三角屋根とワンカラーのスタイリッシュな物置を提供するフジ産業株式会社。同社が今までにないおしゃれな物置の提供を始めたのには、代表取締役社長の松本雄一郎氏による「物置を楽しんでもらいたい」という思いが込められている。

39年連続でイナバ物置代理店の販売施工量日本一となったフジ産業株式会社が、なぜ自分たちのブランド「マツモト物置」を始めたのか、物置業界の事情や成功の理由を聞いた。

マツモト物置を始めたのは「不毛な値引き合戦」がきっかけ

――日本一のイナバ物置代理店として確かな地位を築いていた貴社が、新たにマツモト物置の事業をスタートされたのにはどういった背景があったのでしょうか。

松本雄一郎:
弊社は「値下げしない」という強いポリシーを持っているのですが、当時はメーカーの代理店同士で値引き合戦が行われている状況でした。過剰な値引き合戦は業界を悪い方向へ進ませてしまう一方、値引きをしないと他の代理店から仕事を奪われてしまう。弊社は正しいことをしているのに、なぜ仕事を奪われなければいけないのかと苦しい時期が続いたのが大きな理由です。

ある日、小売店側に物置の組み立て工事の値下げを要請され、そのときに何もかもがばかばかしく感じました。こんなに一生懸命やっているのに、誰も認めてくれないし守ってくれない。それならもう全部自分たちで製造から配送、組立工事まで手がけて、自分たちで売れる物置の自社ブランドを始めようと思い、マツモト物置をスタートしました。

手間とコストをかけることで他社との差別化に成功

――つまり、マツモト物置では値下げは一切していないということですね。

松本雄一郎:
マツモト物置では値引きをしたことがありません。弊社以外にも代理店はありますが、どこも同じ値段なので販売側も安心して売ることができますし、お客様も安心して買うことができます。代理店は四国に1社、九州に1社など1エリア1代理店を採用しているので、代理店同士で争ったり、値崩れを起こしたりする心配もありません。つくる、組み立てる、運ぶ、売る、全部自分たちで行うのがマツモト物置の特徴です。

――商品自体の強みはどういった点になりますか。

松本雄一郎:
他社ではやらないような三角屋根とワンカラーを採用している点が強みです。たとえば他社の場合、扉の色だけなど一部分だけ色を塗れば良いので、塗装に時間があまりかかりません。一方、マツモト物置の場合はワンカラーで扉だけでなく全部色を塗る必要があるので、塗装の時間だけで通常の3~4倍はかかります。

また、三角屋根は部材の数も多くなるため、生産時間もかかり、在庫の管理も大変になります。しかし、こういった手間も厭わないのは、お客様に届ける一棟を特別なものにしたいから。他のメーカーがデメリットだと思っていることを、弊社はメリットに変えて提供できていると思います。実際に弊社が三角屋根を始めてから、三角屋根の物置を提供する会社も出てきました。

――お客様はやはり、そういったマツモト物置にしかないこだわりに惹かれて貴社で購入されているのでしょうか。

松本雄一郎:
お客様はファッションやライフスタイルにこだわりのある30代、40代の方が多いですね。SNSやインターネット検索をきっかけに興味を持ってくれた方もいますし、住宅街を歩いているときに弊社の物置を見つけて、そこから興味を持ってくれた方もいます。私はマーケティングやデザインの勉強をしてきたわけではなく、ただ自分が面白いからやってみようと思ったことを形にしてきただけなんです。そうやって自分がずっと続けてきたことが、お客様に面白いかなと思ってもらえたのではないでしょうか。

既存の物置の価格・デザインの幅を「上」に広げたい

――どういった人材が貴社では活躍できると思いますか。

松本雄一郎:
楽しんで仕事をできる人でしょうか。お客様からお金をもらうので、やはり厳しいことももちろんありますが、その厳しさの中にも楽しさを感じとってくれる人と一緒に働きたいです。

――最後に、今後どのような展望をお持ちかお聞かせください。

松本雄一郎:
物置の幅を広げたいと考えています。たとえば時計の場合、安いもので1,000円、高いもので数千万円のものがありますよね。車も同じだと思います。しかし物置の場合は、同じような大きさで同じような価格帯のものが多く、ストライクゾーンが狭いんです。私はそのストライクゾーンを壊したいと思っていて、特に価格もデザインも高い、より良いものを広めていきたいです。

私は世間の皆様から「マツモト物置はダサくなったね」と言われるようになったら、自分が大切にしてきたものがすべて崩れてしまうと思っています。そのため、世間の皆様より半歩先でも進んで、マツモト物置って良いなと思ってもらえるように努力し続けていきたいです。

編集後記

取材中、松本社長は「どんどんとやりたいことが増えてきて、いつの間にかこんなに面白い仕事は他にないと思うようになった。本当にラッキーなこと」と、自身の会社や事業に対する情熱を語った。
実際に、本社併設の展示場をはじめとして、各地の展示場は松本社長の一切妥協を許さないこだわりで溢れている。

イナバ物置の代理店日本一、そしてマツモト物置の立ち上げなど、次々と思いを形にするフジ産業株式会社が、物置業界にさらなる革命を起こすのが楽しみだ。

松本雄一郎(まつもと・ゆういちろう)/1975年東京都生まれ、日本大学卒。大手住宅メーカーに入社し営業経験を経て2002年にフジ産業株式会社へ入社。2020年に同社代表取締役社長に就任。2014年に立ち上げた自社ブランド「マツモト物置」の企画やプロモーション活動等全てに対し先頭に立ち、事業拡大に注力している。2022年には東京商工会議所主催「第20回勇気ある経営大賞」の優秀賞を受賞。