務取締役を兼務。2021年、取締役兼副社長執行役員を経て、2024年に代表取締役社長に就任。